第35話 色

 そこは一畳くらいの小さな空洞になっていて、中には多数の小さい箱が地面に乱雑に転がっていた。


『ツクヨミ、何か感じますか?』


『そうね、この箱の中のどれかに何かあるんでしょうけど……』


「一つ一つ調べていくしかないか……」


 結構な量だ五十個くらいはあるかな……、俺は一つを手に取り箱を開ける。すると箱が大きな絶叫を上げ辺りに木霊する。


「ギャイイイイイイイィィィィィ」


 その場にいた全員が耳を塞ぎ縮こまる。何なんだ一体……。


「元治さん! ちょっとこっちに来てください!!」


「何だよ……もぅ……」


 俺は小部屋の外に出て辺りを見回すと、大きな違和感を感じた……。


「どういうことだ?」


「大きな嫌な音が聞こえたと思ったらこうなってしまいました」


 大部屋の中は壁の色が赤褐色の石から青く変色していた。ずっと見ていると気落ちが悪くなってきそうだ……。


 この箱……、一つ一つに仕掛けがあるのか? コレ……地上にも影響出てないよな? 少し不安を感じながらもラチカがいるから出られなくなることはないか。


「この部屋自体に仕掛けが掛けられているとみていいと思う。たぶんだけど、地上には問題ないだろう。たぶんだけど……」


「今開けた箱では部屋の壁の色が変わる。他のでは部屋ごと転移するとかいろいろ予想しておいた方がいいかもしれない……」


 大きな不安を感じつつも俺達は箱を開けることにした。もしかしたら戦闘の可能性もある。体力には気をつけておかないといけないな。麻由美さん達のこともあるし、戦闘員をこっちに集中させておくには時間は短縮しないといけない。むしろ一回村に帰ってからの方がいいか……。


「今日はここまでにしよう」


「え? やっちゃおうよ!」


「今日は探索も結構やったし、体力も底を尽きかけている。これ以上やってもし戦闘になったら死人が出てもおかしくない」


「でも、これだけの仕掛けだと、またここに戻ってくることも難しいかもしれないよ?」


 た……確かに……、じゃあできそうな人間で残りはラチカに任せて箱開けを続行するか……危険も多い気がするが。ラチカなしでここから出られるかもわからないが、俺達なら大丈夫だろう。食料は無限にあるし。


「わかった。ラチカ! 俺と佳凛とあかねを残して、他の人間を村に戻してやってくれ。村に帰った後は、麻由美さんの指揮で動け。ここには戻ってこなくていい」


「いいんですか?」


「俺達ならまぁ大丈夫だろう。全部調べ終わったら村に帰るよ。いつになるかは保証できないけど」


「分かりました。じゃあ皆さん行きますよ」


 そういってラチカは俺たち以外の全員を連れて村に帰っていった。


「さて……じゃあ始めるか。こうなったらもう何が起こってもいいから片っ端からどんどん開けていくぞ」


「アイアイさー」


「はーい」


 二人は近くにある箱をどんどん開けていった。一つ一つ嫌な悲鳴を上げてくるので正直心臓が痛い。


 俺も近くにある箱を片っ端から開ける。地震が起きても、洪水が起きても知らん顔で開けていった。最後の一つを開けた時、外にあった大部屋は地震と洪水で見る影もなく崩れ去り、岩場の隙間から水がピューって飛び出ている。


「で、何かあったか?」


「何にもないよー、あぁ……耳が痛い……」


「こっちも収穫ないわね……」


「マジか……何もない上にこの状況かよ……」


 俺は項垂れてこの部屋の惨劇を見る。はぁ……どうやって脱出するんだよ……。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


「うぉ! 何だ! 今までで一番でかいぞこの地震!」


「こんな密室状態でこんな大地震! ヤバいんじゃない!?」


「うわぁあ!!」


「おい! お前ら早く俺の傍に来い! イザナギ! 俺らを包め!」


『承知した!』


 イザナギは俺達全員を包み込み、身の安全を確保する。


「ちょっと! ここなんかおかしくない!? なんかいつもと地震の感じが違うというか!」


「確かに……縦揺れとか横揺れとかと違う感じだな……」


「何冷静に分析してんのよ!」


「いや、やっぱり研究者としての血が俺をそうさせるのか……」


「意味わかんないこと言ってないでちゃんと私達を守ってよね!」


「イザナギ」


『分かっておる』


「あんたほんとイザナギいないとただの変態ね」


「じゃあ佳凛ちゃんは元治くんのこと嫌い?」


「嫌いなわけないじゃない! あかねだってこんな男の事幻滅しちゃったんじゃないの?」


「こんな元治くんも可愛い……」


「あたしは変なところに迷い込んでしまったのかもしれないわ……お父さんお母さん今行くよ……」


 バカ話をしている内に部屋の天井が崩れてきた。イザナギが守っているから何にも感じないけど。


「やはりなんかおかしいな。部屋がこんなに崩れているのに俺たちのいる地面は何か浮き上がっているような変な感覚だ」


「これ、本当に浮き上がっているんじゃないかな?」


「そんなわけ――」


 俺達が確信に迫ろうとしていた時に天井はすべて崩れ去り、青空が見え始めた。


「おい、俺達さっきまで地下何階にいたんだっけ?」


「十二階よ」


「わーい! 空が見えるー! 今日もいい天気だねぇ!」


「まぁ……いい天気だな……」


「あはは……そうね……雲一つない晴天。太陽がこんなに近くにあるなんて素敵……ほんとに死んじゃったのかなあたしたち」


「足はあるよ?」


「幽霊とか怨霊でとかで、全体映っているくせに足ない奴っていたっけ?」


「見たことないわね……」


 エレベーターで上の階に行くような浮遊感が収まり、俺達の居た場所は空中で留まる。


「宝石とかロボット兵とか出てきそうだな……」


「あ! 大部屋だったところも一緒に空まで上がってきているよ! 瓦礫とかは全部下に落ちたみたい」


「ああ、洪水とかと一緒に入り込んでいた魚たちも一緒に下に落ちていったみたいだな。これで空から魚が降ってきた秘密が解けた」


「あったわね、そんなこと」


「ま、つまりここが――」


 高天原ってことだな。誓の話だとここに黄泉の国の入り口があるってことなんだけど……。下に残してきた戦力が大きすぎて突入しても不安しか残らないな……。


 どうするか……。高天原を発見したが、黄泉の入り口もどこか分からない、誓がいないと何もわからない。ラチカが気付いてこっちに来てくれればいいが……。あ、そうだ、麻由美さんに連絡してみよう。


 俺は麻由美さん専用の携帯電話をみると、麻由美さん人形は何か項垂れていた。


「麻由美さん! 麻由美さん! 聞こえますか!?」


「あ、元治? どうしたの?」


「どうしたのじゃないですよ! 高天原! 見つけましたよ!」


「ああー……ちょっと今それどころじゃないかも……」


「え? 何かあったんですか!?」


「エルフのジジイが暴走しちゃったのよ……私もなんかおかしい……気がする。何かに支配されそうな……」


 何だ? 下で何が起こっている!? 大丈夫なのか!?


「麻由美さん! ラチカと一緒にこっちに来るんだ! 状況を教えてくれ!」


「……」


 携帯電話から音は何も聞こえなくなった……。


「ねぇ……下、見てみてよ」


 佳凛が何か怯えるような表情でこっちを見る。下を覗くと――


「な、なんだこれは……」


 地球は青かったなんて言葉、誰が言ったんだっけな……。初めて人類が月に降り立ってからすでに650年余りの時間が経っている。今では誰もが気軽に月面旅行に行ける時代だ。月に移住する人もいるらしいが、酸素の問題などで一時帰宅はしなくてはならないものの、月にいる人間は誰もが思う。


 地球は青かったって――



 ☆



「こんなに紅く染まった地球なんて……初めて見た……」


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