第46話 力
悲しい。力のことを守れなかったから。もちろんそれもある。だけど……一番悔しいのは――。
「力、お前は俺が俺の仲間に殺されるのを見れば満足するのか?」
「??」
「いいぜ? こいつらに俺を殺させてみろよ。俺は抵抗もしないし、逃げもしないよ」
力は狂気に満ちた笑いを止めた。その眼は俺を見据え、そして今まで一番醜悪な顔をしてみせた。
「お父さん、お父さん。あはっ! やっぱりお父さんはお父さんだね! お父さんは僕にとって本当にクズだ。僕の目の前にいちゃいけない。目の前にいると僕の中のクズが目を覚ます。クズが目を覚ますと楽しい気持ちがどこかに飛んでいっちゃう。飛んでいっちゃうとお父さんを殺せなくなって僕は発狂する。発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂する発狂するあががががががっがあああっがっががああああああ……」
「本当に狂ったやつだな。お前は俺を殺したいんだろ? 答えを教えてやろうか? 俺の仲間使うとか、大切な人を使うとか言って、変な事ごちゃごちゃ考えているから目的がどんどんブレてくるんだよ。お前がやりたいことはお前自身で責任もって最後まで貫徹してみせろ!!」
「ががががああぁぁっぁぁぁああがががあああ!! うるさいうるさいうるさい!! そんなのわかってる!! 僕はお父さんの狂った顔が見たい! 僕と同じように! 狂って狂って狂って狂って!! そして! 僕に感謝しながら死ぬんだよ! なのにお父さん! こんな僕を見ても全然動じないし! 仲間もみんな僕の味方になっちゃったのに全然気にもしていない! その態度がムカつくんだ! その態度がクズなんだ! その態度が……僕を!!」
力は久しぶりに会った父親の嫌いなところを羅列する。爆発まであと……うん、もうすぐって感じだ。体を守るように両肩を抱き小さく縮こまる力。体内で大きな力がため込まれていることが窺える。このパワーが一気に爆発するのであるなら、俺には防ぐ術はない。しかし、それは爆発することはなく……
「こんな醜くなるんだぁぁぁぁぁっぁああああぁぁ!!!!!!!!!」
力の姿が変貌する。ため込まれたパワーを開放すると、体は黒く変貌し、背丈は二メートルほどにもなり筋肉質なその体からは異臭が立ち込め、髪も抜け落ちその顔は、正しく怪物だった。力は怪物に身を委ね、その代償として一撃で世界を壊せるほどのパワーを手に入れた。
「死ねえええぇぇぇ!!」
その大きな体とは裏腹に、目にも止まらない速さで俺の腹を殴ると、俺の中にある臓物はその一撃で大半がぐちゃぐちゃになる。俺は何も感じなかった。もちろん痛みはあるし、意識もしっかりしているが、力の一撃は、それでも軽いと言わざるを得なかった。世界を壊せるほどのパワーを持っているのにも関わらず、結局壊せたのは俺の内臓のいくつかだけで、痛みを伴うだけの何てことないただの攻撃だったからだ。
痛みなんか覚悟があればどれだけでも耐えられる。俺はそれを知っている。俺の覚悟は何だ? 命を捨てることか? 違う。どんなことがあってももう誰も死なせない。俺の手が届く限り仲間を! 家族を守り抜くことだ!! 俺はすぐに立ち上がり、力に言い放つ。
「力、お前が俺を殺したいなら、殺してくれていいぞ? お前には、その資格があるし、権利もある。だが、俺の仲間に手を出すようなら息子のお前でも容赦なく俺は潰す。お前をこの世界でも殺すことになるかもしれない。そうやってしか俺はお前を守ることは出来ない。お前をもう苦しませないようにしてやるにはな」
「うるさいうるさい!! お前はもう死ぬことは決定している! 僕に殺されて死ぬんだよ!」
「それならそれでいい。だが俺の仲間は助けさせてもらうぞ!!」
俺の気迫に少し怯えたのかたじろぎ、あかねや佳凛、ハジメを俺に向かわせてきた。
ハジメの神通力を俺は指先で受け止める。広範囲でこそ効果を発揮するハジメの神通力は一点に集中すると威力が半減。避けるまでもない。もちろん、生身じゃ大ダメージだが俺も指先に神通力を集中させ鋼鉄の盾を作る。あかね、佳凛は体術で攻撃してくるが、連携がなっちゃいない。ツクヨミがいないってだけで佳凛はただの女の子とさして変わらないし。厄介なのはあかねの善女竜王。もちろん操られているから手加減はない。二人の攻撃を躱し距離を置くと、すかさずあかねは善女竜王の力で、炎の翼を生やさせ空に飛ぶと、口をパクパク動かして謎の詠唱をし、でかい炎の球体を作り出した。
「炎帝 火竜砲炎弾」
「マジかよ!?」
あんな技見たことねぇ! 善女竜王もやっぱちゃんとした神だな。能力はえげつない。俺はハジメと佳凛の体を掴み自分に引き付ける。そして、神通力で大きな盾を作る。これでも耐えられるかどうか……。力は――。
その瞬間力は俺の体を貫く。心臓だ。俺は即死。あぁ。結局誰も守れないのかよ。俺の人生って何なんだろうな。これならあの時死んじまったほうが良かったかもな。何であの時ジジイにあんなこと言ったんだろうな。あの時は、謝りたいって……なんか思っちまったんだよな。それで、今度こそちゃんと生きるって、誓と力に今度は守るって言いたくって……。
俺は走馬灯を見ているような気がした。昔の記憶がありありと甦る。「主殿――」イザナギの声が聞こえる。「主殿――しっかり」イザナギ……。お前がいたからなんか全員守れるような気になっていたんだな。
「しっかりしやがれ!!」
ガツン!! 思いっきり頭殴られた!! え? 何!? 俺死んだんじゃないの!?
「主殿!! みんなを守るんであろう! まだ戦いは終わっていないぞ!」
「イザナギ!? 何で!? 操られていたんじゃないのか!?」
その答えは返ってこなかった。力の攻撃はイザナギが俺に当たる寸でのところで止めていたのだ。力の攻撃に耐えるだけで精一杯のイザナギに加え、あかねは直径十五メートルほどのデカい火の玉を振り落とす。ヤバい! イザナギが燃える! 俺の盾はさらに大きさを広げ、この世界の地上を覆う。
「イザナギ! 叢雲の剣だ!」
「承知!」
叢雲の剣で力の腕を切り裂き、切り裂いた手を足場にして跳躍する。空中で向かってくる火の玉を両断しあかねの傍まで一直線でたどり着く。
「お前は一旦静かにしなさい!」
剣の柄であかねを気絶させる。普通にしていれば何でもない、可愛い女の子なのにな。なんでこんなことになっているんだろう。
力はこっちを見て叫んでいる。
「がぁぁぁっぁぁぁぁぁぁああああぁぁっぁ!!」
何だ? もう理性も何も吹っ飛んじまったのか? あれが俺の息子か。力に会ってから本当に悲しいことだらけだ。
「力……」
「イザナギぃィィイィぃ!! 何故だ!? 私の術は神でさえも操ることができるはずだ!?」
気付いた。こいつはカグヅチだ。イザナギが殺した。イザナギの息子。
「カグヅチ……。お前は我を憎んでいて、なぜ、術を解いた?」
「私は解いていない! 父上!! 私はもう……」
「分かっておる。叢雲の剣は神の力を超える。お前の命はもう尽きる」
「父上……私は……あなたを憎んでなどいません……。ただ……もう一度……名前を呼んで……もらいたかっただけ……だったのに……ど……うして……こんな……」
「カグヅチ、何度だって呼んでやる。すまなかった……カグヅチ……カグヅチ、カグヅチよ……」
イザナギは泣いていた。俺の腕の中で消えていく力の体。
「力!!」
「お父さん、僕もね、お父さんのこと本当は大好きだったんだ。だけどお母さんに会ったら、そんな気持ちもだんだん憎く思えてきて……それで、こんな風になっちゃったんだ……。お父さんに会えて嬉しかった……」
「待ってろ力! カグヅチも! 絶対に守ってやる! イザナギ! 俺の腕を力に渡せ!」
「そんなことをすれば、主殿の腕がなくなってしまう!!」
「いい!! 俺の腕で力が生きるならそれでいい!」
俺は叢雲の剣で自分の左腕を切る。その繋ぎ目に、イザナギを纏わせ元の体に戻っていた力の切り刻んだ腕にくっ付け合わせる。叢雲の剣は、神の力の無効化と共に、蘇生に使うものを生成できる。しかし、蘇生にはイザナギと唯一適合している俺の体と引き換えにだ。命を分け与える力。俺の命ももちろん犠牲になるのだ。
力は一瞬ビクンと体を震えさせ、叫ぶ――
「あ!! ああああああぁぁぁぁぁががっがががぁあああああ!!!!」
急に俺の命の力が体を巡り、のたうつような痛みが走っているのだろう。だが、これで確実に助かるはずだ!
暫くすると、力は落ち着きを取り戻し、今は寝ている。あかね、佳凛、ハジメ、大蛇丸も気絶している。俺の左腕はもうない。少し満身創痍感が溢れている。
「さて、行くか。今度こそ、誓の所へ」
「まだ、他にも力が強い奴いるぞ? そいつらはどうするんだ?」
「たぶんだけど、そいつらはもう敵じゃないよ。カグヅチは抑えたわけだし」
「?? どういうことだ?」
「たぶん、カグヅチがいなくなったことで、形勢は逆転している。見ろ。ヨモツシコメ共がなんか狼狽している」
「確かにそうだが……油断はできまい」
「まぁ、そうだけど、とりあえずこいつらは全員麻由美空間に送っとくよ」
力以外を麻由美空間に押し込み、俺は今度こそ誓に向かって歩き出した。
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