第3話 今頃になって紹介されました
5歳になり私は初めての外出をすることになった。
町にある本邸に行き、そこからさらに教会へ移動する予定だ。本邸というなら私と母の住むここは何なのかという事だが、山の中にある別荘らしい。
ガタゴトと馬車に揺られて移動する。かれこれ3時間程かけて山から森、平野と景色が変わっていく。
本邸があるということは、なぜ私と母が別荘に分かれて住むことになっているのか知ることができるだろう。なんとなく予想はつく。
3時間も離れた場所というのはかなり疎まれているらしい。ある種の嫌がらせだと思う。まぁ逆に考えれば余計なことができないように守るためとも言えるのだけど。
そんなことを考えているうちに遠目に城壁が見えてきた。
ここはレインフォード領にある町リーベル。レインフォード領はセインティア王国の東方に位置する。
水の都と呼ばれる程、豊かな水と山々に囲まれまた海に面している地域もある。
かなり恵まれた領地であり、同時に山を抜けたさらに東にはグラスウォード帝国の領土となっている為、軍事面においても重要な拠点である。
リーベルの町が高い壁に囲まれているのも、そういった理由からだ。
着いた屋敷は別荘とは比べ物にならないくらい大きかった。
「よく来たね。初めての馬車の旅はどうだったかな?」
迎えてくれたのは父だった。兄も一緒だ。
「初めてだったのでとってもドキドキしました。お馬さんとっても速いんですもの。でも景色も綺麗で楽しめましたわ。ね、お母様。」
くるりと振り向いて母に話しかけた。
「ふふ。そうね。リーフィアは目がとってもソワソワしていて、ふふ。初めてのお外が楽しくて良かったわね。」
「リーフィア、疲れてない?早くお部屋に入ろうね。」
そう言ってさり気なく気遣ってくれる兄様。なんて気配りが出来る子なんだ。まだ小さいのに。
そしてここに来て私は初めて自分自身の事、自分の立場を知ることになった。
まず私の立場というのは、自身の身分のことだ。なんと貴族だったらしい。
驚きの事実だ。なんせそんな扱いを受けた例がない。
私の名前はリーフィア・レインフォード。淡い栗色の髪に若草色の瞳。レインフォードという名を聞けば先ほどの話しからピンとくるだろう。
そう、父はレインフォード領を治める貴族。レインフォード辺境伯爵だった。
ちなみに父の名はジェイクという。年は30代だろうか。淡い栗色の髪にすらりとした背丈、水の属性を現すコバルトブルーの瞳はまるで深い海の色のようで吸い込まれそうだ。
爽やか系青年としてきっと女性にモテモテであろうイケメンだ。母の名はクレア。
淡い金の髪は柔らかなウェーブがかかっており、若草色の瞳は柔らかな印象を受ける。
兄の名はカインという。母譲りの淡い金色の髪と父譲りのコバルトブルーの瞳。時期領主として教育を受けており10歳とは思えないほどしっかりしている。
そして、今まで謎だった母をいじめていた首謀者的な人物。
正妻として君臨するヴァネッサ。やはり母は側室であり、かつ両親の間に権力で割って入ったのがヴァネッサ様らしい。
ダークブラウンの長い髪と赤い唇が印象的だ。瞳の色は茶色で服装は派手な赤いドレスを纏っている。どこの悪役かといわんばかりの釣り目。
父にしなだれかかって密着しつつ腕を絡める姿はなんとも悪女を絵に描いたような人だ。彼女の実家は西方の伯爵でミュートリー伯爵というらしい。かなりどうでもいい情報だ。
正妻様には二人の子供がおり、上が女の子で現在8歳のミリーナ姉様。母譲りのダークブラウンの髪と父似のコバルトブルーの瞳。下が男の子でエルン兄様。ミニ版の父だね。
小さいときはきっと父もこんな感じだったに違いない。髪も瞳も父にそっくりだ。
私より2ヶ月早く生まれたそうでまだまだかわいい盛りだ。男の子であるということを理由に父にエルン兄様を時期領主にするべきだと正妻様が主張しているらしいが、父が跳ね除けているらしい。
あまりに小物臭がする正妻様だが女の嫉妬は恐ろしい。部屋に入った瞬間睨まれるとか。
初顔合わせだよと言いたくもなるが、あまりに分かりやすい人なのでここは華麗にスルーするのが正解だろう。
こうして無事に全員の顔を知ったところで、馬車で教会に移動することになった。
レインフォード家の馬車がリーベルの町中を走っていく。
にぎやかな町並みが続いていく。果物屋や洋服店、雑貨屋などが並び人々は忙しなく移動していく。出店も所々に出ており、やはり豊かな領地とあって活気がある。
そして光あれば闇もある。やはりこの世界にもスラムという場所はあるらしい。いや、中世的なこの世界だからこそとも言えるだろう。
私と同じくらいの幼い子供がスリや盗みを働いている。ぼろぼろの服を纏い、物乞いをしているものもいる。
私は貴族であることを知った。例えそれらしい扱いを受けていなかったとしても食べるものや寝る場所に困ることはない。
いずれこの領地はカイン兄様が治めることになる。幼い彼らを見て私にも何かできることがあればいいなと思った。
リーベルの町にある教会に到着すると、領主が来たとあってか偉そうな司教様が出迎えてくれた。エバンス司教と言うらしい。
教会内部に移動すると目に入ってきたのはカラフルなステンドグラスが太陽の光を受けて幻想的な光景だった。その礼拝堂を抜けて個室へと移動する。
教会に来た目的はお祈りじゃなかったらしい。何をするかというと5歳になると皆教会で個人登録を行い魔力測定と属性の確認を行う。
属性は基本的には瞳の色に由来するらしいので青の瞳であれば水属性、赤の瞳は火属性、緑の瞳は風属性、茶の瞳は土属性、黄の瞳は光属性、紫の瞳は闇属性となる。
稀に違う属性もあるらしく、平民であれば問題はないが貴族の場合はその属性を学ぶ必要があるので魔力量を測るついでに確認することになっているそうだ。
瞳の色で属性が決まっているってはじめて知ったけど、私色々とやっちゃっている感が。
おまけに魔力もさっき枯渇させたばかりで少ししか戻っていないのだけどどうしましょう。
魔力測定だと教えてくれていたらちゃんと残しておいたのに。まぁ、やっちゃったものは仕方がない。
測定器が現在の魔力量ではなく総量を量ってくれるものであることを祈るばかりだ。部屋の中央には測定するための機材が置いてある。
白い台座の上に手を置いて計るものらしい。
「では、まずはエルン・レインフォード様、こちらへ来て台座に手を置いてください。」
「はい。」
エバンス司教の声で似エルン兄様が前に出る。早速測定を始める。初めての事で恐る恐る手を載せると台座の中央にある丸い透明の玉が青色に変化していく。
そして丸い玉の周囲にあるメモリに色がついた。あっという間に測定が終わって個人登録の証である銀色のタグを貰っていた。あれが身分証の役割を果たすそうだ。
「さぁ、エルン。結果を見せて頂戴な。」
ヴァネッサ様が急かす。結果は水属性、魔力量B-ランクと出たそうだ。
「やっぱり優秀ね。エルン。これからも頑張るのよ。」
「はい。お母様。」
父は結果を確認して、ぽんぽんとエルンの頭を撫でた。
魔力量にはランクがあり、宮廷魔法使いクラスがSランク、高位魔法使いクラスがAランク、中位魔法使いクラスがBランク、低位魔法使いクラスがCランク、平民クラスがDランクで表記され、それぞれランクでの上中下をプラスマイナスで表記されるのだ。
つまりエルン兄様はCに近いBランクということになる。ちなみにカイン兄様は水属性でA-ランク、ミリーナ姉様は水属性でB+ランクだ。
そしてとうとう私の番がやってきた。
「では、リーフィア・レインフォード様。台座に手を置いてください。」
「………はい。」
エバンス司教の声で私も前に出た。まずいなぁと思いつつも台座に手を載せる。
すると透明だった丸い石は光を発してはいるものの色に変化はなく、魔力量のメモリもわずかに動いただけだった。
周囲から動揺の声が上がる。結果、属性は魔力量が極端に少ないため測定不可、魔力量Dランクとされた。
「なっ!!」
「えぇ?」
唖然とする両親とニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるヴァネッサ様。
「レインフォード辺境伯爵様、別室にてお話をさせてください。」
「分かった。行こう。」
驚いて焦ったようなエバンス司教と父は別室で話しをする為に出ていった。
それを見計らったかのように、ヴァネッサが私と母の前に高圧的な態度で立った。
「なんて結果でしょう。貴族の子とは思えないくらいだわ。魔力が殆ど無いなんて役立たずも甚だしい。恥を知りなさい。」
「………。」
「こんな所に居てもしょうがないわ。さっさと帰りましょう。行くわよエルン。」
「……はい。お母様。」
母と私をひとしきり罵った正妻様はエルン兄様と馬車で帰って行った。私の事で時間を取られるなんてごめんだと言わんばかりにずかずかと出ていく。
エルン兄様は、心配そうに私を見て、ヴァネッサ様に引きずられていった。
貴族としての礼節はどこに置いてきたと突っ込みたくなったが、無意味なのでやめておいた。しばらくすると、シスターが向かえにきたので、母と共に移動する事になった。
「リーフィア、落ち着いて話を聞くのよ。」
「はい。お母様。」
気丈な母は私を落ち着かせるために入室前に声をかけてくれた。シスターが入室許可を求める。
「失礼します。お二人をお連れしました。」
「どうぞ、お入りください。」
許可が出て部屋に通されると話しがあらかた終わったのか、難しい顔をした父となぜか笑顔のエバンス司教様がいた。
どうやら将来的な事として、選べる道を広げる為に教会で奉公してみるのはどうかという提案があったらしい。
「レインフォード辺境伯爵様、ご息女の魔力は貴族の域からは程遠く離れております。しかし、まだお小さいですし、ずっとこのままということも無いかもしれません。今の状況からははっきりと断言できないのが心苦しいですが。……もし、ご息女が大きくなられた時に、ご自身の魔力に絶望されないように教会でのお勤めを行い、今のうちから慣らしておかれてはいかがでしょう。」
きっと話はこんな感じだっただろう。今後は貴族としての勉強もあるので週に2回程の奉公を行うように父から命じられた。
ちなみに暦についてだが、この世界では1月が30日。一週間は6日で5週ある。1年は12ヶ月で360日だ。
そして曜日は火の曜日、水の曜日、風の曜日、土の曜日、光の曜日、闇の曜日となる。月は1の月、2の月、3の月、4の月、5の月、6の月、7の月、8の月、9の月、10の月、11の月、12の月となる。
教会預かりになる間の保護者代理となる方を紹介すると教会の個室へ移動した。教会で個室を持つという事は、かなりの身分であるということだ。
許可を得て個室に入る。中は個室という概念が飛んでいきそうなくらい広い部屋で、部屋数もいくつかある。
そのいくつかある部屋の一室に案内される。整えられた家具はどれも重厚で落ち着いた色に統一されており、執務室にあった雰囲気を作り出している。
その部屋の主は保護者代理というにはかなり若い。20歳くらいじゃないだろうか。端正な顔つきで金の髪は絹のようにさらりとしている。
短めに切りそろえた髪と薄い紫の瞳。貴公子というに相応しいすらりとした体躯。無表情であることが残念なくらいで父に勝るとも劣らないイケメンだった。
「はじめまして。私の名はニコラウス・アーデンバーグ。君の保護者代理となるものだ。よろしく頼む。」
優雅に礼をするニコラウス司教はやはり所作も流れるように美しい。
「な、アーデンバーグ公爵の…失礼しました。私はジェイク・レインフォードと申します。お見知りおきを。こちらが妻のクレア。そし
て娘のリーフィアです。さ、リーフィア後挨拶を。」
「はじめまして、リーフィア・レインフォードと申します。ニコラウス様どうぞお見知りおきくださいませ。」
ちょんと、ドレスの裾を摘まんでお辞儀をする。ニコラウス司教の家名であるアーデンバーグ。その名を聞いた父が一瞬あっけにとられて、挨拶が遅れてしまうほど高名な家柄だ。
なんせセインティア王国きっての名家、お受けに最も近い公爵家。現在の宰相もこの家から輩出されている。ニコラウス司教ご自身はもう家とは縁を切っていると仰っているが、それでもその名の効力は大きい。
すごい人が保護者代理についたものだ。ニコラウス司教も魔力が少なく、幼いころから教会で育ったそうだ。
彼には兄がおり、次男であったため家のことを気にかける必要もなく過ごせるらしい。家族との交流は兄以外とはすでに途絶えているため、かなり自由にできていると自嘲気味におっしゃった。
教会での奉仕活動といっても私は貴族だ。下働きをするわけではないらしい。一通りの情報交換が終わった後、週2回はニコラウス司教の下でお勤めをするようにと言われた。
必要なものは教会で準備してくれるそうだ。といっても洗礼を終えたばかりで貴族教育もまだ始まっていないので、最初は文字や計算など基礎的な勉強をすることになりそうだ。
まぁ、もう覚えちゃったんだけど専門用語とかあるだろうしね。それが終わったら経典を読んだり、教会での作法や奉仕活動を知ることになったりするのかな。
ニコラウス司教の下でというのは、まだ幼いとはいえ、貴族の子女に何かあったら問題だというのが大きいだろう。
完全に教会の人間となるわけではない為こういった配慮がなされたようだ。
こうして教会での保護者代理であるニコラウス司教との顔合わせは終わりを迎えたのだった。
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