VOL.6



『お待たせしました・・・・』

 ラブホテルの一室で俺が待っていると、

”彼女”は定刻かっきりに現れた。

 歳は四十代前半、化粧も服装も地味だが、どこか上品さを漂わせている。


『”さつきさん”だね?』俺は控えめながら、それでも低音を効かせながら、認可証ライセンスとバッジを出して彼女に見せた。


『え?』

 彼女はまだ状況が確認できていないらしい。俺の顔と認可証を代わる代わる見て、やっと言葉を発した。


『あの、私、逮捕されるんですか?』

『勘違いするな。見ての通り、俺はただの探偵だ。あんたらが何をしようと関係はない。事務所の場所を教えてくれ。それさえ聞ければいい』




『もしもし・・・・はい、「扇」です。お電話有難うございます。初めて?どんなタイプがご希望で?はいはい、30代、スリムでお色気たっぷり?待ち合わせ場所は渋谷の?分かりました。すぐに向かわせますので』


 狭いマンションの一室から、愛想の良い男の声が聞こえる。


 俺がドアをノックすると、


『はい、それじゃそういうことで、はい、30分後に』


『誰だ?』


 急に声の調子が変わった。


 ドアを開けると、そこはなんてことのない事務所で、机が二つと椅子、そしてカウンター。

 そして、その向こうにはアコーディオンカーテンで仕切られた部屋があり、そこから明らかに、男と女のものと思われる、押し殺したような声が聞こえてきた。


 机の前に腰かけて電話をかけていたのは、派手なペイズリー柄のシャツにオールバックの、いかにも”その筋の下っ端”という感じの30代前半くらいの男だった。



『誰だね、あんた?』


 男は受話器を置くと、如何にも胡散臭そうな目で俺を睨む。


 俺は何も答えず、認可証ライセンスとバッジを提示した。


『探偵か?』


 俺は黙ってうなずき、シナモンスティックを取り出してくわえた。


『悪いが、旦那、ここは禁煙なんでね』男は目で壁に貼りつけてある、


『NO SMOKING』の文字を顎で示す。


『英語ぐらいは読めるさ、』


 音を立てて端をかじってみせた。


『・・・・で、探偵屋が何の用だね?ここは関係者以外立ち入り禁止なんだが』


 間仕切りの向こうの声は、ますます高くなる。


『聞きたいことがあってね。それを聞いたら退散するよ。』


 男が机の引き出しを開け、手を中に突っ込む。


 だが、それよりも早く、俺はカウンターを飛び越え、男の手を引き出しごと押さえ、特殊警棒を抜き、奴の肘の内側を思い切り打った。


 男は苦痛に顔を歪ませ、

『や、止めてくれ、腕が・・・・』と叫ぶ。


 俺が引き出しから手を放してやると、奴は椅子ごと床の上に倒れた。


 引き出しの中に入っていたのは、モーゼルHSC。


 俺は拳銃を取り上げ、弾倉を外して弾丸を抜き、机の上に投げ出した。


『何だ!?うるせぇな!』


 いきなりアコーディオンカーテンが開き、ズボンのベルトを締めながら、上半身裸で、ワイシャツだけを羽織った男が出てきた。50ぐらいで背が低く、小太りのお世辞にもハンサムとはいえない。


『き、貴様!』


 男は叫んで、背中に手を回し、今度はマカロフを取り出そうとしたが、結果は同じだった。


 数分後、俺は50男をねじ伏せていた。


『分かったよ・・・・あんたの勝ちだ・・・・何でも喋るから・・・・』妙に弱弱しい声を上げる。


『”ハヤミ”ってフランス料理店のオーナーシェフについて聞かせてくれ』


 俺が腕を緩めてやると、男は床の上に座りなおして、


『あの男、最初はリズからクスリを買ってたんだよ。媚薬を使って女をモノにするため目だとか言ってたな。しかし、それじゃ足らなくなって、奴はもっと欲しいってことになって、ここへ直接来るようになった』

『その見返りで、お前らは女を回して貰ったんだな?』

『ああ、そうだ。この節、いい女がいねえと商売が回っていかねぇんだ。こっちも背に腹は代えられねぇ。そこで”クスリ”を大量に分けてやるのと引き換えに、女を回して貰ったんだ』


『媚薬か?』


 奴はごくりと唾を飲み、首を上下に振った。


『で、今回の”味見”は隣にいるんだな?』


 俺は立ち上がると、3分の1ほど開きかかっていたアコーディオンカーテンを全開にした。


 そこにもソファがあり、シックな花柄のワンピースを乱れさせた若い女が横たわっていた。


 視線は定まっていない。


 あられもなく足を開き、下着は膝まで下げられている。


 その女性が誰であったか・・・・賢明な諸君にはお分かりの事だろう。


 









 





 


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