第8話 スラムの大改造計画
元気に返事をして二人を見送った後、周囲に人が居ないのを確認して、広場を魔法で一気に改装する。
とりあえず建物っぽく石造りにしてっと。適当な箱型を作り、窓を入れる場所を開けて、机とイスを大理石のような石で作り上げてついでに調理できるように釜戸や調理スペースを広く作る。
上にも窓上に開けるところを作って光が入るように作り上げる。スライムの粘液で作った窓を適当にはめる。それなりの強度があるのでそうそう壊れないだろう。うん。我ながら良い仕事をした。
そして、あっと思いついてドアをいくつか取り付けて空間拡張を行い、いくつか部屋を作り出す。せっかくなのでと中にはランプ状の明かりの魔道具を所々に取り付けた。うん。これでかなり明るくなったな。
調理場のあたりに棚をいくつも作り、薄い鉄のお皿を作っていく。平らなもの、少し大きめのお皿、深皿、コップ、スプーンやフォークもまとめて作る。飾りも何もない簡単なものだけど十分つかれば良いよね。
ついでにナイフや包丁、鍋やフライパン、お玉なども作り上げる。調理器具を粗方作り終えて、釜戸に火をおこすための魔方陣も取り付けた。
今日使う材料を調理台の上に置いて、水周りを作る。ここにも水を出す魔道具を取り付けて、お湯も出せるようにしておく。
排水も出来るようにして。後は空調と…うん。完璧すぎる。入り口には一応ドアも取り付けて完成だ。
まるでどこぞのレストランのような出来映えだ。これで内装もきちんと出来ればお店としても使えそうだ。
外に出ると呆気にとられた子供たちとレオナードとその護衛が居た。ちなみに護衛の名前はリュートさんと言うらしい。
こげ茶色の髪を短く切っており、騎士風の格好をしている。
「あ、レオナードお兄ちゃんも来たんだね、丁度良かったよ。」
「………アシュレイ。あとでじっくりと話したいことがある。」
額に手を当てて大きなため息をついたレオナードはなんだか、町で冒険者ギルドに入ろうとした私の父のように疲れて見えた。なんだろう。お疲れなのかな?
「お、おい。アッシュ。なんだよこれ。」
「え、何が?」
「何がじゃねーだろ。何だこの建物。」
「あぁ、作った。」
「はぁあああ!!」
「アッシュお兄ちゃんすごい!」
「ふふ。かわいいなシェリーは。さ、集まったみんなも手伝って。調理しないとご飯食べれらないからね。」
全員の元気な返事を聞いて、よしよしと中に案内する。みんなに分担してもらって野菜スープを作って食べた。
材料の中に大量の卵もあり、おまけに塩をドンと壷ごと置いてあるのを見てレオナードが更にげんなりした様子だったが概ね成功した。
そしてみんなを集めて話をすることにした。ライリー兄妹のような境遇の子供たちにみんなで集まって生活することを提案する。
集まった子供は、一番年長が9歳で下は3歳くらいまで。それより小さい子供は孤児院に届けられるか、生き残れずに死んでしまうのが定めだ。これからのことを話していく。
まず3歳から5歳までの子供たちは待機組。これは15名くらい。残り19名の6歳~9歳は身分証が必要な年になるのでまずは冒険者ギルドで登録すること。
これにはみんな、難色を示した。登録1回目は無料で受けることが出来るが、代筆にはお金が掛かるのだ。銅貨5枚。これが必要な金額。だが、私は文字なら問題なく書ける。
しかし一気にこれをするとギルドに怪しまれるので順番で少しずつ登録していくことにする。
登録すれば薬草採取の依頼も受けられるし、町から出て森に入れる。森であれば食べるものを見つけることも出来るし、薬草を集めて売ればお金になる。
魔物が危険なのでチームを作り交代で行うことにする。チームの最小は3名でカバーできるように2チームから3チームの組み合わせで互いをカバーすることにする。
その間待機組みと順番を待っている間の子供たちで幼い子達の世話や文字、計算を学ぶ。こうしたことを積み重ねれば自立して生活できるようになるからだ。
まずは、登録をしなければいけないな。話し終わって、皆が不安そうにしながらも今よりはちゃんと生活できるかもしれないという小さな希望にかけるべきか今まで通りに生活するかを決めるように伝える。
強要はしない。自分たちで決めろと任せた。全員が試してみると決めたようだ。明日、登録をするため全員の名前と出来ることを聞いておくようにライリーとシェリーにお願いした。
和やかな雰囲気の中、その勢いで帰ろうとした私の肩をレオナードが掴んだ。笑顔が怖いってこういうことなんだね。うん。なんかしたっけ?私。
レオナードの住んでいる部屋に首根っこを掴まれて戻ってきた。どすんとソファーに座ったレオナードの目も据わっている。
「で、アシュレイ。なんだあれは。」
「あれって何のこと?」
意味が分からないと首をかしげると、何をやったのかまるで理解していない様子の私を見たレオナードは頭を抱えた。
「一体どうやったらあんなことが出来る。化け物か!」
「いきなり酷いな。だから何のことを言われているのか分からないんだけど。」
むっとした私の頭を拳骨でぐりぐりしながら、レオナードは怒鳴った。
「何をしたらいきなり家が建つんだ!あそこには何もなかったはずだ。」
「だから作ったって言ったじゃん。」
「どうやったら作れるんだ。魔法じゃあんなことは出来ないぞ。」
「え、魔法だけど。皆出来るんじゃないの?」
「できるか阿呆!あんなこと出来るのは魔族か妖精族くらいだ。」
「でも出来ちゃったし。」
「はぁ、だから普通は出来ないんだっての。常識を知れ、常識。」
ぐりぐりと頭が締め付けられて痛い。涙目になってレオナードを睨んだ。
「だって魔法なんて誰も教えてくれなかったし、常識なんて本でしか知らないもん。」
「当たり前だ、魔法の基礎を勉強するのは7歳からだし、本格的に学ぶのは学院に行ってからだ!」
「大体、お前は貴族だろう。そもそもなんで護衛もつけずにひとりでうろついている。」
「む。護衛なんて付けられるわけ無いだろ、色々と複雑なんだから。」
しょんぼりした私を見たレオナードはバツが悪そうな感じで頭をかいた。
「………悪かった。」
「いいよ、別に。勝手に出来る自由があるから。」
「とにかく、自分が規格外なのを自覚しておけ。あんな魔法ひょいひょい使うんじゃない。」
はーいと気の抜けた返事をして、じゃ、帰るからと転移した。
なんだか、レオナードが叫んでいた気がするけど気のせいだよね。
――――…
翌日、ライリーとシェリーが聞いてくれた名前や出来ることを確認していく。総勢36名の大所帯だ。待機組の9名と冒険者組27名。うち、男の子が22名、女の子が16名だ。
頑張って調べてくれたけど分かったのは年齢と名前、ちょっとした性格くらいだった。
それぞれの年で分けるというよりも平等に分けたほうが良いだろうとこちらで適度にチームを分けた。
Aチーム、Bチーム、Cチームと言った具合だ。順番に冒険者として登録することにする。装備はこれまた以前趣味で作っていたものが役に立った。
冒険者ギルドに行くと、いつもスライムの核の買い取りをしてくれるお姉さんが対応してくれた。ちなみに名前はラナさん。美人できれいな受付嬢だ。
「あ、ラナさん。こんにちは。」
「あら、いつもスライムの核を売りに来てくれる子ね。今日も買取かしら。」
「いえ、今日は友達と冒険者登録しようと思いまして。」
「冒険者登録ね。危険だけど分かっているの?」
「薬草採取の依頼を受けたいと思って。」
「採取系の依頼か、あんまり無理しないのよ。森は危険だからね。」
「心配ありがとうございます。登録はどうしたらいいですか?」
「この紙に名前と年齢を書いてね。あと得意なことがあれば書いてくれるとパーティを募集して組むときの参考に出来るわよ。」
「では記入しますね。」
登録すると銀色のタグを渡された。小さな石がついており、血を垂らして個人を登録する。出来上がったタグには名前とランクが書いてある。当然ランクはFランクだ。
「冒険者になるうえでの注意事項を聞いておく?」
「お願いします。」
「まず、冒険者ギルドでは冒険者同士による諍いには関与しません。また、依頼は自己責任で受けてください。依頼によっては死亡する事もあります。慎重に行動し冒険者の模範となるように心がけてください。悪質な行動が目立つ場合はランクが引き下げられる事もあるので注意して下さいね。また、依頼を失敗した場合ですが常時依頼以外の依頼については違約金が発生する場合があります。十分に確認してから受けてください。ランクは一定数の依頼をこなすとランク上げのための試験を受けることが出来ます。試験を受ける際には事前に連絡が必要となりますので、早めにお願いします。他に分からないことがあればいつでも仰ってくださいね。説明はこんなところかしら。分からない所はある?」
「大丈夫です。ありがとうございました。早速採取の依頼をやってみますね。常時依頼は後付けも出来ましたよね。」
「よく知っていたわね。常時依頼の薬草採取、ゴブリン討伐は事後報告でも大丈夫よ。ただし、ゴブリン討伐の場合は討伐証明の右耳を切り取ってくることと魔石の回収を忘れずにね。」
「了解です。じゃ、行ってきます。」
「気をつけてね。行ってらっしゃい。」
ギルドを出て町の外へと向かう。町の外壁に近づくと駐屯している門番が出てきた。
「町から出るなら身分証を提示して貰おう。」
先程手に入れた冒険者ギルド証を見せる。門番はそこに書いてあるギルドナンバーと名前を控えて行く。
「町から出る目的は何だ?」
子供たちだけで出るので気になったのか、普通なら出るときに理由は聞くことが無いのだが門番が聞いてきた。
「薬草採取の依頼です。近くの森に入ります。」
「子供達だけでか、危ないから気をつけてな。暗くならないうちに帰るんだぞ。」
門番は色々と採取で気をつける事とか教えてくれた。元冒険者だったそうでランクはB、その実力を買われて兵士になったとか。名前はリック。蒼い稲妻というパーティーの一員だったらしい。
門から出て森を目指す。練習がてら今回私と9名のパーティーで来ている。メンバーのリーダーにライリー、サブリーダーにシェリーを着けた。
その他、スリが得意な青い長髪で緑の瞳の男の子ソラン。
金髪ポニーテールで赤い瞳、気の強い女の子リンダ。黒髪に紫色の瞳、細かい気配りのきく男の子ブレナン。
薄い緑の髪を肩まで伸ばした青い瞳のアンナは料理好きの女の子。茶髪に赤い瞳、年長で力の強い男の子のアラン。赤い髪に緑の瞳、ムードメーカーの男の子ラック。
淡い茶色の髪に黄色の瞳、気弱で綺麗好きの女の子サリー。それぞれ特色の違うメンツを集めてみた。
他の子供達は掃除や洗濯、料理の練習、お勉強をさせている。お勉強と言っても、いきなりは難しい。という事なので玩具として言葉カルタやトランプ、スゴロクを置いてきた。
一緒に遊ぶと皆夢中になっていたから大丈夫だろう。
森に入ると、3チームに分けて先行チーム、後方チーム、両方をカバーする中央チームで移動する。何があってもすぐに対処できるようにするためだ。
森を歩きながらもお勉強だ。食べられる野草、キノコや果物、毒をもっているもの、など皆で確認する。背負い籠の中に食べられるものを集めながら開けた場所に出た。
薬草の群生地と化していたので、周囲を警戒するチームと採取チームに分けて交代しながら集めた。途中でスライムが出たが、子供でも倒せる魔物だ。
因みにスライムの素材も常時依頼だ。問題なく倒せた。必要な薬草が集まると今日はここまで。帰還する。
途中でホーンラビットと呼ばれるウサギに角が生えた魔物が3匹出たが、それぞれに持たせた盾で何とか動きを止めて、短剣で止めを刺すというたどたどしい連携だけど無事倒すことができた。
ホーンラビットの見た目は可愛いので怖がらず挑むことができたのは幸いだ。
今日はご飯にお肉が出せるね。そんな感じで全員の登録を何日もかけて行い、少しずつ森に慣らしていく。
初めのころは薬草採取だけの依頼しか受けられなかった子どもたちだが、少しずつ森になれて、スライムや、ケッコー鳥、ケッコー鳥の卵、ホーンラビットを狩れるようになってきた。
ちなみに受け取った報酬は半分をレオナードに預けて運営資金としている。残りの半分で食べ物の調達に回したり、将来の貯金として溜めたりしている。
たまにレオナードの護衛であるリュートさんが剣を子供たちに指導してくれている。今では私が居なくても浅い森であれば出かけても大丈夫なくらい力を付けてきた。
すっかり子供たちだけで自活できるようになり、文字や計算も出来るようになってきた。やっぱり子供は覚えるのが早いらしい。
――――…
最近は週2回のお勤めである教会の帰りにちらりとスラムに寄って帰るのが習慣になってきている。他の日でもスラムに来ているけど。
ただ、最近気温が暖かくなってきたためか気になることがある。匂いだ。私やレオナードお兄さん、その護衛は身奇麗にしているのだが、スラムの子供たちはまだ生活魔法を学んでいない。
魔法は7歳からだって言っていたけどその年齢の子達も使える様子は無い。何れは魔法を覚えてもらえばいいとは思うのだが、使えるようになるにもどの程度の魔力を持っているのか知らないでは何も出来ない。
魔力の引き出し方も学ばなければならないし、一朝一夕にはできることじゃない。
「お風呂が必要だと思うんだ。」
「はぁ?いきなり何を言い出すんだ。」
いきなり話を振られて答えたのはレオナードだ。癖のある金の髪がくるりと跳ねた。
「風呂、やっぱり温泉がいいよね。」
「あのな、温泉なんてこんな場所に沸いているわけ無いだろう。」
どうやら温泉自体はこの世界にもあるらしい。
「そう、ないなら掘ればいいじゃん。」
「はぁ!!!」
「温泉。どこに作ろう。」
「いや、待て早まるな。落ち着いて考えろ。そんなものここには無いって言っているだろう。」
「うーん、地中深く掘ると出てくるかもよ。」
「ありえん。おいリュートこいつを止めろ。」
「申し訳ありませんレオナード様。私にも無理です。」
はぁ、といつもため息ばかりついているレオナード。
「ため息ばかりだと幸せが逃げちゃうよ。」
「誰のせいだ、誰の!!」
「うん。広場の横の建物って誰も住んでなかったよね。」
「おい。聞いてなかったのか、無理だって。」
「やってみないと分からないじゃん。ということで…」
ひょいっとポケットから取り出したのはいつぞやに作ったモグリュー。
「何なんだそれ。」
「モグリューだよ。」
「だから、モグリューっていうのは何かって聞いているんだろが!」
「最近怒りっぽいね。レオナードお兄さん、カルシウムとりなよ。」
「カルシウムってなんだ!!!あぁああ。もう。お前と居ると頭が可笑しくなりそうだ。」
「むむ。モグリューはすごいんだよ。きっと温泉くらい掘り当ててくれるって。」
「はぁ、もう勝手にしてくれ。」
「ふふふ。言質はとったよ。レッツ温泉大作戦!ヒャッホー。」
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