第31話 全員で……
かぽーーーん。
この始まり方も二回目だな。最初に言っておくけど、今日は女共は来ないぞ? 岩石さん達と会話したり、あとはイザナギと会話したりする回だからな。
俺は温泉に浸かりながら、今日の出来事を振り返っていた。
町の復興も麻由美さんの活躍で終わりに近づいているところ、俺は抜け出して無断で遺跡に入る。そこには人一人が通れるくらいの道が続いており、進んで行くと大部屋に出る、赤褐色の壁には歴史を感じさせる絵画が描かれており、道がいくつかに分かれていた。
絵画を模写すると、俺は一つの道に向けて歩き出す。枝分かれした道を一つ一つ潰していき、最深部で……
「誓……。お前は本物なのだろうか……」
そう、死んだはずの妻、誓がいたのだ。誓が言うには、イザナミによって現代の俺に会わせてくれたのだとか……、力も黄泉の国にいるという。しかし、なぜあんな遺跡の中であいつがいるのだろうか……。疑問は尽きない。だが、あいつのあの声、あの姿は確かに俺が知る妻そのもので、偽物である方が難しいと思う。
「はぁ……どうするかな、明日から」
町の復興はもう少しで終わるだろう。イズノメの力はこういう時に本当に役に立つ。ただ、まぁ技術的には麻由美さんの知能に比例するから大したものではないんだろうが、それでも仮の住居としては全く問題のない。顕現してから、強化でもなんでもすればいいだけの話だ。
問題は、復興自体が明日には終わってしまう点か……。町の復興が終われば俺達はここにいる理由はなくなる、また生き残りを探す旅に戻るのだろう。しかし、俺は、やはり誓の正体を知らなくてはいけない。他の仲間たちには言えない。イザナミの使いだと分かれば俺の仲間に妻を殺されるかもしれない。そんな場面は見たくない。
俺が温泉に浸かって考えていると、一人の岩石さんが入ってきた。
「これは元治さん、奇遇ですねこんな時間に一人でお風呂とは……風流ですかな?」
「そうですね、一人で月見酒というのもなかなか乙なもんです。でもちょうど話し相手が欲しいと思っていたところですよ」
「そうですか、邪魔をしてしまったかと思いましたが……私も話し相手がいてくれた方が楽しい時間を過ごせると思いましたので良かったです」
岩石さんが俺の横に腰を下ろす。この村に来てから岩石さんと一括りにしているけど、岩石さんの中にも結構特徴があり、一人一人全然違う。
本当に大きい一枚岩がそのまま動きだしたような岩石さんもいれば、動いていないと蹴飛ばされてしまいそうな小さい石ころに何故か手足が生えたような岩石さんもいる。基本的に、人型を模した岩石さんがこの村では偉い地位に就くことになっているようで、族長なんかは大きい3メートルくらいの岩人間だ。
この岩石さんは人型ではあるが、大きさは70センチくらいだろうか? 俺の胸辺りまでしかない。見た目じゃ年齢は分からないが、話し方からは結構歳がいっていそうだ。因みにちゃんと腰にタオルを巻いていた。たぶん男。
「何か、悩みでもあるような顔をされていましたね?」
「分かりますか?」
「ええ、私達は目で人を見るというより、心の状態で人を見ます。あなたには迷いの色が感じられますよ」
この世界の石は、よほど心が好きだんだな。人の心を栄養にしている神がいるように。
「実は、、、」
「実は」と言っておいて何だが、この人に遺跡に無断で入ったことを言ってしまってもいいのだろうか?
「人の心は一度黄泉に帰ると、天道、修羅道、人間道、畜生道、地獄道、餓鬼道の六つに分かれるといいます」
「は?」
「あの遺跡は六道の遺跡。かつて人間がこの世に生まれた時に、神々と人間の終着点として作られたと言い伝えられております」
「……はは、全部お見通しってやつですか」
「すいませんね、心が感じ取れる分、ここでは隠し事はなかなかできないものです」
「心中お察ししますよ」
「元治さん、あの遺跡はこの世で唯一黄泉国とこの世界を繋ぐ場所です。もしあなたがあの遺跡に用事があるというのであれば……」
黄泉の国へ行くことになる……ということか、黄泉の国へ行くということは死ぬ……ということになるのか?
「なぁ、もし生きたまま黄泉の国へ行くということができればなんだが……」
「それはできません」
言う前に断られてしまった。
「生きたまま黄泉の国へ行けば必ず、ヨモツシコメに襲われます。ヨモツシコメに生気を奪われればもう二度とこちらへ帰ってくることはできません」
「それを覚悟で行くことは……」
「なりません」
岩石さんの迫力に少したじろぐ。岩石さんからしたらやってはいけない行動も俺たちならとは思ったが、まぁ仲間は連れていけないな。俺だけ黙っていくしかなさそうだ。
「これだけ止めても……行くおつもりですね、イザナギ様」
『悪いな、主殿の決めたことを否定する気はない』
「そうですか。しかしこれだけは知っておいていただきたい」
少し間を置いて、岩石さんは大事なことを伝えた。
「黄泉の国へ行ったお二方が、あなたの知っている人物ではないことを理解していてください」
別人……ということなのだろうか……。しかし、あの雰囲気は確かに誓のそれではあった。
「黄泉の国とは、魂を浄化する場所。浄化することができなかったものは存在すら消されてしまいます。イザナミ様や誓様は抜け殻となった体を使われているだけだと思います」
それでも行きますか? と暗に告げられている気がする。
「そうだとしても、俺は誓を救いたい。魂のない抜け殻だとしても、きっと奥底にはきっと! あいつの心は残っている。絶対にな。あいつの意思は誰にも負けないよ」
『はははっ! 主殿も負けてはおらんよ。我は主殿であるからついて行くだけだ。イザナミもわかってくれよう!』
「お前の場合はガチで恨まれているかもしれない息子とも出くわすかも知れないけどな」
『その時は全力で潰すまでよ』
二人の会話を聞いていた岩石さんは大きなため息をつき、諦めたように答えた。
「……わかりましたよ、もう……。皆さん! もう出てきていいですよ」
「え?」
木陰からガサガサとまぁ出てくる出てくる。佳凛やあかねたちはもちろん、他の岩石さんたちも……。みんな俺の入浴タイムを覗き見していたのか? 全員に変態という名の称号を送ろう。
「元治くん、私達置いてくつもりだったでしょ!」
「あかね、本当に危険な場所に行くことになるんだ、誰も戻ってこられないかもしれないんだぞ? そしたら、この世界で生き残っている人達は誰が守るんだ?」
「そんないるかもわからない人達の為に尽力するなら、あたしはお前を助けたい。目の前にいるお前を見捨てることなんて出来るわけないじゃない!」
佳凛があかねに賛同する形で言葉を投げかける。
「俺はお前たちに危険なところに行ってほしくないし、これは俺の我儘だぞ? 俺は死んでいる人間に会いにいく為に行くんだ。お前らまでその我儘に付き合うことはない」
「ご主人様は何もわかってないですね」
ハジメの言葉にハッとする。
「ご主人様、私達は世界を守るために黄泉の国へ向かうつもりなんじゃない、ご主人様という一人の仲間を助けるために行くんだ。誰の命令でもなく、私達自身が決めたことです。ご主人様が何と言おうが一緒に行くことは拒否できないです」
「……生きてここに帰ってこれても、不幸になるかもしれないのにか?」
俺だってこいつらの気持ちにはもう気付いている。誓を助けることができれば、こいつらの気持ちには答えることはできない。
「私は第二婦人でも……」
「ちょっと黙っててね、ハジメちゃん」
あかねがハジメを制止する。
「ねぇ、元治くん、今回は元治くんの奥さんと子供を助けに行くんだよね?」
「そうだ」
「でも、奥さん……一回死んじゃってるんだよね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあそれまでの婚姻関係は無効だよね?」
「ああ……ってああ!?」
「そうだね、あかね、いいこと言った!」
佳凛が追撃する。
「もう無効だから、帰ってきたら正々堂々誓さんと元治を賭けて勝負するよ」
「……俺の気持ちも少しは汲んでくれよ?」
もうわかった。何言っても無駄だなこれは。ははっ! こいつらに説得なんてできるわけないか……。
「わかったよ、お前ら全員どこに行っても守ってやるよ! 俺は最強の絶対防御の持ち主だからな!」
「それにしては、私達には殴られまくっているけどな」
うるせぇな。
「まだ分かってないかもしれないから言うけど、今度の戦いは元治くんが守られる側だからね?」
「そうかもしれないけど、俺はお前らを守るぞ?」
そうして、俺達は全員で黄泉の国へ行くことを決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます