第28話 温泉元治争奪戦

 第一回戦、常坂あかねと麻由美さんのマッサージバトルが始まった。


「うーん、麻由美さんかぁ……強敵だけど私のマッサージテクでイカせちゃうゾ!」


「あかねちゃんねぇ……お姉さんの本当の力を教えてあげようかしらねぇ……」


 ツッコミ所しかない会話が繰り広げられたが、酔っ払っているこいつらに何を言っても聞かないだろうと思うので聞き流しておく。


 両者が睨み合う、今から相撲でもとるかのようなポーズで四股を踏んでいる。え? マッサージバトルだよね? 相撲とるんじゃないよね?


「始めッ!」


 ハジメが「始めッ!」って言った。駄洒落じゃなく、本当に言った。


 開始の合図からいきなり飛び出したのはあかねだった。麻由美さんも手を前に出し応戦する。手と手で握りあいお互いを制止する。取っ組み合った瞬間、二人を中心に衝撃が走る。その衝撃は、脱衣所を破壊し俺は逃げ道を失った。


「お前ら、ちょっと本気出し過ぎだ! 脱衣所破壊してんじゃねぇよ!」


「……!!」


「……!! さすがに元治が商品じゃ手加減はできないってことねあかねちゃん……いいわ、私も本気を出しましょう! 戦闘タイプのイズノメを展開してあげましょう!」


 せ……戦闘タイプのイズノメ!? そんなのあるのか!? いや、あってもおかしくない。俺のイザナギだって完全な防御タイプだと思っていたが武器が全くないわけじゃないのだ。使い方によってはイズノメでも相手を倒す手段があるのかもしれない!


 二人の目が赤く染まる。それはもう敵キャラじゃないかと思うくらい邪悪な目の色だ! 俺は一刻も早くこの場から抜け出したいと思っている!


「こおおおおぉぉぉぉ……!」


「かあああぁぁぁぁぁ……!!」


 動いたのは麻由美さんの方だった。取っ組み合っていた手を放し上空に跳躍した。その後を追うようにあかねも飛ぶ。空中でもみくちゃになるあかねと麻由美さん。取っ組み合ったまま地面に着地する。上を取ったのは……


 麻由美さんだった。


「さぁて、私が先行ね!」


 麻由美さんはあかねの足を取り絡ませて動けなくする。足つぼマッサージの展開だな。何とも健康志向な……足つぼなら誰でも痛がるとかいう年増の考え方だ。


「イズノメ、行くわよ」


『ラジャー』


 イズノメは麻由美さんの手にグローブのような形で覆いかぶさり、指圧の力を上げているようだ。ものすごい地味な使い方だが、確かに攻撃力は上がっている。足裏を思いっきり掴みギリッ! ギリッ! と、ツボを突いていく。


「きゃふうううんんん!!」


あまりの痛みに絶叫するあかね。


「ほらほらああぁぁぁ! 早くギブアップした方がいいんでないのぉぉぉぉ??」


「ギブアップなんかするもんか!! 元治くんのお嫁さんは私だがぁぁぁぁ!!」


 あ、なんか忘れかけていたけど、あかねって田舎出身でそういえば方言話す時があるんだっけ? 忘れてたけど。でも、お嫁さんて……小学生かよ……


 あかねは痛がってはいたが足に力を入れ、麻由美さんが固めている足を思いっきり逆方向に捻じ上げ、拘束を解く。


「麻由美さん、今度はこっちの番だがぁ、覚悟するんだっちゃ」


「あなた、興奮しすぎて完全に地が出てるわよ」


「そんなの今は関係ありません!」


 あ、元に戻った。ちょっと気にしてたのかもしれない……。


「いくよ! アマテラス! 炎帝!」


『行くわよ! あかね! 久しぶりだし、楽しそうじゃない』


 いきなり炎帝モードだ! アマテラスを体に纏い身体能力を大幅に上げる!


「おい! 死人を出す気かっ! 今すぐに止めろ!」


「ご主人様、女の戦いに引き分けはない。どちらかが負けを認めるまで続きます」


 全裸のハジメがここぞとばかりに俺にくっ付いて抑止する。それを見たあかねは完全に怒り爆発の付与効果が付いた。


「いくぞおおぉぉぉ!! ハジメ! 炎帝! ドラゴタイフーン!!」


 体に炎を纏ったあかねは高速に体を回転させ炎の竜巻を発生させる。炎の竜巻は麻由美さんに……は向かわず、怒り爆発の効果により俺の方へ向かってきた。


「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!! イザナギィィィ!! お願いーーー!!」


『むむっ! あかね殿か……安心安心』


 バカかこいつは!


「私はご主人様と一緒ならどこまでも一緒に飛べます」


「少しは飛ばない努力をしてよね!! ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 燃え盛る竜巻に飲まれ、俺とハジメは彼方に飛んで行った。


 こうして、温泉回は終わりを迎えるのだった。


 翌日、町のど真ん中で全裸で発見される俺とハジメ。また、残りのメンバーは風呂で目を回して結局全裸で全員回収されるという何とも情けない醜態を晒すのだった。俺以外、誰も記憶を残していないのが唯一の救いだったか……


 因みに、俺達が暴れたせいで町は半壊。あの後、相沢もあかねとのバトルに暴れ、戦闘タイプの二人の戦いは苛烈を極めたという。審判だったハジメは俺と一緒に吹っ飛んで行ったので、ルールも何もないただのバトルロワイヤルが始まってしまったのだ。



 ☆



「ツクヨミ! 行くよ! 月帝!」


 相沢はあかねと同じようにツクヨミを体に纏い、静かな、それでいて力強い水の鎧に姿を変える。


『佳凛殿、本気でいっていいのだな?』


「当り前! 負ける気はないよ!」


 高速に繰り広げられる二人の戦いを、酒を飲みながらのん気に浸っている麻由美さん。ニーナはすでに悪酔いしてバタンキュー。誰もこの戦いを止められなかったという。


「元治くんは私のものだああああぁぁぁ!!」


「お前のものなんかじゃない!! あたしのものだああああぁぁぁ!!」


 二人の咆哮は、辺り一帯を吹き飛ばし、宿屋は消し飛んだ。その後、二人がぶつかり合う度に起こる衝撃は町の至る所を破壊していき、戦いが終わった頃には戦争でもあったかのような惨状になってしまったのだ。


 俺達は族長の前で土下座していた。


「「「「本当にすいませんでした!!」」」」


「……」


「あれ? また岩石さんの話、分からなくなっちまったのか? また集中してみるか!」


「怒っているんだ! 呆れているんだ! ムカついているんだあああ!!!」


因みに今までの詳細を教えてくれたのは宿屋の岩石さんで、あまりのうるささに様子を見に来てみれば、攻撃が苛烈しており出るに出られず、宿屋は崩壊し、町も崩壊し、止めることもできず、今に至るという。


「お主ら、神の使者だと思っていたからこそ歓迎したのにも関わらず、こんなことをしでかしてくれやがって!!」


「ちょっとキャラ崩壊してますよ? 大丈夫ですか?」


「うるさい! 特にアマテラス様!」


「ひゃい!!」


 あかねが急に矢面に立たされ恐縮する。


「我々はアマテラス様を信仰する種族です! なのにも一番町を破壊したのはあなたというのはどういうことですか!?」


「も……元治くーん……」


「仕方ないだろ、事実なんだから……」


 あかねの炎の竜巻は町を尽く破壊した。そりゃそうだろ。あんなの災害なんてレベルじゃない。悪意に満ちた攻撃だ。


「あの、本当に申し訳ないです。町の復興にも時間が掛かるみたいだし、俺達も手伝いますので、どうかお手柔らかに……」


「復興に手伝うだと……!! 当たり前だろ! そんなの!!」


 ですよねー。


 ということで、俺達はこの村にしばらく滞在することになった。俺は復興を手伝いながら遺跡探索することになるのだが、問題はこれだけに留まらなかったことだけここに記しておく……。

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