第7話 町の闇を覗いてみた
国のあちこちを転移でマッピングしつつ、散策しているとスライムを数匹見つけたので1匹は核を自分の魔力で染めて戻してみた。
うっすらと発光しているような気がするが、そこまで大きな変化はない。そのスライムを隠し部屋で増やしていくことにした。
お世話はスライムたちが勝手にやってくれるだろう。元々手は掛からないからね。
そう思っていたのだが、増えたらスライムの粘液と核を取り出すことを伝えておいたら、知らないうちに作業をすべて完了してくれていた。
樽詰めのスライムの粘液と樽詰めのスライムの核。きちんと仕分けされており、どんだけ仕事できるんだよと突っ込みたくなったが、優秀すぎてびっくりだよ。
こうして採れたスライムの粘液とスライムの核だが、テイムしているスライムだからなのか通常のスライムの核より味が濃い気がする。
しかしスライムの核ってなんで美味しいんだろう。魔石も同じだけど硬くて食べられないし。不思議だなと思う。
魔石ってそもそも何なのだろう。魔力の塊という考えでいいのだろうか。そうすると魔石って実は作れたりしてと思いついたら即実行。魔力を練って圧縮しながら丸めていく。
魔力をどんどん追加して圧縮していくと魔力が100位を越えた辺りから見た目に変化が出てきた。うっすらと色づいて粘度が上がってきたのだ。更に続ける。
魔力量が300になったときに、スライムの核のような小さな飴玉のようなものが出来た。
口に放り込むとスライムの核よりもずっと甘くて濃縮された魔力が失われた魔力を満たすのを感じた。
300使って300戻しただけの状態だけど、これは画期的だ。最近マッピングもほとんど終わりかけていたので、魔力を消費するのが難しくなるだろうと思っていたところだ。
最近では魔力が増えすぎて消費するのが大変だった。転移はかなり消費するので効率がよかったけれど、マッピングできるところはもう限られている。
スパイ・テントウ君が近づけない場所と言うのがあるからだ。遠くなのに、矢が飛んできて破壊されたり、魔法で壊されたりしたこともありその周囲には行かないようにしている。
というのも獣人族が住んでいる集落近くや魔族の集落の近く、エルフの住んでいるとされる森の周辺やドワーフのすむと言われている鉱山はだめだったのだ。
感知されたらしくことごとくスパイ・テントウ君が破壊された。危険なのでそれ以外をマッピングして回っていたのだが、国はとっくに終わっていたし、隣の帝国もすでに終わって島々や小さな国などの調査もあらかた終わってしまったのだ。
ちなみに食べ物の分布図や特産の情報なども集めているので腕輪はかなり便利なものになっていた。当然そういった場所に転移して、作物を掻き集めてきたのはお約束だ。
おかげで山に自生していた米っぽい作物なんかも見つけることが出来た。食べたらちゃんとお米だった。
これらをカラースライム君たちに渡しておいたらきっと増産してくれることだろう。例の隠し部屋は今ではなんと5階層にまで増築している。
作物の種類も増えて、空間もかなり拡張している。一種の産業としてスライムたちが頑張って働いている。あまりにも人間っぽいスライムたちに感謝を。
そしてここまで便利になった腕輪の機能。今後はテントウネットと呼ぼうと思う。あらかた調査が終えたテントウ君たちは今後も巡回して情報を収集してくれる。
常に新鮮な情報が手に入るというある意味この世界の情報通になった気分だ。気にならないと調べようがないので私一人だと宝の持ち腐れになってしまいそうなのだが。
とはいえ、魔力を圧縮して取り出しておけることが分かってよかった。これからは消費が簡単になる。
溜めておけば魔力回復薬の代わりにもなるだろうし。ラッキーだ。今後はチマチマ作っておくとしよう。
――――…
リーベルの町は今日も賑やかで人の往来が多い。店の客寄せの声があちらこちらから聞こえてくる。
最近ではスライムの核が結構沢山溜まってきていたので思い切って冒険者ギルドで売ってしまうことにした。ギルド員ではないので討伐代金は上乗せされることがないのだが、かなり上質で崩れても居ない綺麗な核というのは珍しく、通常なら10個で銅貨1枚のところを銅貨3枚で買い取ってもらえた。
売る用に100個もの核が溜まっていたので樽ごと販売し、銅貨30枚分になった。
ただ同然のスライムの核が銅貨30枚つまり3,000円と化けてちょっとしたお小遣いみたいだ。
ちなみにスライムは1日に分裂して2匹になる。いつの間にかスライム部屋は養殖専門部門が出来ていてテイムした普通のスライムがリーダーのようになっている。
部屋の都合上養殖場で飼えるスライムは20匹。リーダー監修の元スライムたちは日々20匹分のスライムを処理している。
そういう事なので100個は5日もあれば余裕で増える。1週間で120個の核ができ、保管用の20個を除いて販売することにしたのだ。
店を出しても良いのだけれど、流石に私がやるわけにはいかないしね。
ちなみに今の私は銀髪で青い瞳の男の子になっている。髪を後ろで軽く結んで動きやすい服装を選んで着ている。
銅貨を収納してふと見ると、私と同年代くらいの子供が、思いつめたような表情で走り出すのを見た。
「待って!!」
「わっ!」
ぶつかりそうになる所で思わず手を掴んだ。
「あん?」
強面のおじさんが舌打ちしながら後ろを振り向く。
「えっと、なんでもないです。ほら、行くぞ!!」
「え、ちょっと待って。やだよ。」
嫌がる子供を引っ張って路地の方に歩いていった。何をしようとしたのかは明白だった。
「お兄ちゃん!!!」
「…シェリー。出てきちゃダメだろ。」
「だって。お兄ちゃんが…」
路地に入ると小さな女の子がお兄ちゃんと泣きながら抱きついてきた。
赤い後ろ手に無造作に結んだ髪が揺れる。ぼろぼろの服は茶色にくすんで元の色が分からないくらい汚れている。
兄と呼ばれた子は妹の肩まで伸びた赤い髪を撫でながら宥めている。妹の兄と同じ茶色の瞳が涙で溢れている。
きっと心配していたのだろう。兄の名はライリー、妹の名はシェリーといった。
二人は親を亡くし、住む場所も引き取り手もなかったため、そのままスラムの住人となった。空腹に耐え切れない妹になんとか食べるものをとスリに手を染めていたらしい。
しかし、今日は相手が悪い。彼が狙った相手は奴隷商に繋がりのある男だった。ちなみに情報の出所はスパイ・テントウ君。最近ではこういった情報も集めてきているらしい。
優秀すぎて涙が出そうだ。
私が彼の邪魔をしたことでお金を得ることが出来なかったと文句を言うライリーに先ほどの銅貨を10枚渡した。
「なんだよこれは。」
「見て分かるだろ、銅貨10枚だ。」
「そうじゃなくて、施しなんていらねぇぞ!」
喧嘩腰にどなるライリー。
「施しじゃない。僕もお腹が空いたからね。これで買えるだけのポポルの実を買ってきてよ。」
「はぁ!お前馬鹿なのか。ポポルの実なんて食えねぇぞ。」
呆れたようにいうライリー。ちなみにポポルの実はジャガイモと同じようなもので、家畜の餌として売られている。
毒があることがあり、人向けの食材ではないという扱いなのだ。あんなに美味しいのに。
しかもかなりの安価で銅貨1枚で8個くらい買える。芋は腹持ちも良いしお腹に溜まるだろう。
「家畜が食えるなら、人も食えるだろ。」
「あぁ?ふざけんな!毒が入っている家畜の餌なんて食えるか!」
「はぁ、文句言わずに買ってこいよ。」
抗議するライリーの尻を物理的に蹴飛ばしてさっさと買ってくるように再度告げる。文句を言いながらも買いに行くライリー。
ポポルの実にしたのは理由がある。料理をするにも材料を亜空間収納から出すのを見られるのは困るし、家畜の餌なら盗まれることも狙われることもないので安心だ。
毒だと分かっているものを奪う愚か者などこの辺りには居ない。
シェリーにスラム町で広い場所を教えてもらう。ちなみにその場所を使うにはこの町を取り締まっている親分的な存在に借りる許可を得ないといけないらしい。
親分の住んでいる場所はスラム町の奥まった場所にあった。チンピラ風警護が居るよ。ヤクザの親分的なイメージでいいのだろうか。うーん。
子供に許可なんてくれるかしらと思いつつ、スキンヘッドの厳つい警護の男に声をかけた。
「ねぇ、おじさん。広場を使いたいんだけど。」
「あぁん?」
「偉い人に許可取らないといけないんでしょ。」
「お前みたいなガキに付き合う暇なんてねぇ。とっととママンところに帰りな。」
「む。広場を貸して欲しいから偉い人に会わせてよ。勝手に使ったら怒るんだろ。」
やはり警護の男は子供相手だと舐めてかかって追い返そうとした。声を張り上げ言い合っているうちに中から癖のある金の髪を掻きあげて若い男が姿を現した。
「なにを騒いでいる。」
「はっ、これはレオナード様。申し訳ありませんこのガキはすぐに帰らせますんで。」
「だから、僕は帰らないぞ。広場の使用許可をくれって言っているだけじゃん。」
「………。」
深い緑の瞳が私を見て何とも言えない顔をした。
「おいガキ。いい加減にしろ!」
「いや、いい。」
スキンヘッドの男をレオナードと呼ばれた男が制した。
「しかし、レオナード様。こいつガキですぜ。」
「俺が良いと言った。文句は無いだろ。」
「はっ。」
くいっと顎だけで中に入るように指示されたので大人しく付いていく。言い合っているだけだったのに親分自ら出てくるとはフットワーク軽いな。
部屋の中はぶっちゃけ汚かった。色々と片付けたい衝動を抑えつつ、広場で飯を作る許可を貰いたいことを告げる。
ちなみにシェリーは親分の住んでいるところを教えてもらったところで、広場でライリーを待つように告げた。
こんな強面が多そうなところに連れてくるわけには行かないからね。レオナードと名乗った男はお茶を一口飲んでカップを置いた。
しばらく沈黙した後、周りに居た者たちを下げさせた。レオナードの後ろに立っている護衛らしき男は梃子でも動かなかったけど。
周囲に人が居なくなったことを確認したレオナードは徐にここは貴族の遊び場ではないと告げた。
きょとんとした私を見て大きくため息をつく。
「スラムの人間に施しを与えてもその時だけだ。無意味なことは止めろ。」
「施しなんて思ってない!」
貴族であることを見抜かれたのは別にいい。だが、施しを与えるつもりでやる訳じゃない。単に危ないことをしそうな男の子を止めて、ご飯を食べたいという女の子が居たから一緒に食べようと思っただけなのに。
むっとした私の表情を見てレオナードは諦めるように言う。それが余計に、腹が立った。久々の家族や使用人以外とのやり取りだからね。大人しくしておこうと思ったけれど。ダメだ。
「そういうあんたは貴族じゃないの。あ、違った?元貴族ってとこかな。」
「貴様!!」
レオナードの深い緑の瞳を見て、言わないでおこうと思っていた言葉はつい口から出てしまった。後ろの護衛が飛び出しそうだったけど、レオナードが止めた。
レオナードはきっと元貴族なのだろう。所作もそうだけど魔力量が平民のそれじゃない。しかしそれを告げたときのレオナードの表情から別のことも予測された。
没落貴族であれば、自分は悪くないと考えている可能性がある。だが、目の前のレオナードは違うと感じる。
これは諦めている表情だ。それは、なぜか。
「元貴族……それも冤罪で処分された家。」
「なっ!!!」
いままで、あまり表情を崩さなかったレオナードがはじめて心からの驚きの声を上げた。そして、その思いは口から零れた。
「なぜそう思う。」
「表情。元貴族って言ったとき、あんたの目は諦めていた。金が無くて没落した貴族のそれじゃない。」
「はは。スラムで暮らして表情を隠すのには自信があったんだがな。俺も焼きが回ったか。」
「………レオナード様。」
悔しそうな護衛。ふぅっと息をついて、レオナードは鋭い視線を送る。
深い緑の瞳は私を上から下まで見定めようと見ている。だが、その瞳の奥は揺れていた。
「ねぇ、冤罪で生き延びているって事は誰か助けてくれた人がいたからでしょ。」
「………。」
「困っている人が居て、助ける力があって何もしないのは人として間違っている。施しじゃなくて助け合い。困ったときはお互い様っていうだろ。」
「………はぁ。やめとけって言ったのに。」
「ねぇ、元貴族であればここの暮らしはどう見える?生きるのに精一杯で余裕無く生きている子供たちは、生きる術を知らないから路上で生活することになるんだ。」
「だからなんだ。」
「僕たちなら助けてあげられるでしょ?生き方を、生きる術を与えることができれば、彼らは自分たちの力で生きていけるよ。」
「………。お前、いくつだ?」
「それ、今関係ある?6歳だけど。」
「はぁ!6歳だと!!ありえねぇ!!!」
しれっと答える私を見てレオナードが吼える。
「お前と話していると同年代と話しているみたいだ。」
「うん?お兄さんはいくつなの?」
「23だ。」
「へぇ、若いね。」
「………。お前に言われたくないな。」
「それで、お兄さんは僕にチャンスをくれるのかな?」
「はぁ、勝手にしろ。何かあれば手は貸してやる。」
「ありがとう。お兄さん。」
「………。レオナード・ブレインフォードだ。」
「あ、良い事思いついた。」
「ん?」
「ねぇ。お兄さんの家名僕にも名乗らせてよ。」
「はぁ?冤罪とはいえ罪に落とされた家だぞ?」
「でも冤罪なんでしょ。だったらいいじゃん。自信を持って名乗れば良い。」
「………。もうわけが分からん。」
降参だと言わんばかりに手を上げて、レオナードがついに折れた。
「じゃ、僕はアシュレイ・ブレインフォードって名乗ることにするよ。」
「どうなっても知らんからな。」
好きにしろと言うとさっさと出て行くようにと手を振った。後ろの護衛がなんだか嬉しそうだった。レオナードの住む場所から広場へ一直線で駆ける。
広場に着くと、ポポルのみを両手で抱えたライリーと不安げなシェリーが居た。
「ごめん。待たせたね。説得に手間取った。」
ふわりと後ろから声をかけると驚いた二人が声を張り上げた。
「おま、無事だったのか。」
「ごめんなさい。知らなかったの。」
「へ?二人ともどうしたの?」
尋常じゃない二人の様子に驚いたが、安心させるように声をかける。
「大丈夫。ちゃんと許可は取ったよ。さっ、君たちみたいな子供って他にも沢山居るんでしょ?連れて来てよ。ご飯にしよう。」
「…悪かった。妹が知らなかったとはいえ、危険なやつらの家に案内しちまった。」
「んー、お兄さんたち良い人だったよ。それに僕ちゃんと許可貰ったって言ったでしょ。」
「あぁ。でも…。」
「問題なし。僕が言うんだ平気だよ。これからの協力も取り付けたし。」
「はっ?何するつもりだよ。」
「みんなで生き抜くんだよ。」
まじめに答える私にライリーが頭を抱えた。
「意味わかんねぇ。」
「で、手伝ってくれるよね。二人とも。」
「うん。何でもするよお兄ちゃん。」
「シェリーは良い子だな。あ、そうだ僕の名前。アシュレイ・ブレインフォードって名乗る事になったから。アッシュって呼んでよ。」
「分かった。アッシュ。でも良いのか?子供たちって少なくとも30人は居るぞ。ポポルの実が食えるとしても足りないぞ。」
「ま、気にしないで足りるから。準備するから二人で子供たち集めてくれるかい。」
「分かった。行こうシェリー。」
「行ってきますアッシュお兄ちゃん。」
「うん。行ってらっしゃい。集まったら皆にも手伝って貰うからよろしくね。」
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