第27話 性別関係ないからってねぇ

 かぽーーーん。


「はぁ……いい湯だな」


 俺は、宿屋に備え付けの露天風呂に浸かり疲れを癒しているところである。ちゃんと人が入れるレベルの温泉があってよかった。少し心配していたのだがお酒も宿屋にちゃんと保管されていた。俺は湯船に酒を浮かべて一人のんびりこの世界で目覚めてからの自分を振り返っていた。


「あぁ……なんだかんだここまでほとんどこんなゆっくりできたことなかったな……」


 目覚めてからというもの、色んな神のとか蛇とかいっぱい戦った気がする。現代の日本の平和だったからなぁ。世界は大飢饉で大変だっていう時にもアイドルオーディションに遊びに行っていたくらいだからな。


 そう、あの時はすでに世界は滅びかけていたんだ。日本以外は。日本は俺が見つけたこのアバストクリクスで大飢饉を免れ、俺は鉱石の発見者として大々的に有名になって、それはもう楽しく暮らしていたっていうのに……。


「まぁ、世界が俺達に喧嘩売ってくるのも分かるがな。俺の近くでしか生きていられない鉱石なんて、世界中の大飢饉は改善されないもんな」


 独り言をしてしまうくらい酔っ払い始めた。このルコの実っていうのは結構度数が高いみたいだ。一人で感傷に浸っていると脱衣所から元気な声が聞こえてきた。


 どどどどどどどどどどどどーーー!! ザバァーーーン!!


「いっちばーーーん!!」


「……おい! 人が入っているのに飛び込むやつがあるか!!」


「あ! ごめんなさぁー……」


「はい!?」


「なんでお前ら男風呂に!」


「こら! あかね! そんな子供みたいな真似してないでちゃんと体洗ってから……」


 俺と相沢の目が合う。相沢は一糸纏わぬ姿で固まる。


 ピキッ!


「誤解だ! ここは男風呂のはずだ!」


「あれ? 私達が間違ってたの!?」


「いいえ、ここは混浴よぉーん」


 すでに酔っぱらった麻由美さんはエロい歩き方をしながらこっちに向かってくる。


「こんな場所に混浴なんてある訳ないでしょ! 麻由美さんもふざけてないであっち行ってくださいよ!」


「こんな場所だからよぉ」


「こんな場所って……」


 そうだった、岩石さん達は性別ないんだった。いくら人族が入る温泉だからって性別の区別があるとは思わないかもしれない。


「そうか……なら仕方ないな。混浴らしいから楽しくやろう」


「そんな簡単に割り切れないよぉー!」


「ご主人様と一緒にお風呂! ハジメは嬉しい」


「嬉しいのは分かったから、くっつくのは止めてくれ」


「出る!」


「え~いいのぉ? 元治と私、色んなことしちゃうかもよぉ~」


「それは全員で阻止します! 佳凛ちゃん、麻由美さんを止めるには全員じゃないと無理だよ!」


「くっ……! 不埒なことをさせるわけにはいかないわ! 不本意だが入るしかないわね!」


「お前らさ、どうでもいいから体にタオルくらい巻いてきてもらっていいか?」


 そろそろと全員が恥ずかしそうに一旦風呂から出ていく。


「あらぁ、元治くん、そんなに私と二人になりたかったのぉ?」


「麻由美さんも行ってきてください」


「いけずぅ……」


 どんだけバカなんだあいつらは……。


 タオルを巻いて戻ってきた全員には姿が見えないように、俺は岩陰に隠れて一人で休んでいた。


「ご主人様……どこですか?」


「俺はこっち。一人で楽しむから、お前らはそっちで仲良く女子会でもしてろ。……あれ? ニーナはいないのか?」


「ニーナちゃんもいますが、脱衣所で珍しい宝石を見つけたらしくてそれの調査に入っています」


「それ、俺がさっきまで作っていたアクセサリーだから。なんでもないからみんなとの交流を深めるように言いなさい」


「了解しました」


 さっきまで静かな夜に月を見ながら感傷に浸れるいい時間が流れていたのに、隣にめちゃくちゃうるさい女子共が入ってきてしまった。気は使うわ、ゆっくりできないわ、話は気になるわであんまりゆっくりできないな。


「あらぁ、元治は何一人で感傷に浸っているのかしらぁ?」


 うるさいのがやってきた。


「何よその顔。せっかく美人が晩酌のお供に来てやったげたのにぃ」


「感傷に浸っているところに急に入ってこられたら誰だってイラつくだろ」


「あーーー! 麻由美がいない!! 絶対元治の所だ!」


「いたーーー! 元治を奪う気だ! 絶対そうはさせないぞ!!」


 麻由美さん以外の女子共が何かと理由つけてこっちにやってくる。そうしてお前らは俺の体を見に来て楽しいのか?


「元治! 大丈夫!?」


「ご主人様! 麻由美は敵! 麻由美は敵!」


「元治くん! 男の人の体ってどうなっているの?」


「突起物があるはずですよあかねさん! 探してみましょう!」


「やめろ! あかね、ニーナ!!」


「あらぁ、みんな来ちゃったのねぇ……これはもう元治争奪戦をやるしかないですねぇ……」


「カンカンカンカン……温泉だよ全員集合! 第一回、女だらけの元治争奪バトル~!!」


 ハジメが妙なタイトルコールを叫ぶ……何だ? なんかみんなテンションおかしくない? 怖いんですけど、怖いんですけどぉー。


「選手入場~」


 タンタンタタンタン、タンタタンタタン……


いつ移動していたかはわからなかったが、全員が脱衣所から整列してこっちに歩いてくる。ピーッピ! と笛の音がすると全員行進を止めた。


「選手宣誓……ツクヨミちゃんと一緒の佳凛ちゃんお願いします」


「はいッ!」


 とても元気のいい返事だった。何が始まっているの? 一瞬麻由美さんと目が合う。チラッと胸の谷間からこの地の名産、ルコの酒を覗かせる。


「こいつら全員酔ってんのかい!!」


 麻由美さんは口に人差し指を当て、静かにという仕草を見せる。


「宣誓! 私達一同は正々堂々正面から相手に向き合い元治を奪うことをここに宣言します!」


 正々堂々奪うって何? こいつらまだ未成年だろ!? 麻由美さんやっちゃいけないこと普通にするから怖いよ……


「俺、もう出ていいかな?」


「ダメに決まっているだろ! お前がいないと意味がないんだぞ!?」


「あかね頑張るからね! 未来のお嫁さんになれるように元治くん奪ってみせるよ!」


「ハジメ、ご主人様見てくれると元気出るよ?」


「研究したいぃぃぃーーー!! ひひーーー!!」


 ニーナ、ヤバくないか? 一人だけ酔っているにしても錯乱しているようにしか見えないんだけど。恥ずかしさもないのか全裸だし。


「第一回戦!」


 ドドンッ!


 さっきからこの効果音何なの? どこで誰が鳴らしているの?


「マッサージバトル!」


「マッサージバトル!?」


 何かエッチな響きだ! 接触プレイが期待される王道の一回戦だ! って何俺も実況側に回っているんだ!


「ルールは簡単! 対戦者をマッサージで落とせば勝ちです!」


 落とせばって何? マッサージって落とす為のもんだっけ?


「第一回戦の対戦相手はぁぁぁ!! これだ!!」


 どこから持ってきたのかわからないモニターに映し出される。


 第一回戦


 常坂あかね × 麻由美


 ハジメ × 相沢佳凛


 ニーナ 不戦勝


 いや、ニーナもう帰してあげたら? すでに意識飛んでるでしょ。ふにゃふにゃのニーナはそれでも帰らなかった。


 こうしていつ終わるのかもわからない伝説の温泉バトルが始まってしまったのであった。


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