第33話 高天原へ……

朝早く、俺達は族長に呼ばれた。


「お主が勝手に遺跡に入っていたことはもう問い質さんが、これから黄泉の国へ入ることは許すわけにはいかない」


「そう言うとは思っていたが、思っていた以上に険悪な感じだな……」


 周りにはあの日風呂を覗いていた岩石さんも含め大勢が族長に詰め寄っていた。みんな俺達の事情を聞き賛同してくれた者たちである。


「こんなにも賛同者がいてもダメか?」


「ああ、だめだ。あそこには黄泉の国へ繋がる扉を封印している。今この場にそちらの誓さんがいるということは我らも赴き、結界を強めなくてはならない」


「俺達が黄泉の国へ行った後に結界を張ることは?」


「それはできない。結界を一度解けば黄泉の国にいるヨモツシコメが一気にこっちの世界になだれ込んでくるだろう。そうしたら、お主たちが黄泉の世界を救ったとしても、こちらの世界は征服される」


 そこで俺達すらもいないこの世界の住人は誰も太刀打ちできないということか。大蛇丸の中にいてもダメかな?


「大蛇丸の中に作った麻由美さんの空間でもダメか?」


「麻由美殿が黄泉の国へ行ったら恐らくその空間は消滅する。黄泉の国とはこの世界とは別の平行線を辿っているのだ。決して交わることのない平行線でな」


「その隣り合う平行線を行き来できる扉があの遺跡にある封印された扉なのか……」


「そういうことだ、もとより、結界の強め方は知っていても、結界の開け方は分からぬ。危険を感じた先祖がすべてを封印してしまった」


 何だよ、最初から八方塞がりじゃないか。


「誓、お前はどうやってこっちの世界に来たわけ?」


「私がこの世界に降りた時は、空にいたと思うのですが本当にあの遺跡の中に扉があるのでしょうか?」


 空にいた?? どういうこと? お前は最初からあの遺跡にいたんじゃないの?


「確かに空にいたと思うのです。上からこの地を見ていた記憶があります」


「じゃあどうやってあの遺跡に辿り着いたんだ?」


「気付いたら辺りは暗くなって……そこからは分かりません。二、三日経った頃でしょうか、あなたが遺跡を訪れました」


 むう……ますますわからないな。遺跡に行けばヒントくらいあるかもしれないが、この族長が今後遺跡に入ることを許してくれる感じはないし……


「あの……それ、高天原じゃないんですか?」


 一人の岩石さんが俺達の会話に食いついてくる。高天原か……空に浮かぶ楽園。しかし、俺達はまだその存在を確認したこともない。


「高天原に人がいたこともあるみたいだし、偶に見える高天原くらいしかありえないと思うんですが……」


「確かに……」


 周りにいる岩石さん達が高天原と聞いて騒めき出す。高天原は岩石さんにとって夢の場所のはずだ。賛同する者もいれば、あそこが地獄の入り口なはずはないと反論する者もいる。


「どちらにせよ、高天原に行ける手段がない限り、黄泉の国へ向かうことはできないな」


「私はあなた達が高天原に向かうことを全力で阻止しますよ。あなた方が黄泉の国へ向かえばこの世界は確実に滅びる」


 どうにかして、族長を説得する手段も見つけ

ないとな。確かにこの世界をないがしろにすることもできない。エルフのジジイにも相談するか……。


「わかった。俺達はこの村にしばらく滞在する。高天原も確認しないといけないし。そこへ行く手段も模索する。遺跡の読みの国への入口と、高天原との関係性、またこの世界のことも考えて、なるべく被害が出ないようにしよう」


「その約束が守られたと分かれば行くことを許可しよう。遺跡の探索もある程度は許すが、申し訳ない、誓殿は遺跡に入れることはできない。遺跡に入ることができる人間はこちらで選別させてもらう」


「それでいい、しかし、研究の第一人者として俺は遺跡に入る」


 そうじゃないと、楽しい発掘作業もできない……。ただの足止めを食らっている俺達に何もせずに行ける時を待っていろなんて嫌に決まっている。


「麻由美さんと大蛇丸」


「何よ」


 麻由美さんは少し機嫌が悪そうだ。会話に入れなかったことが少し引っかかっているのかもしれない。


「二人にはお願いしたいことがある。この世界の生き残りをできる限りでいいからここに集めてくれ」


「はぁ……そうでしょうね……戦闘のできない私はいつも蚊帳の外」


「そんなことはないよ、麻由美さんじゃないと連れてこられない。戦力になる人間も中にはいるかもしれないし、そういう人を探して連れてきてもらいたいんだ」


「戦闘タイプの一人が欲しいわ」


「分かった。あかねか佳凛、好きな方を選んでくれ。しかし一人だけな! 俺の方にも戦闘タイプ欲しいから」


「ご主人様、ハジメは?」


 ハジメが俺の服の裾を引っ張って抗議する。


「ハジメは俺の方かな? お前の神通力は頼りになる。もしかしたら新しいヒントを見つけられるような気がする」


「ハジメ、頑張ります!」


 胸の前で両の手をグッと握りしめ、新たな任務に励むしぐさをする。


「あかね、佳凛」


「はい!」


「お前らは戦闘の要だ。いつ何が起きてもこの世界の人達を優先して守れ。お前らは俺が守ってやる」


「了解!」


高天原が結界に関係していることは、たぶん確定事項だ。後は、遺跡の結界との関係性だ。それが分かれば高天原に行く方法も見つかる気がする。


「あと、麻由美さん、俺といつでも連絡がつくような携帯電話みたいなの作れる? そっちのピンチやこっちのピンチにいつでも連絡着くようにしておきたいんだけど」


「うーん、この状態の日本に電波が届くかどうかは分からないけど……うーん……まぁやってみるわ」


 「うーん」と唸りながらどうにか顕現しようとしている。そんなに難しい物だろうか? 特定の機種同士だけ繋がるようにするのは……。


「ほい!」


 ヘンテコな物が出てきた。腕時計みたいな大きさの輪っかに、ケーキの上にトッピングされている砂糖菓子の人形のような麻由美さんが設置されていて「モトハルー、モトハルー」と呼んでいる。


「……何これ?」


「何って……今言っていたじゃない。通信機みたいなもんよ」


 見れば、麻由美さんの腕にも似たようなものが巻かれている。麻由美さんの方は「マユミー、マユミー」と叫んでいる、俺の人形だった。表情が変わるらしく、地獄の底にでもいるかのような、えげつない顔で叫んでいた。


「あの……なんでそんな表情なの?」


「これは動作確認。普段は普通の顔になるわよ。一応これでどんなに離れていても私達は繋がれるわ」


「ふーん」


 まぁいいや、普通に携帯電話みたいなものを想像していた分ヘンテコ感が半端ない。


「とりあえず準備はこれくらいかな、できればラチカを連れていきたいな。あいつの瞬間移動はかなり役に立つ」


「分かったわ、私達がコロバヌ村に寄ってラチカを拉致してくるわ」


「ジジイはいらないからな、役立たずだから」


「分かってるわよ、うまくやるわ」


 基本的には正義の味方のはずなのだが、やることと会話はやっぱり犯罪めいていた。


「頼む、できれば他の神通力遣いも仲間にしたいが……」


「ミッションの難易度が高いわ、三日は必要」


「一日でやれ」


 やっぱり犯罪者組織みたいになるのであった。


「じゃあとりあえず明日から行動開始。佳凛とあかねは先にどっちが俺に着いてくるか決めておけよ」


「らじゃー」


 すぐに行動を移さないところが俺達だった。基本的にはまだ猶予があると思っているところがダメ人間の第一歩である。


 そんな感じでゆるーく黄泉の国編に突入するのであった。

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