第38話 対アマテラス
俺を目の前に大きく出たな。俺を貫き殺すだって? この防御力最強の新木元治を! イザナギの力がなくても身体能力は最強の人間だぞ?
「舐めてもらっては困るんだがな……お前の攻撃ごときで俺が貫けるとは思えない」
『フフ……あかねはこのアマテラスの力を使いこなしていなかったですね。見せてあげます。本当の私の強さを……!』
アマテラスはあかねの体を使い、腕に炎を纏う。腕の周りを高速に回転した炎の渦は、有り得ないほどの熱気を帯び近くを浮遊する岩石をも溶かした。辺りは溶岩が漂い、気温の急激な上昇で雲が蒸発している。
そんな中であかね――いや、アマテラスは不敵に笑う。
『私は太陽の神、イザナギなどすぐに消滅させてやる』
『何を言っておる。お前は我から生まれたんだぞ? 知らんのか?』
「ははっ! 無知は罪なりってな!」
『黙れっ! 今すぐに屠ってくれる!!』
少し怒りの表情を露わにしたアマテラスはこちらの笑いを打ち消すように激高し突進してきた。俺相手に何の小細工もなしにまっすぐ突っ込んでくるとは……戦闘技術は並以下だな。
俺は草薙剣を一閃。空を切った。ただの空振りにも見えるその一閃は空中に留まり、空気の見えない斬撃となりその場に残る。
『くらえ!!』
技を繰り出そうとしたアマテラス。俺の目の前にまで近付くと腹部に大きな亀裂が入った。
『グ……! 何ッ!?』
「悪かったな、草薙剣は空間までも切る」
一瞬何が起きたかわからずに腹部に流れる血を眺めていたが、自分が裂かれたことに気付くと跳躍して距離を取る。
「イザナギ、十束の剣に変われ」
『承知』
20メートルほどの大きさを持つ十束の剣。俺は軽々振り回す。
「アマテラスさん、自分の防御力を軽々超える人間なんて初めてでしょう? さらに溶けない斬撃があるなんて、それも初めてなんじゃないですか?」
『だ……黙れ! 薄汚い人間が!』
「顔色悪いっすよ? 今度はこっちから行っちゃおうかな?」
『く……来るなら来てみろ! 私の熱が負けるはずがない!』
どう考えてもアマテラスに勝ち目はない。実際イザナギだけなら溶けて使い物にならなくなってしまうところだったかもしれない。因みに、今の状況で結構ヤバい。溶けたら二度と固まらないアバストクリクスはアマテラスの熱はすでに弱点だ。
だが、俺は近付くことなくアマテラスを薙ぎ払うこともできる。近付けば草薙剣で、離れれば十束の剣で空気の斬撃を繰り出す。目に見えない斬撃はすべてを切り刻む。
「イザナギ、一撃でアマテラスを潰すぞ」
『ああ』
俺は十束の剣を軽々と振り回し辺りの溶岩ごと切り刻みながら空気の斬撃を設置する。逃げ場を完全になくした所でアマテラスに向かって思いっきり剣を振った。
「あああああああああああ……」
逃げ場を失ったアマテラスは為す術なく十束の剣を受けるしかできなかった。しかし、受けられれば後は我慢勝負になってしまうのだが、こっちは負ける気は一切なかった。本気の本気でアマテラスを切り裂く!
アマテラスは攻撃を受け止めようと両腕を前に出したが、俺の一閃は華奢なあかねの体で受け止められるはずもなく、真っ二つに薙ぎ払った。アマテラスの変異が衣服なのは誤算だったな。俺の剣の腕じゃどうしてもあかねの体を傷つけてしまう。まぁイザナギが実は微調節しているから完璧な一閃になるのだが……
アマテラスはあかねの体から離れ、空を舞う。
「あかねは、お前を纏って舞うのが好きだったな」
『くう! 人間! 人間め!! 我らの信仰を止め、不届きに歴史に封印した人間ごときに……!!』
「お前みたいな神に誰が祈るんだよ。自分の性格考えろよな」
『うがぁああああ!!!!』
けたたましい叫びを上げ、消えていくアマテラス。裸のあかねを抱え次の相手に備える。
「いるんだろ? 麻由美さん。あかねに服を用意してやってくれよ」
「……よく気付いたわね」
イズノメの力で顕現した岩石の中に身を隠して窮地を逃れていた麻由美さんがひょっこり顔を出す。
「麻由美さん支配されてないでしょ?」
「さぁ? 支配されていると言えば満足?」
「イズノメは?」
「いるわ。私の中にね。でもおかしいの、この子、確かに最初は意識が持っていかれそうだったんだけど、すぐに引っ込んだの。何度呼んでも出てこないし……」
「ふーん」
支配も完璧じゃないってことかな? もしイズノメが人間を憎んでいないとしたら、もしかしたら……。
「イズノメって実は、神じゃないんじゃないの?」
「どういうこと? あ、待って、成る程……有り得るわね」
有り得るかは分からないが、神に近しい存在であるという推測だ。神に近ければ近いほど意識は持っていかれるんだと思う。イズノメは神に近しいだけで神ではなく、イズノメ自身の選択で麻由美さんの意識を持っていくのを止めた。
「そう考えてみると、神の軍団も一枚岩じゃないかもしれない」
「多少の勝機は望めるかもね」
「それでも大半はイザナミの味方だろうけど……」
「俺は黄泉の国へ行く」
「うん」
「こいつらを地上に帰してうまく大蛇丸と合流してくれ」
「この子達、連れていかないの?」
「もう普通の人間だからな、危険な場所には連れていけない」
「こっちの世界も十分危険だけどね」
「大蛇丸と麻由美さんがいれば大丈夫でしょ。ハジメだって戦える」
俺は……まだ誓を救っていない。俺は人生で誓を守ると決めたことがあった。しかし、守ることはできなかった。息子もそうだ。守ってやれなかった。今度は絶対に守る。俺の命に代えても……
佳凛とあかねを麻由美さんに任せ、俺は扉の奥に消えていった誓とその他諸々を追いかけることにする。
「麻由美さん、一応言っておくけど、そいつらが気付いても絶対にこっちに来ちゃダメだからね」
「まぁ、止めはするけど……どうなるかね?」
「本当に頼みますよ! 黄泉の国に入ったら戻れなくなるかもしれないし、守り切れないかもしれない。俺が一人で行く意味なくなっちゃうでしょ!」
「しーらないわよー。若い子ってエネルギーすごいから」
「ほんと! 頼みますよ! まったく人の覚悟を何だと思ってんだ! まったくっ!」
俺は麻由美さんに背中を向け、十束の剣を黄泉の国の扉に向かって思いっきり振るう。小さく開いていた黄泉の国の扉は衝撃で完全に開かれた。
「じゃあ、行ってくる」
「ほんと、私には迷惑しか掛けないのね」
「ごめんね、麻由美さん。感謝してる」
さて――覚悟は決めた。別れの挨拶も済んだ。あかねと佳凛はまぁ許してくれるかな……。いや、うん、多分許してくれないだろうな……。
扉に向かって俺は歩き出した。麻由美さんは俺が進みだすと、佳凛とあかねを変なケースに詰め込んで下に降りていった。イズノメが麻由美さんにすべてを任せたように、向こうにもそんな奴が少しでもいればなぁ……
『弱気になっているのか?』
「少しね……」
『どうした? らしくもない』
「そんな日もあるんだよ」
『安心しろ。主殿が危なくなったら我が守る』
「有り得ないかもしれないがよろしく頼むよ。じゃあ俺からも一言」
『なんだ?』
「お前がピンチになった時は絶対に俺が守る」
俺達は笑いあった。結局俺らは似た者同士。同じような境遇の中、同じような人生を送ってきたのだ。そして、今、同じ場所に二人で立っている。俺達は一人でも最強だ。だが、二人いればさらに最強なんだ。
さっきまで感じていた焦燥感はもうなくなっていた。俺は一人じゃない。今までも、そしてこれからも。
「行くぞ!!」
『ああ!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます