第8-1話 売り言葉の裏側




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 土産を買ってきたから会いたい、と連絡が入ってきたのは土曜日の夕方の事だった。

 一度しか返信していなかったにもかかわらず、土産はきっちり買ってきたんだな、と感心した俺は普通に返信を返していた。


 今は無理だが礼も兼ねて明日ならと返したところ、それなら礼に飯を作って欲しいと言われた。



 あー…そういやそんな約束したかもな。



 約束したからには、それが口約束でも俺は破るのが苦手だ。とはいえ、「何でもいいから飯を作って欲しい」だと困ってしまうのも確かな話だった。  

 ミートソースというリクエストがあるなら、たまに作っているし材料も把握している分だけありがたい。


 そうして作る事を決めたのだが、問題が一つ。

 

 アイツん家にどこまでの材料があるのだろうか、という事。アイツ、一人暮らしだし、よく外食しているという話も聞いた。どう見ても、まともに料理するような男には見えない。

 まぁ、時間の約束はしてねぇけど、明日の昼ぐらいになったら連絡でも入れてみるか。どんな調味料があるか位は確認しないとな。


 そう思って連絡をいれた翌日の昼間、俺は唖然とさせられる事になる。


 料理しようにも、まともに使えそうな調味料が塩しかねぇって、どういうことだよ。更に材料になりそうなモンも何もなし。これじゃ一から揃えるしか作る手立てはない。

 買い出しに行くからチャリの鍵貸せ、と相手に詰め寄ると、隆は一緒に行くと言い出した。


「…チャリでも荷物多いと大変だろ? 荷物持ちしてやるから一緒に行こうぜ」


 確かに、それは一理ある。材料一式ともなると結構な量にもなるし、ほとんど食べるのはコイツだ。俺が持たなくてもいいんじゃねぇか?


「それもそうだな…お前が食うモンだし、荷物くらい持たせてやってもいいぜ」


 ニヤリとほくそ笑むと、何故かコイツは嬉しそうに笑っていた。


 時間が惜しいので、買うものをさっさと選び、荷物を袋に詰めさせる。ちなみに、荷物をいれている袋は俺が持ってきたエコバッグだ。近所のスーパーはレジ袋が有料なので、持ち歩く癖がついている。


 荷物でパンパンになったエコバッグはずしりと重そうで、それを文句言わずに、それもどこか嬉しそうに持っているコイツはどこかおかしいんじゃないか、と思った。


 隆の家へ戻ると、早速調理を始める。場所が狭いのと包丁が一つしかないため、俺がほぼ一人でやることにした。


 最初は炒めたりするのをやらせようかと思っていたんだが、相手がどれだけ調理できるのか、不明瞭な状態だと怖くて任せられない。焦がされたりして俺の料理を不味いモンにされるよりは自分で仕上げてしまった方がいいと思ったのだ。


 最後の煮込みまで進めてしまえばあとは麺の用意だけだ。正直、煮込み具合はまだ足りなかったが、隆が食いたいとリクエストを出してきたのでそのままパスタを茹でる事にした。


 コイツの家に大鍋はミートソースを煮込んでいるこの寸胴しかないから、自然と深めのフライパンを使う事になった。

 一人前、というには多すぎる量のパスタを皿に盛り付け、ミートソースをかけると溢れそうなぐらい山盛りの料理が出来上がった。


 隆はそれを見ると嬉しそうに目を輝かせていた。あー、コイツ、犬っぽい。餌を前に尻尾振ってんのが見える気がするわ。ウチにも犬は一匹いるけど、なんか大型犬でも懐かせた気分だ。


 料理を手渡すと旨いと言いながら勢いよく食べていく。旨いと言われんのは悪くねぇ気分だ。しかも、目に見えて減っていく料理がその言葉を真に裏付けている。


 俺も一口貰って食べてみるが、俺としては八十点くらいといったところか。もう少し煮込めば水分がとんで、麺とあわせたら丁度いいぐらいなのに。これじゃあ少し薄い。


それでもこんなに美味しそうに食べてくれるなら、コイツにまた何か作ってやってもいいかもな。



 食べ終わって一息ついたところで、隆はお土産を渡してきた。一人分にしては多すぎる和菓子と洋菓子、そして四合瓶の日本酒一瓶。ほんと、律儀というかなんというか…俺のことを想ってコレを買ってくれたんだなと思うだけでかなり嬉しくなった。


「これ、一人分ではねぇなァ」


 苦笑すると、隆も笑みを浮かべて言葉を繋いでいく。


「家族とでも一緒に食ってくれよ」

「そうだな、ありがたく貰っとくわ」


 土産も貰った事だし、俺にとって今日の用事はこれで終了だ。さっさと家に帰って自室の掃除でもするか、なんて考えながらいい気分で隆の家を出ようとしたところで、腕を掴んで止められた。


「…ちょっと待てよ。まだ、話がある」


 まだ何かあっただろうか、と首を傾げて相手を見つめた。


「話ってなんだ?」

「こないだ言ってた『元カレ』のことだ…」


 あー、そういや「後で」と送っていたんだっけか。それにしてもまだその事にこだわってんのかよ、コイツ…今まで言い出さなかったから、気にしてねぇのかと思ったぜ。


 でも、ここで蒸し返すとか、やっぱり気にはしてたんだ?

 ちょっと面白くなって、続く言葉を待ってみる。


「お前、その…元カレって本当にいるのか…?」


 へぇ、存在そのものを疑ってはいたわけか。折角だし、もう少しこのネタでからかってみるか。


「何なら会ってみるか? 再来週、幕張でやるイベントをアイツと一緒に見に行くんだ。お前一人増えてもアイツは文句言わねぇよ」


 俺の言葉に急にいきり立つ隆。ちょっと火を付けすぎちまったかな? まぁ、いい。お前の言う『本当の好き』がどんなものかか見極めてやるよ。


「イベント、楽しみだよなァ」


 小さく笑うと、俺は隆の家から帰る際に、薫へ再来週の件で連絡を入れるのだった。





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