第11話 再チャレンジ!・・・でも、その前に?

 三人で今後の方針を話し合った翌日から、早速あたし達は行動を開始していた。


 この数日、最も活発に動いているのはシルフィで、各所への根回しや情報収集などに大忙しのようだ。一方で、あたしや蛍斗は生徒会をはじめとする面々と顔合わせしたり、友好を深めたりといったことしかしてないけど。


 前回と違い、今回は蛍斗も生徒会の面子とはうまくやっている。本人曰く、今回はハンデがなかったから当然と言っていた。シルフィの口添えもあって無事に生徒会入りし、見回りなどを手伝っているようだ。


 そしてあたしはといえば、ここ三日間の空き時間、城壁外の林でひたすらに木を切り倒している。チェーンソーがなかった為、仕方なく斧での作業になっている。ただでさえ効率が悪いのに、今日だけで既に3本目。肉体労働は能力的にも性格的にも苦手ではないが、ここ数日同じ作業な為いい加減飽きが来ていた。倒した木の天辺、葉が茂っている部分の枝を切り落とし、幹から生えている枝葉も全て取り除く。そうして作った粗雑な丸太が、もうすぐ10を超える。それで頼まれていたノルマは達成、あともう少しだ。あたしは、重い体を動かし、次の良さげな木を探して林を進んだ。











「おう、お疲れ」


 夜、蛍斗の部屋で作業が完了したことを告げると、そんなぞんざいな労いの言葉を返された。ったく、こっちは木こりなんて慣れない真似をさせられて、心身ともに疲れてるってのに。


「しっかし、あんなので使えるのかねえ」


「さらに加工すればそれなりのモノにはなるだろう。ギリギリまでは林の中へ放置だが」


「放置しといて見つかったら、騒がれるんじゃないのか?」


「その心配はねえよ。そもそも、この城の周りをぐるりと囲むようなあの林は、この夢の世界の終端だ。ゲームで言うなら行動範囲を区切るためのオブジェクトのようなもんだ。この夢の登場人物は、あの林へ自発的に立ち入るような行動ルーチンは持ってないさ」


「・・・確かめたのか?」


「リセット前に、七不思議探索をしていた時についでにな。林をひたすら進んでたら、透明な壁にぶち当たったよ」


「てことは、遠くに見える山なんかはただの背景なわけか」


「ま、そういうこった」


「へぇ、よくできてるのね」


 ここまでの会話で口を開かなかったシルフィが、ポツリと漏らした。


 あたし達は毎夜、互いの作業の進行状況の報告や手に入った情報を交換するために、蛍斗の部屋に集まっていた。

 こんなところを他の生徒に見られたら、面白くない噂が流れるに違いない。


「そりゃ、夢を見てる人間に違和感を感じさせるわけにはいかないからな。ちなみに、世界の広さは夢魔の力が強いほど、広くなる傾向がある。つまり、シルフィに憑りついている夢魔は、本来の力は指して強くないってことだな」


「力が弱いから、私はこれが夢だと気づくことができたってことかしら?」


「それは個々の才能の問題だな。夢魔の力の大小はそれには影響しない。そもそも、夢魔の力の大小はどれだけ人間からエネルギーを吸い取ったかなんだが、それが影響するのは、夢の規模くらいだ。つまりどれだけ広い世界、どれだけ多くの登場キャラクターを用意できるかだな」


「その結果、リアリティが出て、そこが夢の世界だと気づきにくくなったりするんじゃないの?」


「それは大きな誤認だな。そもそも、夢を見せられている人間は、本来は夢魔に暗示のようなものにかけられて、他の登場キャラクターのようにふるまってしまう。・・・いや、これだと語弊があるな。元の現実での知識や経験といった記憶を全て失くし、その夢の舞台にふさわしい記憶や能力を与えられる。今のシルフィの魔法や、この世界の物語がスタートする以前の記憶のようにな」


「たしかに、生徒会のみんなとお泊り会をしたとか・・・。不思議な言い回しになるけど、があるわね。」


「で、その偽りの記憶を基に、そいつはその夢の中の世界で行動する。つまり、実質は与えられた脚本を基に行動をさせられているってわけだ。・・・ここまではいいか?」


「ええ、だいたい把握出来たわ。当の、夢を見せられてる本人でもあるし」


「で、その夢の世界ってのはその夢を見せられた人物・・・まあ仮にAとでもしようか。Aの理想を叶える世界なわけだ。それが叶えば、この夢の世界からは抜け出せるってのは以前話したよな?」


「覚えてるわ」


「だが、夢魔はより多くのエネルギーをAから吸い取りたい。つまり、Aの望みにつけ込んでそれを実現できる夢を見せはするが、Aの理想は叶えたくない。どうするかといえば、望みが叶わないようにそれを妨害するわけだ。望みが成就しないと察した時点で、Aは無意識に夢の世界のやり直しを強く望む。すると、それに応えるように世界はリセットされ、再びAはそれまでの記憶を失ってもう一度、最初の状態へと戻る。ちなみにこれは、Aが夢の中で死んだ場合も同様だ」


「そして、同じ結末を辿り、再び世界がリセットされる流れが繰り返されるのね。」


 自分が蛍斗に殺された時を思い出したのか、表情に苦みを混ぜながらシルフィがそう返した。


「そういうこった。その繰り返しでエネルギーを吸いつくされたAは、おそらくそれが原因で精神を壊されて廃人となるわけだ。無限ループって怖くね?ってやつだな」


「・・・ということは、既に私が前回と違う行動をしている時点で、夢魔には自身が作り出した世界に異物が混じっていると向こうも気づいてるってことかしら・・・?」


 シルフィが、不安顔を浮かべながら、なかなか鋭い指摘をして見せた。頭の回転だか、情報の飲みこみだかは早いらしい。蛍斗も感心した表情を浮かべながら、疑問に答えてやっていた。


「正解。普通であれば、シルフィがことなり、俺たちが介入していることなりが露見して不利になるところなんだが、今回はレアケースだな。奴さんは地下に封印されているから、今の俺たちの動きは知覚していないはずだ」


「ああ、なるほど!ならひとまずは安心ね」


 シルフィが納得して、表情から曇りがなくなったところで、蛍斗が解説を区切り、飲み物に口をつける。今日はミネラルウォーターを手に持っている。ちなみに、こいつはコーヒーや紅茶を好まなかったりする。味覚も精神と同じく子供だってことだ。


「・・・ふぅ。で、話を少し戻すと、夢魔は夢から得たエネルギーを基に仲間を増やすわけだが・・・。その方法は簡単に言えば、自身を蓄えたエネルギーごと二分して、自身のコピーを作り出すみたいだな。微生物の分裂に近いらしい」


 で、ペットボトルの残りを一気飲みして一息つくなり、今度は別の説明を開始する。


 ちなみに、いい加減なように見えて、こいつは説明や解説にかけては非常に丁寧なことに定評がある。


 ・・・ただし、自身の気が乗った時だけだが。ついでに、時々丁寧すぎて胸焼けしたりもするが。


 シルフィは、長々と続く説明を苦にもせず、積極的に質問を重ねていく。


「夢魔を夢の中で倒した場合は、その夢魔はどうなるの?」


「取り込んだエネルギーごと、跡形もなく消滅するんだとさ。ちなみに、夢の世界に与えられた目標を達成した場合。つまり、憑りつかれた人間の望みが叶った場合でも夢魔は消滅するそうだ。その場合、取りこんでいたエネルギーは、消滅するのではなく夢の中の世界に霧散する。で、憑りつかれた人間に才能があった場合、そのエネルギーを自身に取りこんで、俺や水菜のような存在になったりすると言われている」


「なるほど。なら、二人はそうやってアクターになったってわけね?」


「あー、あたしはそのパターンとは少し違う」


 蛍斗にを言わせないために、先手を取ってその推測を否定する。シルフィを正面に捉えた視界の端で、蛍斗があたしに向けて小さく肩をすくめて見せた・・・ような気がした。もしそうなら、それは感謝だったのか、それとも・・・。


「あたしはシルフィと一緒で、夢の中の世界でそこが夢だと気づいたパターンだ。研究者が言うには、魔力への適合性?いや、感受性?いや、抵抗性だっけ?・・・まあいいや、そういうのが特に強いと、そういうことが起こるらしい。」


「ちなみに、そういう人間ほど個性的な能力だったり、強力な力が使えたりするらしい。研究員曰く、そういった人間は例外なく魔力を多く保有していて、その分夢に強く干渉できるらしいぜ。まあ、まだ魔力って代物自体が未解明の塊だけどな。そうそう、夢魔から直接精神干渉を受けた場合にも、より強い抵抗力を持つんだとさ」


 蛍斗が説明を付け加えてくれた。


「つまり、私がアクターになれれば、水菜のように強い力を持つことができるわけね!?」


「ああ、まあそういうことになるかな。無論、夢の中限定だけど。あと、あたしやシルフィのパターンだと、高確率で体内に魔力を保有できる。要は、アクターとして目覚める確率が高いってことだな。」


「この夢から無事に抜け出せればだけどな」


 何故か、少し舞い上がっているシルフィを軽くたしなめるように蛍斗がそう付け加える。


 もしかしたら、昔のあたしのように異能の力といった非現実的なものに憧れているのだろうか。


 まあ、あたし達にとっては、その非現実こそが現実なわけだが。


 ・・・いや、夢の中限定なのだから、現実というのは違うのかもしれない。


「そうだったわね。ところで、こちらで掴んだ情報だけど、例の不審人物の情報、ぽつぽつだけど上がってきてるわよ」


 らしくなく、蛍斗のような無駄な思考に沈みかけているところで、シルフィがふと思い出したようにそう告げた。不審人物とは、前回あたしとシルフィに襲い掛かり、蛍斗が返り討ちにした二人組のことだ。


「そうか、それを待ってたんだ。もし、遭遇するようなら必ず生け捕りにしてくれ。手足千切ろうが、眼球潰そうが、必ず生かして捕らえてくれ」


「過激な発言ね。・・・ともあれ了解してるわ。生徒会のみんなにも伝えてあるし、有志の見回りを募るときも、ちゃんと徹底させるから安心していいわよ。」


「頼む。あの二人組には、確認しときたい疑問があるんだわ」


 尋ねたいではなく、確認したい。つまり、既に蛍斗の中では疑問への答えが出ているが、その推測が事実なのかどうかを、念のため確認するということなのだろうか。


「いや、確証は全くないんだけどな。半分は想像でできています、残りの半分は事実からの推測でできていますってところだな」


 蛍斗に尋ねてみると、何かの宣伝で聞いたような答えが返ってきた。


「事前準備の総仕上げは、そいつらから情報を引き出してからだな。俺の推測が正しいと、手数が増えていいんだが・・・」


 最後に蛍斗が呟いて、その日は解散となった。


 件の二人組と遭遇したのは、それから四日後のことだった。

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