第37話 対ツクヨミ
俺と古の神々が相対する。ツクヨミもアマテラスもすでに姿を変え双剣と、炎を纏う服に変わっていた。
「元治……お前の防御は厄介だったが、その剣では防御は疎かなんじゃないか?」
「ご心配なく」
「相変わらず強情じゃのう……今私がお前を灰に変える舞を踊ってやるからな」
「痛み入ります」
どちらも佳凛とあかねから発せられた言葉だが、内容は完全にツクヨミとアマテラスだ。
『主殿……本気でやるか?』
「当り前だ」
『殺すことになるかもしれないぞ?』
「そうだな……」
俺は迷っていた。この十束の剣と化したイザナギの攻撃力は確かにすごい。一振りすれば地は裂けるし、空に放てば空間を割る。この攻撃は本気で振ればたとえ神だろうが一撃で殺せると思う。
しかし、20メートル程の大きさとその重量から細かい攻撃はできないし、攻撃が外れれば大きな隙を生んでしまう。一度十束の剣に姿を変えたイザナギはすぐには元に戻れない。すべて実験した。麻由美さんの大蛇丸空間は大いに役に立っていた。
「そういえば、大蛇丸くん。君は何でそっちにいるのかね?」
「わしは女性の味方なんじゃ」
「そうだよね、お前、適合者じゃないもんね、操られてないよね」
「元治一人の味方をするより、女の子ばっかのこっちの方がなんか勝った気がしたんじゃ」
「……ほんとにこの世界のジジイっていうのはあんなのしか生き残っていないのか……」
「うるさいわい、こっちとしてはお主も操られる可能性が少しでもある限りどっちにも本当ならつけんのじゃ」
「ごもっとも……、でも俺操られてないからこっちに来てくれない?」
「オロちゃん、元治の仲間なの?」
「違うぞぃ、わしは女の子の味方じゃ」
ピキッ……! 大蛇丸の態度がなんとなくイラついてしょうがない。
「イザナギ、全員殺すぞ」
『生き残り探すはずだったのに見つけたら全員殺すとか、悪魔の様だな』
「うるせー! おい大蛇丸! こっち来ないなら覚悟しておけよ!」
「だあああ! わかった! 元治待て! わしの中の人間は操られていない! 神通力持ちや一般の人間だ! ハジメもいるから止めてくれ!」
「そんなに懇願するなら最初からこっちにつけってんだ!」
「お父さん、ちょっとうるさい。私を出して」
ハジメが大蛇丸の口から這い出てくる。
「ハジメ! 危ないからパパの所にいなさい!」
「臭いからヤダ」
「反抗期か……ぐふぅ!!」
ハジメは大蛇丸の腹部分を思いっきり殴った。
「お父さんは思考が人とはずれてる」
「まぁ、人じゃないからな、それよりもハジメ! お前大丈夫なのか!?」
「? 私は神持ちじゃないし全然大丈夫。それよりも危険なのはこの世界にいた神持ち全員が敵に回ったこと」
「神持ち全員って……そんなにいないだろ」
「隠れていっぱいいた。麻由美が生き残りを探している内にどんどん出てきた」
そうなの? 俺が見つけたアバストクリクスってみんなを神にしちゃうような代物だったの?
「とにかく、今は神持ちで意識を保っている人間は元治しかいないってこと。ほとんど神対人間って感じだよ」
「んー? そうなるとおかしい気がするな。何で俺大丈夫なんだろ? さっきは意識が強いからだって思ったけど、俺だけが大丈夫な理由にならないな」
「さぁ……」
まぁいいや、今から全員俺の手で屠ってやる。なんか、昔やったゲームみたいでテンション上がってきた。操られているといってもきっと心の奥底では誓や佳凛、あかねの意識はきっと残っているんだ。だから俺は彼女らを助けてやらねばならない。きっと、誓は俺をみんなを守る最後の力に選んだんだ、だから俺はイザナミに支配されない。すべての防御を捨ててでもあいつらを守ってやらねばならなくなった。
『本当に誓殿の意思が残っているというのか?』
「わかんねえよ、でもさ、そう考えた方がやる気が出るだろ? お前もイザナミの良い気持ちが残っていてお前を操らなかったって思った方がやる気出るんじゃないか?」
『違いないな』
「話はまとまったかしら?」
「待っていてくれたのか? 優しいな」
「ご主人様、私、作戦も何も聞いていないんだけど」
「作戦は……そうだな、生き残ることかな」
「かしこまりました」
「俺は神々のクソ共を相手する。ハジメと大蛇丸たちはヨモツシコメから人々を守ってくれ。危なくなったら即退散。絶対に無理はするな、そして生き残れ」
「すべて了解しました」
『そんなんでいいのか? 今生の別れになるかもしれないぞ』
「ならねぇよ」「なりません」
「いくぞ!!」
俺は佳凛とあかねに突っ込んでいく! できるだけ早く! 目にも止まらないスピードで!
俺の間合いは20メートル。遠距離から一撃!
「うおりゃぁぁぁぁあああ!!」
ごごごごおおおおおぉぉぉぉ!! かつて遺跡だった空中に浮かぶ地は一撃で崩れ去り単なる浮かぶ岩石になった。重力がなくなったかのように打ち上げられた石はみるみる空高く上がっていく。石伝いに佳凛に近付き、イザナギを近接用の剣に形を変える。
「草薙剣!!」
近接用に小さくなったイザナギは小さい体に凝縮された力で佳凛の双剣に襲い掛かる!
ガキイイイイィィィィン!!
ツクヨミはその体で草薙剣を受け止める。
「まだまだあああぁぁぁぁぁ!!」
俺は連撃に連撃を重ねツクヨミを破壊する勢いでラッシュをかける。因みに俺は剣技なんて使えない。ただがむしゃらに切りつけるだけだ。だがその一撃一撃に今出せる最高の力を籠める。
「くっ! うざったい!! くらえ!!」
佳凛が斬撃から逃げるように飛ぶ。そして、真上から技を繰り出す。
「奥義、双剣四面楚歌!!」
真上からの攻撃にもかかわらず、四方八方から斬撃が飛んでくる。避け切れるわけがない。俺は、斬撃の僅かな隙間から佳凛へ跳躍し真下から切りつける。跳躍の瞬間に左目と左腕を切りつけられる。
「俺を殺すつもりならもっと威力のある技を繰り出さねぇとな!」
真下から一閃。俺は佳凛の両の腕に一撃を入れる。佳凛の両腕から双剣が吹き飛び、同時に砕け散った。
『クソ! クソ! クソ! 我は神だというのに! こんな下賤な人間に敗れるというのか!?』
「下賤な人間から一言言わせてもらえば、イザナギも神だし、あんたみたいな美人そうな神が「クソ」とか言っていたら慕っている人間は幻滅しちゃうよ?」
『くそおおおぉぉぉぉ!! しかし、まだ終わってはいない! 今イザナギ様は黄泉の国へ向かった! お前は追いかけなくてはならない! 我らの城で向かい合い絶望を感じるがいい!! クケケケケケケケケケ!!』
「言われなくても行くけど、俺は絶望はしない。ただみんなを守るだけだ」
俺は気を失った佳凛を抱え、岩に着地する。しまった。気絶した佳凛、どうしよう。こいつ、多分ツクヨミいなくなったからただの人になっちまっただろうし、抱えながら戦闘はできない。
その刹那――
俺は焼けるような首の痛みに悶絶する。
「うがぁああぁあぁあぁぁぁ……」
「あーあ、佳凛ちゃん負けちゃったか……ちょっと戦闘が早すぎて援護できなかったよ」
「……あ……あかね……!!」
俺が少し油断している間に気配を殺し近付き思いっきり首を蹴られたのだ。
「なかなかいい趣味してんじゃねぇか、背後から襲うなんてさ」
「後ろには気を付けないとね♪」
俺はイザナギを紐状にして佳凛が落ちないように締め付けておぶる。
『主殿、これ、勝てる?』
「さぁな」
「そんな状態で私に勝てるのかな? 私は佳凛ちゃんより早いよ?」
「知ってるよ。でも攻撃力は佳凛より下だろ」
「防御力ゼロの元治くんに言われたくないな」
「……いい加減、あかねの真似をするのを止めろ! アマテラス!!」
「……フフ、いいでしょう。元治、その人間ごと貫き殺してあげます!」
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