第8-3話 反比例する行動について




「汗かいたから、もっかいシャワー借りるぞ」


 そう隆に一言断って浴室に向かう。シャワーを浴びながら、随分気まぐれを起こしたもんだな、と内心で一人ごちた。


 アイツに付き合う必要なんて本来ならない筈なのに、こうして二度目が発生してしまった。

 存外、アイツの事を気に入っているのかもしれない。感情を問われると、それが何なのかは全く口をついて出てこないのだが。


 考えもまとまらないまま、身体だけをさっぱりさせて風呂から出ると、隆も汗を流して来るという。

 どうぞごゆっくり、と隆を風呂場に行かせて、俺は一人で飲み直し始める。

 また一人になると、もやもやとした思考が自分の中で膨らんでいくのがわかった。


 ――そろそろ、引き際を考えたほうがいいのかもしれない。


 自分のこの『気持ち』にすらよくわかっていないってのに、行動ばかりが先を突いて出る。

 この状況は非常にまずい気がする。


 とはいえ、今週末には薫との約束もあるのだ。

 揶揄からかい混じりではじめた元彼ゴッコだったが、流されるたびにこのままで進んでいいのか、自問したくなるときがある。


 それでも…今は何も考えたくない。


 グラスの中に入っている酒を最後まで飲み干すと、アイツが風呂場から出てくる前に先にベッドを占領して眠りに入ってしまった。




 次の日、俺は仕事もあるので早々に家に帰った。隆は大分眠そうな顔をしていたが、俺は普通に飲んで寝てしまったのでその後のことは知らない。

 その後も他愛もない日々が過ぎ、薫からイベント関連の連絡が来たくらいで、隆にはイベント当日の待ち合わせの連絡だけ、やりとりしておいた。




 そうして一週間は瞬く間に過ぎ、問題のイベント当日がやってきた。

 朝六時起きで隆とは最寄り駅で、薫とは海浜幕張の駅で待ち合わせする事になっている。


「…はよ」


 挨拶で声を掛けるも、相手はどこか緊張した面持ちでおう、と短く応えてきた。

 電車の中での会話もほとんどなく、俺はあえて会話を続けずにタブレットで漫画を読んだりしながら薫の待つ駅へと気楽な気持ちで向かった。

 海浜幕張の駅に着くと、まだ八時半だというのに結構な人出で、薫と連絡を取り合いながらなんとか合流する。


「はよ。今日は宜しくな」

「ああ、おはよう。昨日もかなり掘り出し物が出ていて凄かったぞ」

「マジか。見てみたかったなぁ…仕事じゃなきゃ行けたんだけど」

「仕事頑張ってるみたいじゃないか。まぁ、あんまり無理はするなよ? お前は集中すると寝食も忘れがちだ」

「わかってるよ、心配かけて悪ィな」


 ポンと軽く肩を叩かれたので、俺も薫の腕に軽く触れて謝ってみせる。

 そんな俺と薫の様子を一緒に来た隆は窺って見つつ、それでも途中で割って入ってくるような事はしなかった。


「ところで、そっちが今日一緒に来てみたいと言ってた人か?」

「ああ」


 俺が頷くと、薫が隆に向かって挨拶をする。


渡邉わたなべかおるだ。恒とは高校時代から親しくさせてもらってる。宜しくな」

「…金城きんじょうたかしだ。宜しく」


 隆は何処か固い面持ちで薫に挨拶をした。緊張しているのか、それとも動揺しているのか…隆の内心を想像して、俺はちょっと面白くなっていた。




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