第4話 始まり
街が一望できる小高い山にやってきた。
少年は私が運んできても途中で目を覚ますことはなく、依然として眠っているままだ。
私は赤い箱に納められた翡翠色の玉を見つめていた。
箱の淵を指先で優しく撫で、そっと目を伏せた。
「私を探して」
”誰か”が私に囁く。
「ここに七つの玉が揃う時、約束は果たされる」
夢の中の”誰か”を思い出して、私は箱の蓋を閉めた。
「お、かあ、さん」
ふと声が聞こえ、私は草むらに横たわる少年を見る。
「起きたか」
「お母さん、は?」
「死んだ」
「どうして……」
「お前の母には呪いがかかっていた。死の呪いが。誰にも解けぬそれは、最早運命としか言い得ない」
冷めた口調で言い放つ私に、少年は掴みかかった。
「どうして……俺のお母さんが……!」
少年は私の腰に差してあった短剣を引き抜き、私の喉に当てる。
私はそれを咎めることなく、静かに「ごめんね」と言った。
「私に死者は救えない」
私だって悔しかった。悲しかった。
人の死に触れるのはいつだって突然で、心が痛くて、痛くて痛くて、仕方なくて。
どうしようもないことなどわかっているのに、理解はできなくて、
どうやったって抗えぬ現実から目を背けたくなる。
絶望するのだ。喪失感に襲われて涙が止まらなかった日が私にもあった。
そう、今の少年のようにーー。
少年の手から短剣がこぼれ、地面に転がる。
「俺にはお母さんしかいなかった」
少年はずっと泣いていた。
彼にとってどれだけ母が大切であったかを途切れ途切れの声で語りながら。
私はずっと少年の声に耳を傾けていた。なんだか申し訳ないような気がした。
”あの人”なら少年を違う形で救えたかもしれない。無力な私には少年の嗚咽をただ聞くことしかできない。
ひとしきり泣いた少年がふらりと立ち上がる。
「お前、これからどこに行くんだ……?」
彼の真っ赤になった目が痛々しい。
「私は旅を続ける。リアムはこれからどうしたい?」
「リュカについて行く。俺には今頼れる人がお前しかいない」
「わかった。私は勝手に進むからリアムは勝手についておいで」
少年はこくりと頷いた。
革の手袋に包まれた私の手をそっとリアムが握る。今日だけは甘えさせてあげよう。
そう思って握り返した。
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