第9-1話 妬み、嫉みの空回り
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土産を渡した際に、恒から元カレが本当にいるという発言をされ、おれは自分では行く事のないイベントへ参加する事を決意した。
相手がどんなやつか、一目みてやろうという気持ちと、あとは恒に挑発された部分も強かった。
それから元カレに会うまでの間にアイツとは一回、関係を結んだ。アイツからカラオケに誘われてちょっと有頂天になっていたのかもしれない。
酒を飲むついでにアイツにちょっとエロい悪戯を仕掛けたら、相手もノッてきたた。そういう姿は本当に可愛いとしか言いようがねぇし、すごく愛おしいと思ってしまう。
今現在、アイツのそういう姿を見ている『男』は俺一人だけだと信じているが、その時ですらアイツは『元カレ』の事を口にした。
そういう発言を聞くたびに、アイツにとっておれは『遊び相手』でしかない事を痛感させられる。
致した後、アイツは気ままに飲み直しすると、さっさと寝付いてしまった。
それなのにおれは寝息を立てるアイツが可愛くて、また手を出したくなったけど、遊びでしかないのかと思うとこれ以上の手出しが出来なくなって、なかなか寝付けなかった。
――アイツはきっと何にも俺のことなんて想っちゃいない。
案の定、翌日になってアイツは、眠気いっぱいのおれなんか見向きもしないでさっさと帰っていった。
こういうところが、本当にヤキモキする。おれはアイツが好きで堪らないってのに、アイツはおれのこと何とも思っていないって確信させられて苛立たしい。
それでもアイツを諦めようという気持ちにはならないんだから、所詮、惚れた方が負けなんだよなぁ、と盛大な溜息を落とした。
結局その後のやりとりと言えばイベント当日の待ち合わせの事ぐらいで、おれの定期的な睦言には軽く返される始末。この有様でおれはどういう顔でアイツの元カレと顔を合わせればいいのか、結構悩んだ。
こうなったら、成り行きにまかせるしかねぇ。
そうして覚悟を決めて臨んだイベント当日。
恒とは朝早くから待ち合わせし、会場の最寄り駅でその元カレとは合流する事になった。こんなに緊張しているのは最初のライブ以来か。
二日連続で参加しているという恒の元カレは、アイツと同じぐらいの身長で、黒のデニムに黒のTシャツ、ベージュのタータンチェックのシャツを羽織ってそれに合わせたリュックを背負っていた。恒と元カレはおれがいるにもかかわらず、目の前で軽いボディタッチをしていて、おれの顔が思わず強張る。
「渡邉薫だ。恒とは高校時代から親しくさせてもらってる。宜しくな」
「…金城隆だ。宜しく」
これが恒の元カレか、と思うのと同時に相手から挨拶され、強張った状態のまま挨拶を返す。
…親しくさせてもらってる、って今言うことかよ。それともそれはおれに対しての牽制ってやつか?
疑問に思えど、相手はそんな事を気にせず、恒に話しかけて会場までの道のりを案内し始める。
「待ち時間長いんだろ?」
「その為のコレだ。チケット代わりにもなっているからこれは失くすなよ」
そう言って薫はガイドブックだという分厚い本を恒に手渡す。おれにも一冊それが回ってきて、一応は目を通すが、このガイドブックが何を意味するのかわからない。そもそもどういう集まりなのかすら、おれには把握しきれていなかった。
「このスチームパンク見てみてぇ!」
「ああ、そこのは結構有名で作品も凄いぞ。それだったらここもまわるか? オススメだぞ」
恒と薫は待機列に並びながらガイドブックを見て、ここに行きたい、だとかこっちを見たいだとか二人で盛り上がっている。対して、おれはただついてきてる感が否めない。
「…あー、このチケット代はどうしたらいいんだ?」
結局口を挟めた会話がコレだ。
「昼飯ん時にでも薫に払ってくれよ。これ、まとめて買ってくれたのは薫だからさ。重いのに悪かったな」
「コレくらいは重さに入らない」
恒が薫の代わりに答えてくれる。それにもちょっと苛立ちを感じてしまう。
何が重さに入らない、だ。これぐらいおれにだって持って来れるっての。
一冊二千五百円だ、と告げる薫に、後で清算する旨を告げて会話は終了してしまった。こっちの会話が終了してしまえば、また二人はガイドブックとマップを眺めて順番の確認をしたり、大いに盛り上がるっている。話に入れず待機列をぼんやりと眺めていると、ふと薫の顔がこちらを向き、話しかけられた。
「アンタは行きたいトコないのか?」
「いや、おれは別に……」
「じゃあ、オレたちはこのルートで行こうと思っているから、途中で気になる所があったら声を掛けてくれ」
薫の言葉に頷くと、おれは再度ガイドブックをぺらぺら眺め見るが、やはりどこがいいとかまではわからずそのまま付いていくことに決めた。
開場時間になり、イベント会場がオープンになる。待機列に並んでいた人もどこか足早に歩みを進め、各々目当ての場所へと向かっていく。
おれも何とか迷わずに恒たちについていきながら会場の中へと足を踏み入れた。
中はいろんなブースがあり、それぞれが販売スペースで自分の手製の商品をそのブースで売っているらしい。薫と恒は商品をさまざまな角度から見て確認をしていた。
「この前のアニメキャラ、コレなんだが」
「あーこれか。すげぇ再現率高いな」
中には写真撮影可の所もあり、恒と薫は仲良く会話しながら写真を撮らせてもらっている。
別のブースに移動をすると、そこにはミニチュアの商品が陳列されていた。恒がはしゃいでいるのを素直に可愛いと思ったが、それより元カレと仲良く展示を見たり、会話をしたりしている恒を目の前にして、その度に胸が張り裂けそうになる。
そりゃあ、高校時代から『親しく』している相手だし、昔から仲良くやってきているのだろう。
恒たちがいろいろ話している間、おれの中では悶々とした気持ちばかりが膨れ上がっていくのを感じていた。
「そういや、アンタも大分疲れたんじゃないか? 顔色も良くないな。こっちに付き合ってもらってばっかじゃ悪いし、そろそろ昼飯にしよう」
薫がおれの顔色が良くないのに気付いて声掛けしてくる。
顔色が悪いのは肉体的な疲れなんかじゃない。これは気疲れだっての。そうやってお前は余裕醸し出しているわけか?
おれが口を開こうとしたところで、先に恒が口を挟んだ。
「悪ィ、全然気付かなかった。そういやいい時間だよな」
「…おう、昼飯にしようぜ」
恒の発言に反論する気力を削がれ、おれも短く応じた。
昼食の間もずっと、恒と薫はアニメのフィギュアの話だったり、恒のデザインの話だったりと、二人の会話は続いていく。時々おれもその会話に口を挟むことはあったが、ほとんど二人の後をついていくだけだった。
――おれ、何でここにいるんだろうな……。
昼食後もそれは続いて、そうして虚無感でいっぱいになりながら、端から端まで巡った会場内を後にするのだった。
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