第32話 これからもよろしく
「ところでお前……」
「え?」
俺と話していた岩石さんがきょとんとした顔をする。まぁ顔も岩石なのできょとんも何もないのだが、雰囲気的にはきょとんとしているのが分かる。
「何でしょう?」
「もぅ、しらばっくれるのはやめろよな、何年一緒にいたと思っているんだ。お前……誓だろ?」
「「「「はいぃ!!??」」」」
そこにいた全員が驚きの声を上げた。そりゃそうだろう、特に俺の仲間たちは自分でも気づかない内に、俺の妻を目の前にして勝負を挑んでしまったのだからな。
「ちゃんと姿を戻して挨拶しろよ? こいつらが今俺と行動を共にしている仲間たちだ」
すると岩石さんの体が煙に包まれ一人の女性が現れる。黒い髪を背中まで伸ばして、妖艶な雰囲気に、緑色の瞳をした、綺麗な女性だ。顔立ちは妙に整っており、純日本人だが、どこかヨーロッパの血でも流れているんじゃないかと思うくらい色白だった。
「初めまして、皆さん。元治の妻、誓です」
「初めまして、誓さん。元治の愛人のハジメです」
「あらあら……初めから敵意丸出しですね。元治もいつからそんなにモテるようになったのですか?」
「さぁな……」
「私はあかねっていいます! 誓さん! あなたと元治くんの婚姻関係はすでに切れていますから、私達と一から勝負です!」
「誓さん、あたしは佳凛です。元治は私のことを好きって言いました。もう誰にも渡せません。私の夫です!」
「あ、佳凛ちゃんずるい! まだ誰の物かは決まってないよ! 元治くんはあたしの家族になるんだもん!」
「どうせ、兄妹止まりでしょあかねとは!」
「あー! 佳凛ちゃんいい加減にしないと怒るよー! いきなり好きになったからって元治くんが嫁にするわけないじゃん! 私みたいな一途な女の子が元治くんは好きなんだよ!」
「二人ともすでにカンカンです。ご主人様、あんな怒り狂った女共は放っておいて私と楽しいことしましょう」
「さっきっから聞いていればどいつもこいつも私の存在を無視しやがって……舐めとんのかこのガキャャャァァァァァァァァ!!」
「!!」
誓が三人を震え上がらせる。あーあ、誓のやつ、本気で怒り始めたよ。昔からキレると周りが見えなくなるからな。てか、キレ方まで昔と変わらない。本当に昔のままの誓ではないのだろうか……。錯覚を感じる。
「なぁイザナギ……」
『言いたいことはわかる。我にもわからん。姿形はもちろん、記憶まであり、こうやって我々に危険であることを伝えに来た人物が本当に敵なのかと……』
「俺は……いくら敵でも、あいつは殺せないかもしれない」
『その時はその時じゃあ』
「は、まったくその通りだ事」
長いこと一緒にいたせいか、俺とイザナギは似てきてしまっていた。結局行き当たりばったりの旅になってしまうんだろう。それが一番心地いいんだから。
「元治! 貴様何を笑って見ているのだ!! 誓さん町を破壊し始めたぞ!!」
「止まってー! 誓さん! この村やっと復興できてきたのにぃ!!」
「ババァの力は計り知れない……」
「殺すぞ、ガキ! 歯、食いしばれぇ!!」
「私はガキじゃないから構えない、歯も食いしばらない。ババァは黙って事の成り行きを見守ればいい」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
ハジメと誓のバトルが勃発する! 普通に考えると誓の一発ケーオー勝ちだが……ハジメのあの余裕……何か秘策があるのかもしれない。
誓は体に風を纏い突進するそれだけで周囲を破壊する恐ろしい攻撃になっていた。
俺はいそいそと温泉を出る準備をしていた。こんなのに巻き込まれたら命がいくつあっても足りやしない。
「いくぞ! カマイタチ!!」
誓が両足で空中を蹴るような動きをすると、地面がハジメに向かって切れていく。見えない空気の刃が近づいているのだ。
ハジメは瞬時に何が起こっているのかを理解する。しかし避けない。このままじゃ、切り裂かれてしまうぞ?
「神通力……神威!」
ハジメの体を黄金の気が覆う。ハジメが展開したのはこの世のすべてを纏うまでに成長した神威。あらゆるものを体に纏い、その性質を自分に上乗せすることができる。なんて恐ろしい能力だ!
「風を纏った私はあなたよりも早いですよ?」
「確かに、スピードは勝てないかもね……。でも私の攻撃がこんなものだけだとでも思ったのかしら?」
「……!!」
直後、ハジメの体が切り裂かれる! 全身に深い傷が刻まれ、吐血する。
「ぐっ……! 何をしたの?」
「あなたのその神通力、本当に見事。そこまで極限に昇華された神通力は見たことがないわ。だけど、あなたはその力の本当の能力を見誤った」
「見誤ってなんていない」
「私が出したカマイタチはね。諸刃の剣なの。確かに敵に当てれば恐ろしい攻撃力を為すことができるけど、切り口が鋭すぎてね、ちょっとしたことで、向きも威力も変わっちゃうの」
「!!」
「あら? 気付いたかしら。なかなか聡いわね。そう、あなたが纏ったことで、消滅はせず、威力倍増であなたの周囲を消えずに飛んでいたのよ」
「む……無念」
侍みたいなことを言って気絶した。
「なぁお前ら、もうやめろよ」
「ハジメちゃーん! ハジメちゃーん!! ちくしょう! ハジメちゃんの仇は私がとる!」
俺は倒れこんだハジメを抱えて風呂から出る。宿屋の親父に、復興作業はさらに時間が延びることだけを伝え、ハジメだけ寝かしてやってくれと頼む。
「誓さん! あなたを倒す! 元治くんとのラブラブ生活を私は送るんだ!」
忘れているかもしれませんが、今回の戦いは誓を助けるために黄泉の国へ行くという戦いです。誓を倒しちゃいけません。
「だから、お前は兄妹止まりだと言っているでしょう! 元治の嫁はあ、た、し!」
「急に出てきて調子乗らないでよね! 家族になるってプロポーズされたのは私なんだから!」
プロポーズしたつもりではないが……
「あたしは後ろからギュッと抱きしめられたわよ!」
佳凛が俺を殺そうとするから……
「私は元治と子供作っちゃったけど?」
……かぽーーーーん。
「そんな昔のことはいいんです! これからの世界では私と一緒になるんです!」
開き直った! こいつらポジティブだなー。今の一言で少しはこういうの収まると思ったけど、めげないこいつらを称賛したい。
「てゆーか、こんな世界なんだから子供はいっぱい作った方がいいんじゃない?」
「そうかもしれない……つまり元治には一夫多妻にすればいいってことね!」
「そうね、みんなの夫で、みんなの元治」
いいの? そんな決着のつき方で。俺は正直この中の誰とも子供を作る気はないぞ? ていうか……
「おい、誓」
「はい、何でしょう?」
「力がいるんだよな? 黄泉の国に」
「いますよ? それが?」
「あいつももう力とは思わない方がいいのか?」
「さっき言った話を聞いていなかったのですか? 一度黄泉の国へ行けばその心は浄化されます。記憶も何もありません」
「しかしお前は……」
「私に記憶があるわけではないのです」
どういうことだろうか……記憶があるわけじゃない。
「私の記憶は、イザナミ様に埋め込まれたもの。私本来の記憶じゃないのです。恐らくその方があなたを取り込みやすいとでも思ったのではないでしょうか?」
ふむ……なんか釈然としないが、こいつのことをいくらここで考えてもわからないだろうし……拷問もできない……仕方ないか。
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