高天原

第34話 秘密の扉

 探索を始めて三日……。未だ高天原に行く方法は掴めずにいた。


「この壁画がなんか意味あると思うんだけどなぁ」


 遺跡の中はまだまだ先があり、地下に続き、最奥には至っていない。俺が一人で探索したものと合わせても恐らく半分くらいしかマッピングできていないだろう。


「まったく……どこまで続いているのよ、この遺跡……」


 確かに……人工的に作られた物であるものの、現在は地下十二階だ。一フロアはさほど大きくないが、それでも広さ的に東京ドームくらいの面積はある。


 大体、一フロアに大部屋が一つあり、壁には人物が何かをしている仕草の絵が描かれている。ある程度探索をして、壁画を模写し、ラチカの神通力で地上に戻る。これがこの三日間の生活サイクルだ。


 現在は、地下十二階に描かれた扉を開ける様子を描いた壁画を模写しているところだ。地下十二階は非常に入り組んだ迷路になっており、小さい洞穴のような所に身をよじらせて通った先、この大部屋を見つけたのだ。大部屋が見つかった時、歓喜する者や、まだ続くのか……と落胆する者が半々でいた。


 探検隊のほとんどがこの三日間で麻由美さん部隊が見つけた人間である。この世界では何人かで安全な場所で待機していたり、生き残りを見つけようと必死に旅をしている者、村を作って生活している者など、結構人はいるみたいだ。


「ラチカ、もうそろそろ上に戻ると思うから準備を促しておいてくれ」


「分かりました、しかしこの遺跡は不思議ですね、とても人が作った物には見えない」


「確かにな。大部屋への道もかなり雑にはなってきているし、これ以上複雑になるようだと死人が出るかもしれない。一回編成を考え直した方がよさそうだな……」


 探索に連れてきている人間は、十五人。俺や、ラチカ、神通力遣いを抜くと十人は一般の志願隊だ。この世界を救おうと自ら手を挙げたものだ。神通力遣いや俺達は身体能力が向上しているから大した苦にはならないが、一般人には相当きついものだろう。


「あかね、大丈夫か?」


「私は全然平気、だけどついてきた人達はかなりしんどそうだよ?」


「そうだな……大蛇丸の中で待機してもらっていた方が今後の為にはいいかもしれないが……みんな気持ちが強いから納得してもらえるかどうか……」


「でも不思議。こんな世界にもまだこんなに人がいたなんて思わなかったよ」


「おおーい」


 探索隊の一人が俺達の元に声を掛ける。


「どうした?」


「いや、この大部屋の一つに扉が一つだけあるんだけど、押しても引いてもまったく開かないんだ。ちょっと元治さん見てもらえませんか?」


「わかった、もう少ししたら行くから待機していてくれ」


 俺はササっと模写を終わらせ、問題の扉に向かっていく。


「この扉開かなかったら探索は一時停止?」


「そうなっちまうな……まだ高天原に行く方法も見つかっていないというのに……」


 今まで扉なんて一つもなかったのに、ここへきて急に出てくるなんて……しかも開かないときた。何か重要な秘密が隠されていると思っていいだろう。扉の前に立つと、鍵穴もなく、ただただ重そうな鉄の扉が立ち塞がっていた。


「イザナギ、何か感じるか?」


『いや、我には何も……』


「あかねはどうだ?」


「私は何も感じないけど……アマテラスは何か気付いたみたい」


『何か不思議な力を感じます。何かこう……力強くもあり、儚げでもあり……何なのかはよくわかりません。しかし、きっとこれは私とツクヨミの物……だと思います』


「ツクヨミ? ちょっと呼んでみるか」


 俺は通信機で麻由美さんに呼びかける。


「あーら、元治、また私の声が聞きたくなったのかしら?」


「佳凛いる?」


「もう、連れないわねぇ、佳凛ちゃん! 旦那さんがお呼びよ」


「どうしたのよ元治。私の声が聞きたくなった?」


「ちょっとこっちに来てくれないか? アマテラスとツクヨミが必要みたいなんだ」


「あたしじゃないんかい!」


 一人で乗りツッコミみたいなことをしている声が聞こえるが、どうでもいいのでスルーする。


「ラチカ、迎えに行ってもらっていいか?」


「まったく人使いが荒いですね……」


「ごめんって」


「まぁいいですよ、どうせそのために私だってついてきたんですからね」


 ラチカは麻由美さんの必死の説得によって今ここにいる。ジジイに見つからないように機を窺い、ラチカが一人になった所を拉致され、大蛇丸の中で話をされたようだ。


「協力しないようなら大蛇丸の胃酸を頭から被せる」


 と言われたそうだが、事情を聞き首を縦に振ったそうだ。しかし、ジジイも恐ろしいやつで液状化した耳をラチカに常にくっつけていたそうで大蛇丸から出てきたときにはすでにバレていた。


「ダメじゃ!」


「しかし世界が黄泉の国に支配されようとしているんですよ!?」


「それでもだめじゃ! ラチカはここにいないとダメ!」


「なぜですか!?」


「お主がいないとこの村が危なくなったときどうするんじゃ……、村人全員を逃がすことができるのはお主しかおらんというのに……」


「それは……」


「おじいちゃんたち、全員大蛇丸の中で暮らさない?」


「麻由美さん、わしはまだお主のおっぱいも触らせてもらっておらん! 信用には欠ける!」


「じゃあこの提案を飲んでくれたら……もっとすごいこと……おじいちゃんにしてあげてもいいんだけどなぁ……」


「む……」


 この時ジジイは村人の命ともっとすごいことを天秤にかけ、熟考したという。そして……


「いいじゃろう♪」


 結局折れた。ということで、エルフの住民は大体が大蛇丸の中で暮らしている。神通力を使えるものは志願している者だけ部隊に参加している。


「ジジイはいらないはずだったんだけど……」


「おじいちゃん、結構用意周到なのよ……欺くのはなかなかできないわねあれ……」


「もっとすごいことはやってあげたの?」


「何それ?」


 忘れていた!


 まぁ、村にいるより安全な場所だといっても過言ではないし、そんなに問題ないか。


「じゃあ行ってきますよ」


「頼む」


 ラチカの体が光り輝きその場から姿を消す。その五分後、佳凛を連れて戻ってきた。


「元治!」


 名前を叫びながら俺に抱き着こうとしたが、寸でのところであかねに引き剥がされる。


「あかねちゃーん……問題の扉はぁ……こっちなんだ……け……ど!!」


「あーら、あかねさん……まだ生きていたのねぇ……」


「私はそう簡単には死なないよぉぉぉ……」


 こいつら急に仲悪くなってないか? まぁいいか。


「とりあえず、佳凛にあかね、その扉を二人で見てくれないか?」


 二人は怖い笑顔で見つめ合いながら扉の前まで歩みを進める。


『確かに……何か変な感じはするわね……』


『そうなのです。だけど何があるかまでは分からない。弱々しくも、力強い……よくわからないのです』


『とりあえず開けてみましょう』


 二人は取手に手をかけ扉を開けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る