第6話 はじめての討伐

 青い海、青い空、白い雲。白い砂浜。透き通った海からカラフルな魚はキラキラと光を浴びている。岩礁からはカニが時折顔を出す。

 海それは生命の宝庫であり、食の宝庫でもある。海といったらやっぱりバーベキューだよね。魔力を糸状に垂らしてえさであるワームの子供を括り付けて魚釣りをのんびりと楽しむ。

 そこらの森で石をひっくり返したら結構簡単に見つかったワーム。庭で遊んでいるときもたまに見かけるので、普通に触れる。指から垂らした糸は魔力でできているので自由に動かせる。魔力を使って海の中をソナーのように探知しつつ、魚を探す。

 あっ、糸の先のワームに魚が食いついた。その瞬間ワームにくくりつけた糸を更に針状に伸ばして口の中に引っかける。後は引っ張りあげるだけ。

 魔力なのでそのまま縮めて魚を引き上げていく。タイの顔に角の生えたような魚が釣れた。この魚の名前はホーンタイという。

 なんだかアホみたいな名前だ。角だよってなんだよ。ちなみに毒はない。ということで、ホーンタイを早速捌いてみよう。

 まず、ぴちぴちと動き回っているホーンタイの頭をナイフの柄で殴り、気絶したところで鱗を取る。鱗はかなり頑丈なので肉を裂く勢いでがりがり削る。この鱗を服にビッシリと縫い付ければ洋服の防御がアップするらしい。

 気持ち悪いのでやらないけど。

 次にナイフでエラを切り、腹を裂いて内臓を取り出す。このときに心臓付近にある魔石を回収する。それが出来たら綺麗に中身を洗い流す。ここは海なのでジャブジャブ洗う。

 三枚におろす時はこの後で頭を落として骨に沿ってナイフを入れていくところだけれど、今日はこの状態で焼く予定だ。

 座れそうなくらい大きな石を半分になるように高熱の魔力を纏った短剣で切る。この時、剣には熱が伝わらないようにするのが重要なポイントだ。

 スッパリと切れた石を上が平らになるように置いて、火属性魔法で熱しておく。その間にタイは塩水につけて味をしみこませておく。

 ついでにカニや海老、貝など食べられそうなのを集めて洗っておく。石が焼けたら簡単バーベキューの始まりだ。一人だけど。うん。寂しくなんてないんだからね。

 じゅうっと音を立てておいしそうな匂いが漂ってくる。そうそう、匂いが拡散しないように一定範囲に風で結界を作っておくのは忘れない。魔物が寄ってきたら大変だからね。

 綺麗に焼けたものから食べていく。うん。旨い。口に溢れる仄かな甘みと塩気が絶妙な塩梅になっている。

 バターと醤油があったら最高だったのにと思いつつ、それは追々やっていこうと再度決意した。余ったホーンタイの頭と骨、海老やカニの殻を土属性魔法で作った小さな銅の鍋に入れて水を加える。

 近くにある食べられそうな海藻類も一緒に入れ込んで出汁をとる。塩水で味を調えて簡単スープの出来上がりだ。結構いける味になっている。アッサリだけど良い出汁が出ている。

 塩を作ったり、にがりを分けたり、海草を回収して、魚も網状の魔力で捕まえて、しとめてから収納したのは言うまでもない。

 あらかた海を満喫した私は、後片付けをした後、周囲のマッピングがてら散歩に出かけることにした。


 森の中を歩くときは周囲に魔力を拡散させて、生き物が居ないか確認しながら歩く。いつでも転移できるように心構えをして慎重に足を進める。森の少し開けた場所で放った魔力に小さな反応があった。

 木に登って枝に飛び移りながら反応のあった方角へ進み、少し離れた場所から様子を見てみる。あれは、プルプルとして丸い葛饅頭のような魔物。スライムだ。

 しかも変異種ではない。純粋なスライム。しかも生まれたばかりの小さいやつだ。大きさで言うと小さいといっても直径10セラムくらいだ。

 セラムというのはこの世界の単位でセンチメートルと同じだ。ちなみに1ミリメートルは1ミリウム。1センチメートルは1セラム、1メートルは1メル、1キロメートルは1キロムだ。

 スライムという魔物は町でも水がある場所なら偶に見かけることが出来る。大抵は見つかるとすぐに駆除されるけれど。

 掃除をしてくれることが多いので、見逃されることもあるようだ。スライムはコレクターがいるくらいその触感は魅力的だ。

 また、スライムの粘液は魔道具の材料になるし、スライムの核は魔力回復薬の材料になる。水の中に入れて餌さえ与えておけば簡単に増えるためスライムの養殖を生業にしているものも居る。

 ただし、テイムしたものに限る。テイムというのは魔物に自身の魔力を送り込み、魔力で魔物の核となる魔石を染め上げて従わせるという。

 通常の魔物は抵抗が激しいのでテイムするのは容易ではない。テイムできる量も限りがあるためスライムの養殖をしているところでは一定数になると即座に出荷される。

 そうしないと魔物が制御できなくなるからだ。その数も魔物のランクや自身の魔力量によって決まると言われており、平民ランクの魔力だとスライムでぎりぎり2匹が限度。

 ウルフ系のテイムなど夢物語だと言える。だが、裏技がないわけではない。魔力回復薬を飲みながらひたすら魔力を注ぐという苦行になるのでやりたがる人は居ないというだけだ。

 そこまでのコストを支払ってでも手に入れたいと思うのは精々裕福な商人くらいだろう。ちなみにCランク級でウルフ1匹、スライムであれば多くて20匹は飼える。

 しかし、Cランク級のものは大抵が貴族でそんなことをわざわざする貴族も居ない。飼うならスライムではなくウルフ系の魔物だろう。とは言っても魔物を飼う酔狂な貴族もまた少ないのだが。

 ふと視線を上げて目の前のスライムに集中する。スライムの数は生まれたばかりなのか意外と多い。小さなスライムがわらわらとせめぎあっている。

 スライムの生態はよく分かっていない。魔物自体よく分かっていないのだから当然だ。ただ、魔物にも種類があって原種の魔物と変異種の魔物、亜種の魔物の3つに分かれる。

 他にも闇落ちした魔物が存在するが、闇落ちした魔物については穢れた魔力に汚染された動物や魔物に発生する一種の病のようなものだと考えられている。

 かなり凶暴化するため、通常よりも1ランク上の存在と思って対峙する必要がある。原種の魔物は文字通り通常種のこと。

 魔力溜りから突然発生すると言われている。変異種は原種とは違った特性を持っているもの。亜種はそこから更に変化した強力な種のこと。色が違ったりするらしい。


 ぷよぷよとした葛饅頭のようなスライムがわらわらと体を引きずりながら移動していく。こんなに集まっていると葛饅頭と言うよりもカエルの卵みたいだ。

 ………うん。やめようこの想像はよろしくない。

 10セラムのスライム。半透明で中央に赤い核が見えている。目と口は小さい。スライムの倒し方って核を破壊することらしい。

 スライムの核を刺し貫いてやれば簡単に子供でも倒せる。木の枝でも何でも核さえ取れればスライムは動かない。核を取り出せばいいのか。

 そう考えて目視できるスライムたちの核を纏めて手元に転移させた。あ、本当に動きが止まっている。

 亜空間収納にスライムの核を入れながら次々処理してあっという間に20匹のスライムを倒してしまった。最弱のスライム。魔法でやっちゃったけど本当にあっけなかった。

 これは、スライムの核が見えているから可能なのだけど、ちょっとかわいそうだったかな。そう思いながら生まれたばかりのスライムの亡骸を回収する。うん。大事に使うから許してね。

 スライムの核は魔力回復薬の材料に使われるが、その核は綺麗に洗えばそのまま食べることも出来ることを思い出して、1つ綺麗に水属性魔法で洗って食べてみた。

 瑞々しいぷるんとした食感。果汁と蜂蜜を混ぜて薄めたような甘味が口に広がる。おいしい。スライムの核は食べるとほんの少しだけ魔力を回復できる。

 回復できる魔力量は微々たるものだが、魔力が枯渇している状態のときの緊急措置として食されることがある。でも口に含んで食べた瞬間のゼリーのようなこの旨さ。

 これだけでも売れそうだなと思った。スライムには魔石がない。代わりに核がある。

 そして核は食べられるという事を考えた時、ふと閃いて空く有漢収納に入れてあった魔石をひとつ取り出して、自分の魔力で染め上げてからスライムの亡骸を取り出して、自分の魔力で染まった魔石を核があった場所に入れてみた。

 すると、スライムの体がブルリと震え、白い光を放った。眩しい光が収まると、目の前にプルンとした白いスライムがいた。

 しかもなぜかプヨンと擦り寄ってきた。先ほどまでのスライムは顔に似合わず殺伐とした冷たい空気を纏っていたが、今のスライムはとても暖かい感じがする。

 ちょんと指で触れてみると程よい弾力でプルンとしている。かなりかわいい。敵意はなさそうだ。スライムに魔石を入れたら動いた。

 そしてこの状態はテイムに成功した状態と同じと思ってもいいのだろうか。魔石は私の魔力で染めていたのだし。

 そして、次にもう一度確認のために魔石をスライムの亡骸へ入れてみる。今度は魔石を染めずに入れてみた。するとブルリと震えると黒っぽいスライムに変化した。

 今度は光ったりはしなかったが、白いスライムがムニュンと体をしならせて威嚇している。黒っぽいスライムは敵意満々で襲い掛かってきた。

 短剣で横薙ぎに切り裂いた。体内から魔石が飛び出して黒っぽいスライムは絶命した。死んだ跡も色は変わらない。

 とりあえず黒っぽいスライムの亡骸を収納して、魔石を今度は魔力を選別して同様に確認してみる。

 結果、白いスラムも含めて7種のカラフルなスライムたちが仲間に増えました。赤色のファイアスライム、青色のウォータースライム、緑色のウインドスライム、茶色のアーススライム、黄色のライトスライム、紫色のダークスライム。

 白いスライムは聞いたことがないので種族がさっぱりだが、属性によって変わるのであれば全属性を持っているのではないかと推察できる。

 そして、魔石の色もそれぞれで変化しているので白いスライムの魔石は魔力測定のときと同じような光を持っている。

 そして、魔石を持っているスライムなんて存在しないので、普通のスライムともまた違っているかもしれない。


 スライムたちは指示に忠実だ。整列させたりして遊んでみた。それぞれの魔法も確認している。名前も付けた。

 赤いスライムはレッド。青いスライムはブルー。緑のスライムはグリーン。茶色のスライムはブラウン。黄色のスライムはイエロー。紫色のスライムはヴァイオレット。白いスライムはジェリーと名づけた。

 ホワイトにしなかったのはなんとなくだ。スライムの変異種が使えるのは唯一火属性のボール型魔法だけだ。

 フレイムボールと言ったところだろうか。亜種になるとまた別らしいが使える魔法がひとつだと言うのは変わらない。

 ちなみにレッドは炎を自在に操って見せた。火炎放射やボール型も当然使える。熱も操れるらしい。今は炎でジャグリングしている。

 なんだか人間的な感情を持っている気がする。意思疎通もできるようで、火で空中に文字を書くことも出来るらしい。

 これらは6種のスライムに共通しているところだ。ジェリーはどの魔法もやはり使えた。いろいろと楽しんだ後、ふと問題に気がついた。こいつらどうしよう。

 連れて帰ったらどこで見つけたのかと騒ぎになること間違いなし。白いスライムなんて珍しいし、他のスライムだって魔石持ちで明らかに珍種だ。

 隠し部屋が必要だなと思ったが、どこに作ろう。自分の場所じゃないところで作って誰かに見つかったらいやだし。むむむと考えて、最終的に自分の庭のスペースを使うことを思いついた。

 地下を作ればいいと考え、まず作ったのは穴を掘るモグラ型の魔道具命名はモグリュー。大きさは子供の手のひらサイズ。10セラムだ。

 魔方陣には移動するためのもの、空間を把握するためのもの、そして穴を掘るものと彫った土の周囲を整地し固めるものを選んでいる。

 イメージ通りに動くようにリモートが出来る形にした。これはスパイ・テントウ君の情報収集を担っている腕輪型に追加機能としてつけた。

 スライムたちを袋に入れて部屋に転移する。そしてそのまま庭に移動して、モグリューを放った。私の小さな庭の隅からモグリューが土の中に入っていく。

 鼻はドリル状になっており回転する。モグリューが土に入り込んで少ししてから部屋に戻りモグリューを操作する。

 とりあえず、まっすぐ地下を掘り進む地下深く入り込んだところで、周囲の整地をしつつ部屋を造っていく。モグリューが潜った穴はすでに固めてあり筒状になっている。

 入り口に近いほど小さくなっているので余程観察しないと分からないけれど、後で入り口の蓋と周囲に草を植えて隠さないといけないな。

 あっという間に正方形の部屋が完成した。部屋の中は土を石状に固めてあるのですぐに崩れることはない。モグリューで位置を確認しつつスライムたちを連れて中に転移した。空気が少ないので風魔法で空気を送ることを忘れずに行う。

 四角い部屋を更に強固にするため周囲を金属で覆う。かなりの厚みを持たせることで簡単には崩れないようにしておく。そして、何もない四方の壁に入り口を付けて改装していく。魔方陣を入り口に取り付けたドアに描き、空間拡張の魔法で部屋を生み出す。

 ある種の人が住める亜空間ともいえるものだ。念のために魔力を登録して部屋を開けられる者を制限しておく。

 四方に作り出した部屋に出入りできることを確認してついでに住みやすい空間に整えておく。部屋は4つしかないのでひとつは寛ぐことが出来る部屋。

 ひとつはスライムたちの部屋、ひとつはお風呂やトイレを作る予定だ。そしてもうひとつは料理や解体、調合ができる場所に整える。

 スライムたちの部屋はプールを作って魔法で水を溜めておいた。ご飯入れもそれぞれ作っておく。それぞれ必要なものを作り出して、一息ついた。


 あれからスライムを飼い始めたが、不思議なことに魔石を持つスライムは一向に増える気配がない。自然発生したものではないからかもしれない。

 増えても困るから問題はないのだが、できれば普通のスライムも残しておくんだった。スライムの核がおいしくてつい食べちゃったんだよね。

 カラーなスライムたちはみんな器用だ。体を触手みたいに伸ばしたり、魔法も自在に操ったりしている。人間味のある暖かい表情。

 これってテイムしたスライム以上に人に近い。まるで使い魔みたいだね。使い魔と言うと魔族が使役しているもののこと。

 魔族は自分の魔力から分身のような使い魔を作り出すことが出来るらしい。そういった使い魔は意思疎通も出来るし、自分の意思を持っているものも多いという。

 なんだか似ているかもしれない。作り方はまったく違ったけど。スライムだし。

 わがプリティなカラースライムたちはいつの間にか自分たちの部屋を快適に過ごせるように改築していた。

 部屋に入ったらなぜかジャングルだった。わけが分からん。ふかふかの土が敷かれており、どこから出てきたのか様々な野草が生えている。おまけに木まで。

 一体何をしたらこうなるのか。思い当たる節はひとつだけ。餌として置いておいた果物や野草をいつの間にか育てるようになっていたのだ。

 何でも食べるからと言って残飯をペット的な彼らに与える気がしなくて、外で採った果物や野草を餌としておいて置いたのだ。

 それをここまで増やすなんて。せっせと世話をしているのはブラウン。茶色のスライムだ。そして、青いスライムのブルーが水を撒いている。

 赤いスライムのレッドは温度を調整し、緑のスライムのグリーンは空気を調整している。黄色のスライムは太陽の代わりをしている。

 ちなみに紫のスライムのヴァイオレットはふよふよ浮きながら何かしら作業をしている。白いスライムのジェリーは植物に不思議な光を当てている。

 光が当たった植物は一気に成長して木になった。更に花が咲いて、ヴァイオレットが受粉をしていく。あっという間に果物が実る。

 それをヴァイオレットが落としてみんなでご馳走だ。なんてチームワーク。なんて恐ろしい子たちだ。

 そのうち果樹園と野草畑だけじゃなくて野菜も植わっていたりするかもしれない。ある意味最強なスライムだ。農家が欲しがりそうだよ。

 そして、新たな発見としてジェリーは変身能力を持っていた。食べて生態が分かったものに限るようなのだが、いつの間にかジェリーがラットの姿をしていたときは驚いた。

 ジェリーを部屋に持ち込んだときに食べたらしい。白いラット。まるでハムスターのようにかわいい。

 その生態をも擬態するのでスライムだと分かる人は居ないのではないだろうか。触った感触もラットそのもの。色が白いことだけが特殊だが、それ以外はまったく見分けが付かないほどそっくりだ。

 この姿なら連れ歩けるかもしれないと思い、青いリボンを首元に結んであげた。しかし、あっという間にスライムの手に戻してリボンを取り外すと、次の瞬間リボン付きの状態で変身していた。驚きの変身能力だ。

 擬態できるのは自分の体積と変わらない大きさだけのようで、大きさを変えることは出来なかった。

 もしかすると、他のスライムも出来るかもしれないが、今は素材が無いので確認が出来なかった。

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