第12話 リベンジマッチ!

「待たせた。聞きたいことは全て聞けたよ」


 あの二人の尋問(というか、魔法による強制自白だが)を終えた蛍斗はそう言って、私とシルフィに親指を立てて見せた。







 ・・・それが、一昨日の話。


 そこから丸一日を下準備の仕上げに使って、迎えた今日。時間は前回と同じく深夜。


 地下への階段を下りるのも、前回と同じくあたしたち二人。理由は、ドラゴン・・・いや、夢魔に前回と同じ手順を見せることで、あたし達が夢に介入していることを悟らせないためだそうだ。


 最も、蛍斗はあまり意味はないだろうとも言っていた。


 あのタイミングでの突然のシルフィの死亡と巻き戻し。


 夢魔に充分な思考力があれば、あたしの死を避けるため、この世界の真実を知っている何者かがシルフィを殺したと気づくはずだと。そして、それはアクターの仕業以外に考えられず、それによって助かったあたしもアクターだとバレている可能性は高いと。


 それでも念のため、封印の解除までは同じ手順を踏むことに決めたらしい。


 前回と同じく螺旋状の階段を下り、最下層へ到着。


 続いて水面の波紋を確認した後、蛍斗がカッターナイフを具現化し、投げつける。


 地響きが起こった時には、既にあたしたちは階段を上り始めていた。


「はぁっ、水菜、外に出たら、はっ、予定通り、頼むわ」


 蛍斗は、息絶え絶えながらそれだけを口にすると、あとは無言で駆け上がる。


 そして、数百段を上り切って外へ。すぐに事前の打ち合わせ通り、蛍斗を担ぎ上げて屋上へとジャンプ一つで移動する。


 さほど間をおかず、地面が砕けて月明かりの下へ黒い竜が姿を見せる。


 前回同様滞空しながら、何かを探すように視線を自身の周囲へと向けていく。


 そして、その眼があたしを捕らえた瞬間、スッと細まった気がした。


 どうやら、蛍斗の予測は的中したらしい。


 ・・・まあ、あいつの予測はほどじゃないがよく当たるからなぁ。


 そして、それにわずか遅れてシルフィが号令を発する。


 あたしへ向けて口を開いた黒竜は、次の瞬間には頭部を丸太で強打されて地面へと墜落した。


「ざまぁみろ!」


 隣で蛍斗が、腰に両手を当ててドヤ顔を決めていた。


 これが、蛍斗の作戦その1。魔法ではなく、物理攻撃による奇襲。


 つまり、魔法の源である魔力自体が、鱗に弾かれるのであれば、魔法で物体を持ち上げて黒竜を物理的に攻撃しようということ。捕らえた二人の自白によると、蛍斗の推測通り、あの鱗には魔力を霧消させる効果があるらしい。ただし、それは魔力に対してのみ有効なのであって、間接的に魔法で攻撃する分には問題ないということだ。ちなみに、彼らの服もこの鱗を基とした素材で作られており、シルフィの魔法が効かなかったのはそのためだった。ついでに言うと、あたしが木こりの真似事をさせられていたのも、この作戦のために質量の大きい武器が必要だったから。さすがに一人の魔法力では持ち上げることすらできない重量なので、5人が1チームとなって、一つの丸太を動かしている。


 それが8チーム。それぞれのチームが、屋上から一階に分かれて分散し、それぞれがタイミングをずらして竜を打ち据える。狙っているのは頭部と両翼。頭部狙いは、当然竜の意識を飛ばすため。両翼を狙うのは、反撃手段の限られる対空状態からの火炎攻撃を阻止するためらしい。


 各チームが5セットずつ攻撃を終えたところで、そのまま丸太を中庭へと放り捨て、街方面へと退避を開始した。5人がかりとはいえ、この重量を振り回すのは消耗が激しいらしく、精々5回程度が限度なんだそうだ。


 そして、次はあたしの出番。フェンスのない屋上(危ないから柵くらいはつけろよと言いたいところだが、飛行や浮遊といった魔法は基本とされていて、使えない生徒のほうが少ないそうだ)から、中庭へと降下する。こっぴどく丸太で打ち据えたにもかかわらず、むくりと起こそうとしたその脳天へエルボードロップをぶちかます。(まあ、胸板目がけてではないので、正確にはプロレスにおけるエルボードロップではないが)再び、黒竜の顎が地面へとめり込む。しかし、間髪入れずに黒竜は自身の周囲へ、あの時あたしの意識を奪った放電攻撃を放つ。けど、残念だったな!


「それは対策済みだぜ、悪いがなぁッッ!」


 そう叫び、追撃の右ストレートを直下の頭部へと叩き込む。そのまま、両腕を可能な限りの速さで繰り返し振り下ろす。さながら、ロードローラーを殴る、某吸血鬼のような構図だな。


 電撃の効かない理由は、実に単純かつ理不尽。


 専属であたしのバックアップをしてくれている生徒の一人が、電気を通さないよう、あたしの肉体に絶縁の魔法をかけているんだそうだ。


 ・・・つくづく魔法ってのは便利だな、まったく。


(ちなみに蛍斗も、そんなピンポイントな魔法があることに呆れていた。だがそれ以上に、箱入りお嬢様なはずのシルフィの、限られた知識に基づいて構築されたこの世界に、自白や絶縁といった概念の魔法が存在することに感心していた。)


 50発程度のラッシュを加えたところで、一旦蛍斗とは逆の屋上へと跳びあがり、呼吸を整えつつ黒竜の様子を窺う。


 しばらくはそのまま身動きもしなかったが、前触れもなく翼を大きく打ち、空へと黒竜が舞い上がろうとする。


「させるな!撃て!!」


 蛍斗の合図で、今度は先端を尖った円錐状に加工した丸太が黒竜へと降り注ぐ。


 いや、正確にはその翼へと。これは、初手の攻撃で翼を潰せなかった場合の予備の策。


 体表なり骨なりが頑丈で、飛行能力を奪えなかった場合、翼そのものを串刺しにしてそれを封じようというわけだ。


 が、結果としてその策も失敗に終わった。


 丸太は刺さらなかった。


 先端は充分に鋭角で、角度や速度も申し分なかったが、それらは机に先端から落とした鉛筆のごとく、黒竜の翼に当たり、しかし貫くことはなくそのまま地へと倒れ落ちた。鱗の防御力が想像以上に高かったらしい。


「最終プランに移行!総員撤退!!」


 即座に蛍斗が声を張り上げ、期待した成果が得られず動揺していた生徒らも、我に返ってその場から散り散りに逃げ出し始める。


 あたしも校舎から外へと飛び降り、学園の外、城下町の方向へと駆け出した。

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