第6話 そしてようやく幕が上がる

 中庭での一件から、さらに一週間が経過した。


 相変わらず状況に変化は見られず、あたしと蛍斗は学園での無為な時間を過ごしていた。


 それでも、夢魔の特定のため、また状況の変化をいち早く察知するためにも、あたしたちは気を抜くわけにはいかなかった。


 ・・・いや、蛍斗の奴は告白の件いらなかったじゃねえかとかぶつぶつ言って、あまり気を張ってはいなかった気もするが。とはいえ、あんなのでもあたしたちのリーダーであり、いざというときの判断は的確なため、なんやかんやで信頼はしてるんだが。





 ちなみに、シルフィとはあれ以来打ち解けて仲良くなれた。箱入りのお姫様と聞いていただけあって、あの子は私たちの日常の話を好んで聞いていた。もちろん、今後の展望や夢魔なんかについても知識や意見を交換していたが、結局のところ、状況があまりに動かないために、気がついたら雑談に花が咲くということも多かった。それでも、シルフィはあの日以降、積極的にあたしたちへ協力してくれており、生徒会メンバーにも普段の見回りについて細かく指示を出し、その報告を受けてはこちらにも情報を流してくれていた。


 それ以外にも、学園について知っている限りの情報をくれた。


 学園の各種施設についてや、魔法実技において特に実力の高い生徒のプロフィール。学食の美味しいメニューから、街でのおすすめスポット、挙句は学園での七不思議までと、役に立ちそうな情報から完全に趣味嗜好の域の話まで内容は幅広かった。


 休日や放課後には、実際に二人でおすすめのスポットに寄って、景色を楽しんだり食べ歩きをしたりしては、動かない世界への退屈や焦燥を紛らわせていた。


 一方で、蛍斗はそれらには参加せず、七不思議を調べてみるといって、人がいないのに鳴る音楽室の楽器やら、異世界へと続く鏡やら、夜にだけ現れる地下への扉やらを実地へ赴いて検証していた。


 「どうせやることもないし、手がかりもないなら、ダメもとでやってみるさ」


 なんて言っていたが、実際のところはあたしたちと(というか、たぶんシルフィと)行動することが照れくさくて言ってるんじゃないかと、あたしは予想している。もっとも、かれこれ十年以上の付き合いだが、未だにあいつのことは分からないので確信も持てずにいるのだが。








 そんなこんなで、いい加減あたしたちのフラストレーションも限界に近付きつつあったある日、ようやく舞台が動き始めた。


 生徒や街の人達から、見慣れない人間が学園周辺をうろついているという情報が相次いで上がってきた。


 シルフィとあたしたちは、より情報を集めるべく、見回りを強化。生徒会のみでなく、一般生徒からも有志を募り、こちらは三人一組で街や学園内の警戒を行わせた。しかし、蛍斗は逆に生徒会に顔を出さなくなり、あたしにも連絡をとらずに、単独で動くことが多くなった。もともと、単独行動の方が好みの上、得意な奴だが、こういう時くらいは協調性を持てと言いたくなる。・・・というか、せめてあたしくらいは頼りにしてくれてもいいのに・・・というのが本音だったりするんだが。


 ともかく、それからさらに二日が経ち、事態は坂を転がるかのようにさらに加速していく。


 見回りに出ていた、有志の班の一つが、不審な二人組を見かけ、これを問い詰めようとしたところ、いきなり攻撃を受けたという。


 二人組は拳銃で武装しており、さらに魔法による反撃を受け付けなかった。以前シルフィから聞いていた、実戦に強い生徒もその有志の班に混ざっていたのだが、魔法が彼ら(体格からして、女性には見えなかったという)に干渉しようとすると、途端に効力を失ったのだとか。


 二人組は、三人を麻酔弾で眠らせると、姿を眩ませたという。


 サイレンサーがついていたようで、付近で銃声を聞いたものはいなかった。





 あたしとシルフィは、その二人組をこの夢のキーパーソン兼、夢魔の候補として捕縛することで合意した。


(ちなみに、こんな時でも蛍斗は行方不明で連絡もつかなかった)


 それから、あたしはシルフィと共に夜の町や学園を見回っては、明け方に帰って仮眠。そして、寝不足の頭で授業に出るという、文字通り頭の痛い日々を繰り返していた。夢の中なのに睡眠が恋しいというのもおかしな話だと、二人して笑ったものだった。


 そして、そんな生活を始めて四日目。ついに、あたしたちの前に件の男たちが現れる。


 午前3時を回ったばかりというところ、あたしとシルフィは睡魔と疲労を紛らわせようと、雑談をしながら学内を見回っていた。そして、ある曲がり角を曲がろうとした瞬間、側頭部に衝撃を受け、次の瞬間にはあたしは床に転がっていた。どうやら、こめかみを横から殴られたらしい。軽い脳震盪の中、うつ伏せの状態から起き上がろうと顔を上げると、地面に仰向けに倒れたシルフィが見えた。向かって右側の男の拳銃からは硝煙が漂っている。シルフィが撃たれたと脳が認識した途端、あたしは衝動のままに立ち上がり、その男へと拳を振り抜いていた。あたしの拳は敵の顎を打ち抜き、その男は倒れた。しかし、もう一人の男はその隙に三歩ほど距離をとり、あたしへ銃口を向けた。躊躇いなど微塵もなく引かれる引き金。咄嗟に頭を庇った腕に数発の弾が当たる。普通の銃弾にしては衝撃が軽いなと思っていると、急に全身の感覚が薄くなっていった。どうやら麻酔弾らしいと分かった時には、既に立っていられない状態だった。意識が朦朧とし、膝から崩れ落ちるように床へと倒れる。意識だけは失うまいと、かろうじて開けていた目に、男の背後から金属バットを振り下ろす蛍斗の姿が映った。それを見て安心したのか、あるいは限界だったのか、あたしは意識を手放した・・・。

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