第36話 計画始動
見下げた世界は紅く染まっていた。それはまるで噴火したマグマのように流動的で、血のように鮮やかな赤色だった。
「な……なんだこれは……」
「ねぇ! あたしたちも下に行った方がいいんじゃないの!?」
「そうだよ! 元治くん! イザナギに守ってもらえばみんな助けられるよ!」
「……いや、ダメだ。それよりも……お出迎えの様だ……」
二人は俺の視線に気付き下を向くのを止める。俺の視線の方へ顔を向けると少し安堵した表情をする。
「誓さん! みんなを守ってくれたんですか!?」
そこには誓を中心に仲間たちが空に浮いていた。みんな何も言わない。さっきの麻由美さんの件もあるし、警戒を解くわけにはいかない。
「やっと……やっとこの時が来ましたね……」
「?」
「私はこの時をずっと待っていました……本当に気が遠くなるような……長い長い年月を経て……計画を実行に移す時を待ちました」
誓と仲間たちはかつて遺跡の大部屋だったところに降り立つ。誓は少しずつ俺達に近付き語り始める。
「私は息子を産むとその傷が原因で命を落としました。あなたは、私が命をとして産んだ子を殺した」
『……』
「私は……黄泉の国であなたを怨みました。またどこかで会うことがあれば、必ずこの手であなたを殺してやると……そう心に誓ったのです」
『主殿……もぅ分かっているとは思うが……』
「あぁ、この嫌な予感が正しければ……な」
「息子のカグヅチもあなたを怨んでいます。私達を殺しておきながらのうのうとこの世界で楽しく生きていると……今、まさに復讐の時が来ました……でも、ただ殺すなんてもったいない……黄泉の国に落とされた神は、みんなあなたを怨んでいますよ?」
「う……うわあああぁあぁぁぁぁぁ……!!」
「あ、あ、あ、ああああああああ!!!!」
佳凛とあかねが急に暴れ出す!
「ど、どうした……!」
「覚悟しておいてくださいね? ……あなた?」
急変した二人が空中に浮く。
「おい! お前! あいつらに何をしたんだ!」
「フフ……彼女たちは黄泉の国の扉を開く鍵なのです。大丈夫ですよ、殺したりなんかしませんから……フフフ……」
二人の後ろに十字架のような磔台が出現し、二人を鎖で拘束する。
「さぁ……この先の世界を一緒に楽しもうじゃないですか……」
「ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!」
「あぎゃあああぁぁぁああ!!」
磔にされた二人の後ろに大きな鉄格子の扉が出現する。全体で20メートルはありそうな扉だ。二人の力を吸い取り扉が開こうとしているのが分かる。少しの隙間が開いた時、中からは夥しい数のヨモツシコメ共がなだれ込んできた。
「ちぃ! イザナギ行くぞ!」
俺は二人を磔にしている十字架の方に飛ぶ。
『ヨモツシコメ共はどうする!?』
「んなもん後だ! 俺は二人を助ける!」
『御意!』
「あら、この世界はどうでもいいのかしらね……? 二人を助けてもさらなる絶望が待っているだけだというのに……」
「うるせぇ! 年増! 黙ってろや!」
「……」
『主殿は……あれがイザナミだと分かってもそんな態度なんだな』
「イザナミが何だ!? クズには違いないだろ!!」
『ククッ! その通りだな! もう妻とは思っておらんのか?』
「てめぇの妻でもあんだろ!? 趣味悪いぞ!」
『うるさいわい』
イザナギは大きな剣に姿を変化させ、俺の手に収まる。
「これが俺の唯一の武器だ! 十束の剣!!」
後ろの扉と同じくらいに大きいその剣を俺は余裕で振り回す。二人を縛っていた鎖を切り裂き、地面に着地する。
「二人とも大丈夫か?」
「けほっけほっ! 元治……ごめん……」
「あぁ、悪かったわね……」
「何を謝っているんだ? 大変なのはこれからさ」
「そうじゃなくて……私達はイザナミ様の味方だってことよ!!」
佳凛が不意を突いて俺に蹴りを喰らわす。
何が起きたかわからず俺は地面に突っ伏す。
「ぐえっ」
「ごめんね、元治くん。私達は元々イザナミ様の仲間なんだ。ここまで、黄泉の国の開けさせるために動いていたの」
「そん……そんなわけあるか! お前らは俺の仲間でこれまで一緒に旅をしてきてここにたどり着いたんだろうが!」
「全部イザナミ様を完全にこっちの世界に呼び出すための演技。元治、あなたはもう誰一人として味方はいないの。おとなしく死んだ方が幸せかもよ?」
「おい! 佳凛! あかね! 悪い冗談ならやめてくれ……いい加減にしないと本当に加減はしないぞ」
「あなた、黄泉の国とこの世界の神々相手に喧嘩売ろうっての?」
「俺は結構諦めが悪くてな……」
『主殿、勝算でもあるのか?』
「さぁな、どうだ? イザナギ、全員薙ぎ払えるか?」
『さぁな』
お互い博打好きだな。だが、引けを取っているようなら今ここで俺の横にはいないだろう。
「悪いが、俺は喧嘩を売ったつもりはない。しかし、俺が持つこの十束の剣は一薙ぎで世界の形を変えるほどの攻撃力があるからな、覚悟しておけよ?」
「フフフ……立場が逆になってしまいましたかね? ここにいる神、全員あなたの味方ですよ? 元ですけど……フフフ……」
「……イザナギ」
『何だ?』
「操られている可能性は?」
『100パーだな』
「おーけー」
俺は十束の剣を構える。20メートルほどあるその刀身は青く光り輝き、神々しさを醸し出している。俺は誰もいない場所に向かって一薙ぎする。その一薙ぎは空へ向かっていき雲を切り空気を切り青空の空間を切り裂いた。
「さて、窮鼠猫を噛むっていうが……この場合俺が鼠か?」
『ははは、そんな堂々とした鼠がいるとは、この世界の鼠は威勢がいいな!』
「笑っていられるのも今の内ですよ、さっきの攻撃は威嚇のつもりですか? あのくらい防げないこともないです。あなたは私達に捕まり拷問され、飽きたら殺されるんです。あなたの愛した者の体を持つ神と、あなたを愛した者たちの手でね」
「よく喋るなぁ、お前、神を味方につけているとか言っているけど、どうせお前の能力かなんかで従わせているんだろ? そんなもんで完全に人間の心を支配できるとか思っているんじゃねぇぞ?」
「私の力は神の力を最大限に引き出すこと。最大限の力を引き出した神は人間の肉体を完全に支配するわ。もはやこの者たちに人格などありはしない!」
「だからさ、そう簡単に人間の心ごと操れると思ってるんじゃねぇよ、じゃあ聞くが、イザナギは操らねぇのか?」
「!?」
「やらねぇんじゃねぇよな? 俺の意識がイザナギに完全に根付いているからこそ、できねぇんだよな。俺はプライド高いからなぁ」
「しかし! 私はお前らに復讐をするためにここにいる! 黄泉の国への扉は完全に開かれた! どうあがいても、お前は不幸になるのだ!」
「どんな復讐だろうが関係ねぇよ。俺は結局こいつらを絶対に守る。最初から最後まで俺はこいつらを守るためにここに存在しているんだよ!」
俺は神の軍団に向かって剣を振り下ろす! その瞬間、風が止み、そして爆発した。何人かは吹き飛ばせたか? まあいいや、死んじゃいねぇだろ。あくまであいつらは能力者だ。あんな一撃ではダメージすら入らない。
俺はある一点しか狙っていない。最初からアバストクリクスしか狙っちゃいない。あれを引き千切れば神は宿主を失うだろ。黄泉の住人は最初から死んでんだから殺すつもりでいくつもりだけど。
「イザナギ! このまま薙ぎ払い続けてあの扉の奥まで行くぞ!」
『黄泉の国へ行くのだな! 承知した!』
「誓、悪いがその体、また切ることになるけど、許してくれよな」
「……はい」
誓の心の声が聞こえた気がした。あいつは俺が唯一守ってやれなかった女だ。また切ることになるけど、きっとあいつはわかってくれる。あいつは俺が認めた唯一の女でもあるんだ。
「行かせるかぁ!!」
あかねと佳凛が俺の前に立ちふさがる。あ、大蛇丸もいるわ。んー結構大変だなぁ。
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