第15話 蝶
お嬢様の護衛が終わった日の晩、私はお嬢様に呼び出された。
コンコンと重厚な扉をノックすると、メイドが中から開けてくれた。
「失礼します」
私は先日と同じようにお嬢様の部屋に入った。
お嬢様は自室にある大きな窓から月を眺めていた。
寡黙な少女は持っていたティーカップに口をつけて少し飲んだ。
「あなたに渡したいものがあるの」
お嬢様は言う。
「お嬢様が言葉を……」
使用人の一人が驚いたように口元を手で隠して言った。
お嬢様はそんなこと気にもしていない様子で、ティーカップを側にあったローテーブルの上に置き、部屋の奥にあるドレッサーの引き出しを引っ張った。
「あなたも夢を見るのね」
「夢、ですか」
「ヨルの夢よ」
なんとなくそんな気がしていた。
私の夢に出てくる少女も灰色の髪をしていたから。
ゴソゴソと音を立てて何かを探しているのがわかった。
「私たちは夢に導かれし者」
そして目当てのものを見つけると、丁寧に、小さな両手でそれを私に差し出した。
青い蝶の髪飾りだった。
「ヨルを探してあげて。この蝶がきっと役に立つわ」
そう言ってお嬢様が髪飾りにふうっと息をかけると、まるで命を取り戻したかのように蝶は羽を広げ、ひらひらと舞い始めた。
ひとしきり舞った後、蝶は住処を得たように私の髪に止まった。
「その子、息を取り戻したのは十年振りなの。ちゃんとナビゲートできるかしら」
お嬢様は小さな口でそう言って笑った。
私は自分の灰色の髪に止まった真っ青な羽の蝶を見た。
どう見てもただの髪飾りなのに、お嬢様がそうしたみたいに私がふうっと息をかけるとまたひらひらと遊ぶように飛ぶのだ。
そして蝶は私が進むべき道がわかっているかのように進む。
「国を護って」
「国を?」
「そうよ。ヨルはこの国の破滅を望んでいる」
「どうして?」
「それは彼女に訊きなさい」
お嬢様は笑みを湛えて言った。
「聖剣リアムの真の力が試されるわ」
そして部屋のドアがひとりでに開く。
「さあ、お行きなさい。早く行かなきゃ手遅れになるわよ」
「手遅れ?」
「そう、手遅れ。私たちの世界が変わってしまう前に、さあ、行って」
私はお嬢様の言われるがままに進んだ。
今宵は満月だった。暗い夜道を月の光が照らしてくれる。
道に迷えば蝶に尋ね、そしてまた進む。
長い道のりの末、辿り着いたのはこの太陽の国の中心部だった。
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