第40話 黄泉の国の戦い②
「そんなんじゃあなたの覚悟も底が知れるわね」
麻由美さんの声が聞こえる。何でだ? どこから聞こえる? もしかして死を直前に幻聴でも聞こえたのか? 死ぬってこういうことか。楽しかった思い出が甦ってくるんだ。でも最後が麻由美さんの声か……。ただのエロババアなのにな……。
「今、すごい失礼なこと考えたでしょ」
その瞬間、辺りにいたヨモツシコメ共が一気に吹き飛んだ。
何だ?
俺の右腕が光っている。そういえばまだ付けていたんだったな。麻由美さんとの通信機。目の前には……あはは……あーあ。みんないる。
「勝手に行くなんて有り得ないぞ!?」
「元治くんずるい! いいとこだけ一人でもっていこうとするんだから!」
「一応私は止めたからね、罪はないから」
「連れてきたのはあんたでしょ」
「ご主人様、ハジメのこと忘れてる」
「忘れてないよ、一番会いたかった」
「ハジメ、嬉しい」
ハジメが一番こいつら殺せるだろうからな。神通力の使い手だし。
事実今この場にいたヨモツシコメ共一掃したのはハジメだ。こいつの術は広範囲で、しかも敵をなぎ倒せる力がある。
「ご主人様、ハジメ、来て早々敵やっつけたから誉めてください」
「おおーよしよし、いい子いい子」
「あたしだってただ見てるだけじゃないんだよ! 神通力! ちゃんと習得したんだよ!」
「私だってそうよ! 神通力! 足手まといにはならないわ!」
「じゃ、私は仕事終わったから帰るわね」
「ちょちょちょ!! 麻由美さん帰ったらこいつら連れて帰れないでしょ!」
「大丈夫よ、頑張れば」
「投げやりだな……」
麻由美さんはガチャガチャと何かを顕現し作り出している。作り終わった物を俺の通信機があった所に取り付けた。
「できた。通信機改」
「はい? 何これ?」
「これで、この通信機の中に帰る人を入れれば大蛇丸の中の空間に戻ることができるわ。さらに取り出すこともできる。その気になれば大蛇丸ごと取り出せるわ」
完全にネコ型ロボットのポケットみたくなっている。
「じゃ、私は帰るわねー」
そう言って入り口みたいに大きくなった通信機の中に入って行った。麻由美さん……空間まで自由に操れるようになっていたんですね。万能能力すごすぎ……。
「イザナギ、分かったか?」
『あぁ、強い気配を持つ者はこの世界には五つだな』
「その中にきっと誓と力はいる。あとは、一回だけ戦ったことのあるマガツヒもいるな」
「マガツヒ!」
あかねが思い出したように答える。
「マガツヒが出てきたら私が戦うから!」
その覚悟はいいが……アマテラスを失ったあかねが勝てるはずもない。
「お前、アマテラスいないのに勝てるのか?」
「確かにアマテラスはいなくなったけど、実は善女竜王の力は残っているんだよ! だから、私は一人じゃない! サダメばあちゃんとも一緒に戦っているんだ!」
「……そうか」
ここまで覚悟も決めているんなら俺からは何も言えない。確かに一人一人で邪神たちと戦うことを覚悟しておかなければならない。有り得る話だ。もちろん全員守りはするが……。
「みんな聞いてくれ」
俺の言葉を皮切りにみんながこっちbに注目する。
「みんな来てくれてありがとう。だが、ここから先は本当に危険だ。戦闘力が低い者や、怯えている者がいれば恥ずかしがることはない。麻由美さんみたいにすぐに帰ってくれて構わない」
――誰も帰らない。じゃあ俺が帰ろうかな……。
「帰るわけないじゃない」
「そうだよねぇ」
「ご主人様、頭悪い?」
「あのなぁ……」
「だって」
「「「元治が守ってくれるんでしょ?」」」
……たくっ。本当に他人頼りのやつらだな。だがまぁ気合は入ったわ……!!
「わかったよ……お前ら覚悟しろよ? これからが本当の戦いだ!」
「「「おおーー!!」」」
結局、俺は一人じゃこんなもんだった。ボスキャラにもたどり着けない軟弱勇者だ。仲間の存在がこんなに頼もしくて、こんなに元気が出るものなんて気付けなかった。俺は一人でカッコつけてみんなを守ることの意味を履き違えていただけだ。
――はは。カッコ悪ぃ。
「ほーら! 行くよ! 元治!」
「元治くん置いていくよー」
「ご主人様、泣いてる?」
「泣いてねぇ。俺がいないとお前らすぐ全滅するんだから置いてくんじゃねぇよ」
「あたしは神通力、ハジメより戦闘向けだぞ?」
「ハジメより強い神通力って相当なんじゃないか? じゃあ佳凛は防御はいらないっと……」
「元治、防御はしてください……」
「佳凛の能力は完全に攻撃力主体だけど、その攻撃力には溜が必要になるから個人戦には向かない」
「ふーん、どんなもんなんだよ」
「簡単に言うと大砲かな?」
「確かにそれが一番しっくりくるかも」
一撃必殺型……みたいなもんかな? まぁそれまで俺が十束の剣かなんかで守っていればいいだけだ。
☆
『止まれ』
イザナギが警戒を促す。確かに……いるな。
目の前の空間が歪む。空間の歪みから現れたのは巨大な蛇……?
「大蛇丸か?」
ピカッと通信機が光る。ワシはここにいるぞい! と顔を出す。よし、こいつを召喚しよう。俺は顔を出した大蛇丸の首根っこを引っ掴み思いきり引っ張った。
「痛い痛い!! 元治! 貴様何をするのだ!」
「お前、こいつの相手をしろ」
「? 誰の……」
ぐりっと首を空間に向けて、ひょっこり覗かせている顔を見る。
「「あ!! 貴様は!!」」
お互い見合って同じ言葉を発する。
「ヤマタノオロチ!!」
「大蛇丸!!」
なにーもー知り合い? じゃあ知り合い同士で勝手に解決してよもー。
「貴様! 性懲りもなくイザナギのペットとして飼われているのか!?」
「貴様こそ! イザナミ殿にこき使われているのか! 程度が知れるな!」
ぐぐぐっ……!! とただの罵り合いをしていたので、俺達は気にせず先に向かうことにした。
本当に気にせずに……。
「イザナギ……、確実そうなところから行こうよ」
『むむぅ、あの場も結構強い気配だったのだがなぁ』
「でも所詮ペットでしょ? 確かにヨモツシコメよりは強いと思うけどさ」
「まぁいいよ、次は頼むぜ」
『承知した!』
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