第5話 冒険がしたい

 屋敷に戻ってからというものの、相変わらず私と母は別邸に住んでいるし、使用人たちの態度は信頼している人たちを除いて前より扱いがひどくなった気がする。

 魔力が少ないと蔑まれているのもあるのかもしれない。

 そしてあれから、魔道具を色々と試して湯沸し用のポットを作ったり、冷蔵冷凍の魔道具を作ったり、レンジの魔道具やオーブン。コンロなど色々と試して作ってみた。

 当然簡単なところで言うとドライヤーだったり、扇風機だったり。ただしこういった作品を部屋に置くことはしない。

 すべて亜空間収納の中に入れている。金属を自由な形に変えることも出来るので、武器としてのナイフや剣、アクセサリーも色々と試している。

 身に付けるわけにはいかないので、すべて収納されて肥やしになっているけど。

 こういったものはいくらあっても困らないのでどれだけあるかは自分でも把握していない。亜空間の中は取り出したいものをイメージすれば取り出せるけれど、目録があるわけではないので、いつか整理する必要があるだろう。

 そしてスライムの粘液を粘土状にして形を作るのにも成功した。小麦粉の量を変えれば強度が変化する。不純物を入れる分壊れやすくはなるが、普通に使うのには問題ない。

 そして、熱に弱いので焼き物向けの粘土などを加えて形を整えれば、きっと熱にも強い良い焼き物が出来そうな予感がある。

 これはまたの機会に作るとして、自由に小物を作ったりできるのは単純に楽しい。飾れないのがもったいないくらい。

 いつか自分だけのお家を作って、自由に飾りたい。亜空間収納の大きさは魔力に比例しているらしく、色んな物を沢山入れている自覚があるがまだまだ余裕そうだ。私の魔力は一体どれだけになっているのだろう。

 最近では魔力回復速度が今までより速くなってきた気がしている。具体的に言うと今まで30分で生活魔法1回分の魔力が回復する程度だったのが、10分で1回分の魔力が回復しているというくらい。劇的だ。

 疲労や健康状態にもよるようだが、回復速度に対してかなり魔力が多くなっている分回復しているのかどうか判りづらくもあるが。

 魔法を覚えた4歳のころから1年しか経っていないのにはじめは生活魔法の『ライト』が10回くらいしか使えなかったのに、今では100回使っても余りあるくらいだ。

 たぶん、300回くらい使うと流石になくなりそうだけど。生活魔法に必要な魔力が3だとすると、平民は大抵魔力が10前後。貴族は子供で30~50前後、低位魔法使いで100くらいだろうか。

 ランクで言うとSランクが1,000、Aランクが500、Bランクが300、Cランクが100、Dランクが10位のイメージかな。なので、現時点でもSランク近くの魔力になりつつあるよ。

 私ちょっとヤバイんじゃなかろうか。

 5歳でこれなら大人になったらどれだけ魔力が増えるんだろう。とはいっても体の成長と同じように魔力にも伸び具合に変化があると思うけど。

 これだけ魔力が増えたのだから、そろそろ魔法を活用して色々と動いてみたいと考えている。屋敷の使用人たちは私が居ようと居まいと気づかないし。

 自由に散歩してきてもいいよね。この前町に行って転移はいつでも可能だったのだけれど、魔道具作りに熱中してしまったからつい忘れてしまっていたけれど。

 いつでも色んなところに冒険に行けるよう、そろそろ準備を始めようかな。


 冒険の準備って何が必要なのだろう。大抵のものは亜空間収納の中に入っているけど、最低限必要なものってやっぱり水筒かな、お弁当は現地調達するし、ナイフは必須だね。

 動きやすい服も要るけどこれは庭仕事するときの服装でよさそうだし。

 あとは地図が欲しいけどこの世界では地図らしい地図を見たことがない。地図はどうやら軍事機密的なものらしく、子供が書いたような大雑把なものしかなかった。

 という事なのでどこに向かうか、周辺情報がほしい。ナビ的なやつ。ということで、作ってみよう。

 ビデオカメラや写真をとれることかつ、移動が出来るもの。ドローン的なやつ。

 ただし、誰にも見つからないことが最低限の条件。つまりステルス機能付の未来型ドローン。魔道具の応用で作ってみよう。

 調べるなら1体ではだめだろうし、情報を統合する必要もある。パソコン的なものが必要かしら。音声も拾って欲しいといろんな要望を詰め込んだ偵察用魔道具。

 これはある種兵器と一緒だね。うん。こっそり使おう。

 そして出来上がったのはテントウ虫型の偵察魔道具。体は小さく、魔力消費も最小に抑えたコンパクト仕様。数が多いのでナンバーを付けて管理する。

 その情報は常に転送をしていて無線機のような役割も持っている。うっかり動物に食べられたら自己崩壊してくれる自爆機能付。証拠は一切残さない。

 一体どこのスパイ映画だよと言いたくなるようなとんでもない機能を持った偵察機が出来た。命名はスパイ・テントウ君。

 そしてそれを統合するのは腕輪型の装飾用魔道具。一見すると魔道具に見えないただの装飾品。魔方陣は転写する際にレンズで縮小するイメージを付加すると魔方陣の大きさ自体も変えられる。

 丸い宝石に見えるのはスライムと色粉を使って作った宝石もどき。ビーズみたいなもの。そのカバーを取り外すと中に魔石が入っていて、そこに記憶する形になっている。

 腕輪型の魔道具は常に魔力が少しずつ徴収され実際に使うときの魔力も自前になる。

 そして情報は肌から必要な情報を電気信号で脳に送る。つまり直接脳でイメージしているのと同じように浮かんでくるという仕様だ。

 メガネを付けるわけでもないので目立たないし。作業の邪魔にならないのが利点。

 デメリットはイメージが浮かんでくるので思考はどうしても妨げられる。情報を得ている間は思考出来ないということ。

 当然だよね。直接脳にイメージが送られてくるので手作業は出来ても思考は妨げられる。

 そして冒険するに当たってもうひとつ必要だと思ったのは変装用魔道具。髪の色や目の色を変える魔道具が必要だよね。じゃないと、何かしら問題が起きて身元がばれたら困る。

 これはカフスにしてテントウムシのステルスと同じように色が変化して見えるように光の反射を変えてやればいい。

 声については魔道具を使って2重音声に聞こえたら獣人族などの耳がいい種族には簡単にバレるのでやらない。自分で声の調子を変えるしかないと思う。

 魔法を常に声を出す際に使うのでも良い。というか、私に出来るのはそれくらいだ。

 腹話術みたいになると違和感しかない。それで作ったのは男の子バージョンと女の子バージョン。銀の髪に青い瞳。

 どちらも同じだけれど声質と服装を変えて役を演じるつもり。中二病とか言わないでね。


 早速ということでステルス状態のスパイ・テントウ君たちが飛び立つ時がきた。作った数はなんと300個。今後も増やす予定だ。

 何せこの世界は広い。海の向こうにも大陸があるかもしれないし、どのくらいの規模の星かも分からないからだ。作るのは大変だ。千羽鶴並にがんばった。

 組み込まれている魔方陣は色彩変化のステルス作用を持たせたもの、情報を映像、音声情報をまとめ転送する機能、位置情報を図り計測する空間把握機能、必要なときに自己破壊が出来る自爆機能。

 魔力が尽きる前に帰還して、魔石交換をすることも出来るようにする自己帰還機能。そして情報を収集して整理して記憶する腕輪型魔道具。

 これで3Dマッピングが出来る。ついでに生物や植物の分布図や住処も把握できるので今後の薬草研究なんかにも役立ちそうだ。

 ある種のネット的な役割を果たすかもしれない。辞書機能を付けて書物の情報を入れていくのも楽しそうだ。

 カスタマイズが自由に出来るのが自分で魔道具が作れる利点だね。こうして飛び立っていったスパイ・テントウ君。3組にして移動する。

 高い場所から情報を集める固体と低い位置から細かい情報を送ってくれる固体。中間地点でその補佐を行う固体。

 300匹しか居ないにもかかわらず全体的な情報は意外と早く分かりそうだ。100組の情報を元に地図情報がじわじわと出来上がっていく。

 立体図が見られるので3Dというよりはホログラムを見ているに近い。これを実際に目の前で形にしたら映像として楽しめそうだ。

 それに魔石に記録が出来ることがわかったので、これを応用して音が出るぬいぐるみなんかも作ったら面白いかもしれない。

 作るならリアルでかつかわいいを追求したものがいいな。デフォルメしたぬいぐるみもかわいいけど。うん。今度冒険に行ったら毛皮をゲットできるといいな。

 でもその前に海に行ってみたい。危険がないとは言わないけど、魔物に対処する方法なんてしらないし。

 冒険者として登録したりもしたいな。この世界の冒険者ギルドは年齢制限がないらしい。

 そして身元確認もない。当然のことだが、前世と違って戸籍管理といってもザルだ。身分証を持たないものはギルドで作ったギルド証を身分証として利用する。偽名もありだ。

 その分自己責任ということなのだろう。依頼もピンきりで薬草採取や討伐系の依頼もあるのだとか。教会への奉仕ついでに町で話を聞いたりして集めた情報だ。

 冒険者ギルドにもランクがあり上からSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Fランクとある。Fランクが冒険者なりたての未熟者扱いで、依頼内容は薬草採取などが多く、町の雑用もある。討伐はスライム程度。

 Dランクが少し慣れてきた冒険者扱いでこのランクが一番人数は多い。扱うのは下位魔物の討伐が増える。

 ゴブリン討伐や下位ランクのウルフ系もDランクに含まれる。Cランクは一端の冒険者として認められた証となり、このランクから盗賊などの人相手の依頼も出てくる。討伐はオーククラスの中位魔物が増える。

 Bランクは町で認められた冒険者として名持ちのものがちらほら出てくる。扱う魔物は上位ランクとなりトロールクラスの魔物討伐、下位ワイバーン討伐もこのランクになる。

 ただし、こういった依頼はパーティーを組んで行うもので単独での狩は推奨されていない。Aランクの冒険者は全員が名持ちでかなり数が少ない。

 大きな町でも2~3パーティーいれば良いくらいの数だ。流動的で同じ町に固定でいるパーティーは少ない。実力は折り紙つき。扱うのはBランクでも難しいとされるクラスの依頼が多い。

 中位竜種の討伐などが依頼に出ることもある。採取依頼もかなり危険なものが多い。

 Sランクは最低でも2つの町のギルドマスターに認められないとなれない。権力も下級貴族と同等の力を持つという。国お抱えのSランク冒険者もおり、重用されているらしい。


 冒険。それはマッピングから始まる。

 なぜこうなったかというと、まだ魔物と対峙する勇気がなかったからだ。いざという時に逃げることが出来るように今、こうしてマッピングを続けている。

 場所とスパイ・テントウ君から送られてくる情報を一致させているのだ。イメージと実際に行くことで情報は生きる。

 慣れてくればイメージだけでも転移できると思うのだが、危険は出来る限り少なくしておきたい。まず転移で別荘のある自分の部屋から町の町道へ誰も居ないのをスパイ・テントウ君で確認して転移する。

 もちろん、ステルス状態になる魔法を使ってはいるが、万が一もあるので慎重にいく。町道に出ると魔力で足場を作りながら上空に登っていく。階段のようにトントンと跳ねて辺りを見渡す。

 そして今回の目的地である海に向かって目視できる範囲とテントウ君の情報を頼りに転移する。これを繰り返してマッピングしつつ、移動を行っていった。

 途中で階段を作るよりも飛んだほうが早いのではと重力魔法と風魔法を応用して飛んでみた。意外と簡単に出来たが、やっぱり消費魔力は多かった。

 しかし、スピードがまったく違うので一概にどちらがとは言えない。どちらも利点があるからだ。適当に使い分けつつも、見て回るよりも移動優先だったため予想よりもかなり速く到着することが出来た。

 これなら領地内をくまなく探索しつつ、国全体のマッピングも簡単に出来そうだ。そのうち他国や他の大陸も行けるかもしれないと思うと心が躍る。

 これも冒険だもの。戦闘はないけど。半年くらいかければ、単なる移動と転移だから出来るはず。

 そうこう思考しているうちに、海へと到着した。青い海。前世の海とは似ても似つかないほど綺麗な青だった。リゾート地にでも来たみたいだ。

 なぜ海に来たかったかというと、この世界では調味料があまり普及していない。塩味ベースで砂糖は高価。

 貴族である分かなり恵まれているはずなのだが、家の食事事情はコッテリとした脂ぎった料理が多かった。そして塩味も薄く、旨みが足りてない。

 そう出汁が出てないのだ。かといって料理をしに厨房に出入りするわけにも行かないので、こっそり自分で調理すればいいと思ったのだ。

 なんせ、週2回は教会で外に出る機会があるのだから。そして何よりこの世界では朝は軽食、昼はなしで間食としてティータイムがある程度、夕食でおしまいだ。ご飯は結局2食だけということになる。

 前世からは考えられない状況だ。なので、食べられないなら自分で作ろうと思ったのだ。幸い海なら食べられる魚も多い。

 塩も海水があるので豊富だし、山や森では卵や動物、果物が生えている場所も近いうちに情報が集まってくるだろう。

 それに冒険者ギルドはギルド員でなくても素材の売買はできるみたいだ。いつか魔物を狩れるようになったら売って野菜を買おう。

 それに前世であった調味料類は是非とも再現してみたい。酒、味噌や醤油は定番だからね。あとお米。

 この地域は小麦が多いので主食はパンだ。今すぐではなくても、いつか食べられるようにしたいと思う。


 それにはまだまだ情報やお金が必要だね。

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