第39話 黄泉の国の戦い①
扉の前にはおぞましい数のヨモツシコメが蔓延っていた。さて、イザナミはどこに行ったのかな。
黄泉の国の空は赤い空をしていた。雲一つない晴天ではあるのだが……太陽はもちろんない。薄暗い世界に、草一つない地面。十束の剣を振り蔓延っていたヨモツシコメ共を薙ぎ払って感想を述べる。
「昔漫画でこんな場所があったな。魔界とかなんかだったか」
『人間の想像力はすごいものだな、こんな世界を想像で描いたのか』
「漫画家ってイカれているからね」
『主殿も人のことを言えないと思うけど……』
何か言ったか? と十束の剣を睨みつけるがそれ以降何も言わなくなった。
さて、岩肌がむき出しの山が……ひーふーみー……うん、八つ。とりあえず全部壊すか。この辺のヨモツシコメは殺したが、どこに行ってもヨモツシコメだらけだ。異変に気付いたヨモツシコメ共がまた群がり始めている。
「気持ち悪いんだよな……あいつら。なんか虫みたいだしさ。人の原型も無くした奴いるし……触られたくないな……」
『触らないではないか。触るのはいつも我……。主殿はずっと我を振り回しているだけ。ただがむしゃらに、むちゃくちゃに』
「感謝しているぞ、イザナギ。お前が死んでも俺は何の悔いも残らない」
『やはりイカれているな……』
草薙剣に姿を変え、俺は一番近い山に向かって走り出した。誓の居場所がわからないし、とりあえず無双しながら全部壊していく。
「そういえば、力もいるんだよなぁ。あいつに会うの何年ぶりになるんだろうな……」
ヨモツシコメ共を薙ぎ払いながら高速で走っていく。山に着いたら十束の剣に形を変え、山ごと吹き飛ばす。この世界を思いっきり破壊しに来ているだけだな。これじゃどっちが悪かわかったもんじゃない。
世界の広さが全く分からないが、取り合えず進んで行く。ヨモツシコメ共じゃ準備運動にもならない。けど、体動かすのはそんなに好きじゃないから準備運動もそんなに好きじゃないんですけど。さっさとイザナミとか力とか見つけて万事解決して終わりたいんだけども。
入り口から見えていた山はすべて壊した。俺が通った後はヨモツシコメの死体でいっぱいだ。
「VRMMO物みたいに死んだらそつなく消えてくれればいいのに……無駄に血が流れるし返り血気持ち悪いし……イザナギ、どこにいるか分からないのか?」
『ここまで神の気配がそこら中からしてると、特定するのはかなり難しいな……』
「難しいけど……できるの?」
『少しの間、集中してこの世界全体の気配の強い人物を探り当てる』
「その間、俺は丸腰ってやつ?」
『そうだな』
「何分くらい? いや、何秒?」
『二日』
「マジか……このまま探し回るのと、待つのどっちが早い?」
『さぁな』
ヨモツシコメ共は丸腰でも勝てるとは思う。イザナギが十束の剣に変化できるようになってからは俺の身体能力も飛躍的に上がったのだ。適合者の能力はその神の力が上がることで一緒の上がっていくのだ。
「でも、気持ち悪いのはヤダなぁ……」
『こんなところで我儘は言わない』
まぁそうなんだけど……そうなんだけどさぁぁぁぁぁぁ……
「分かったよ、とりあえずお前が集中している間は俺がお前を守るしかないか」
『頼んだぞ? 相棒』
「ご主人様だ」
かなり気が進まないが、とりあえずこの場所でイザナギに気配を探してもらう。早く見つかるといいな……。
ここにヨモツシコメ共が群がるまでにあと二時間といったところかな……俺は丸腰で戦わなきゃいけない……。神通力をもっと修行しておけばよかったな。ハジメの戦い方を思い出す。
「確か型は……こんな感じだったかな……で、気を体に流れるのを意識して……っと」
かなり不格好な気がしたが掌底を突き出すと、少しだけ気の力を外に放出することができた。
「おお! いけるんじゃね!? でもまだ戦闘不能にはできないな。もう少し練習すれば……」
やはり身体能力が上がっているんだ。戦闘にも影響している。神通力の使い方をよく見ておいてよかった。二日間、これで凌ぐしかない。
練習をしているとヨモツシコメ共が大軍を成してやってきた。
「あうぁぁうううあうあああうあ」
「うげぇ……なんでこんな怪物みたいになっちゃったんだよ」
いつかのこっちの世界を襲ってきた奴みたいにちゃんと人の言葉を話せて、人間の原型が残っているヨモツシコメなんてまだ一回も会っていない。いたとしても全部薙ぎ払っているから気付いていないだけかもしれないけど。
あいつらだって元はこっちの世界の人間のはずなのにな……。
俺は二時間で習得したヨモツシコメ対策の神通力を展開する。俺の周辺半径二メートルほどを神通力で囲い、バリアのようなものを出す。バリアに一匹のヨモツシコメが触れると入れないことに激高していた。
「うがあああああああ」
「うわぁ……気持ち悪いな……ほい!」
俺がその場から動かずに殴るような振りをすると、ヨモツシコメが触れていたところのバリアが俺の拳の形に変化し、ぶん殴る。よし! 成功だ!
これが俺の二時間で編み出した神通力の技、『神威』だ。俺の神通力の質によって持続時間もバリアの強度も、攻撃の威力も変わる。しかし、俺は自分の神通力の質がどれだけの物かなんてわからない。いつまでもつだろうか……。
「この技しか持ってないし、結構神通力の総量使っている気がするから、ヤバい気もするんだけど……二日持つかな……」
『持たないと困る……』
「わーってるよ!」
俺の性格と触りたくない気持ちと、攻撃力、防御力を完全に反映させた最強の俺の技だ! というかそれしか技ない。まぁ一撃で殺せる力はないけど、防御と攻撃の一体型で体も最小限の動きだけで疲れもない。ここまで合理的な技はない。すっげーダサいけどな。
――。
「一日は過ぎたか?」
『二十二時間だ』
「まだ、見つからない?」
『うむ……あくまで怪しい……といったところだな。それほど確定した情報ではない』
「気配が強いものがあんまりいないということか?」
『隠している場合もある。それを暴きながら探っているから時間がかかる』
「そうやって探してあくまでも怪しい止まりか……因みに何個くらい怪しいやつあんの?」
『五つ程か……』
「全体を探し終わるまであとどのくらいかかる?」
『あと二十時間くれ』
「じゃあ今がきっかり半分だな」
若干弱まってきた俺の『神威』だが、終わりも見えてきて気合を入れる。でも、持たないのはなんとなくわかっていた。ここまでの二十時間、最初に作り上げた神威のクオリティと現在のクオリティを考えたら、もって後十時間といったところだ。
神通力の使用にはものすごい集中力が必要だ。常時この状態を続けるのはかなりの体力と根気がいる。俺は自慢じゃないが根気には全く自信がない。探索作業だってものすごい運の良さだけで大発見をしてきただけだからな。
「これが解けたら本当に丸腰だけど……俺、大丈夫かな? 発狂しそうだぜ……」
――さらに十時間経った。
半径二メートルほどあった神威の円は、すでに半分以下。俺とイザナギを包んでいるだけになった。体力も限界。ヨモツシコメは無限に湧いて出てくる。もう、持たない。今すぐ寝たい。休みたい。ご飯食べたい!
心身ともに限界を迎えようとしていた。こんな敵のボスキャラにも会っていないダンジョンの中腹で限界を迎えるとか、カッコつけて一人でこの地に踏み込んだが、最高のカッコ悪い終わり方をするかもしれない。
「!! イザナギ! 神威が切れるぞ!」
『わかった!! 覚悟はしよう!』
「しばらくは耐える! お前は探索を続けろ!」
『あい分かった!』
俺を包んでいた小さな光が消えた瞬間、ヨモツシコメはこれを機にと襲い掛かってきた。
「うがあああぁぁぁぁ!!」
てか、なんでこいつら襲ってくるの? 気持ち悪いんだけど!!
怒りで俺は相手の攻撃を躱すと、カウンターで顔面に強烈な一撃を与える。顎が割れる嫌な音と、手に残る感触が俺をさらに不快にさせる……。
「は、はは……今のが最後の一撃だ……。もう腕上がんねぇよ」
『む! 主殿! 大丈夫か!?』
「さぁね……」
「――はぁ、もぅ、情けないわね」
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