第25話 岩石さんとの話し方
「……! …………!!」
「……! ……! ……!」
一人の岩石さんが俺達の前に出て身振り手振りで何かしら伝えている。しかし、言葉を発さないので歓迎されているのか、嫌悪されているのかも分からない。
「イザナギ、何て言ってるの?」
『一人一人の自己紹介と君達どこから来たのって聞いてきているぞ? 主殿がなかなか喋らないから若干イラついているみたいだぞ?』
「お前さ、俺が聞かないと何にも話さないの、いい加減止めてくれない?」
とにかく、相手を少し怒らせてしまったみたいだ。友好的に温泉使わせてもらいたいから謝罪してちゃんと説明しよう。
「大変申し遅れました。私達はまぁ旅人みたいなものでして……生き残りの人間を探して世界を周っているところで、この村の温泉を見つけて、今に至った次第です」
「……、……、……。……! ……」
「イザナギ、翻訳!!」
『ええと、【やっと話してくれましたな、そうですか、人族はここらではあまり見ないですね。あ! 確か高天原の草原に人がいたと村の者が言っていたのは覚えております】だそうです』
「あ、ありがとうございます。まさかいきなり情報くれるとは思っていませんでしたので少々驚きました。しかし、人族って言い方は何ですか?」
『【人族とはあなた達のような種族を私達は人族と呼んでおります。自分達は岩石族です。東の方にはエルフがいたと思いますが……】』
「東の方とは……ジジイとか、ニーナのことだなたぶん。しかし、エルフとか人族とか岩石族とか、一気に異世界ファンタジーになってしまったな。俺は転生者か?」
「ある意味、転生者かもねあたしたち。過去の世界から急に未来になったようなもんだし」
「それもそうだな。俺の認識が少し甘かったのかもしれない。確かに、俺達が眠っていた期間に起こったことが壮絶すぎる」
『【少し我々には難しい話をしているようですが、私達はあなた方を歓迎いたしますよ! 普通の人族より高貴な気が感じられます】』
「あぁ、それはたぶんこいつのせいだと思う」
俺はイザナギを岩石さんの前に出し、これが神の意志を持った鉱石だということを説明した。
『【ほう……では、皆さん全員神様の使者のようなものと捉えていいのでしょうか? 我々はこの地ができた頃から生きているのです。それこそ、イザナギ様がこの地を作った時に形成された】』
「イザナギって本当にすごい神様なんだな。見直してないよ」
『やっとわかったのか。そうだ、ちゃんと我を見直し……え? 見直してないの?』
「見直さねぇよ、そんな昔のことなんて知るか。大事なのはこれからだ」
『まぁそうだろうけども……悲しくなっちゃう……』
「気持ち悪いからしょげるのを止めろ」
『どっちが神なんだかわからなくなってきた……』
「つまりここで大事なことは、岩石さんたちは人間がいなくなってからこの地で生きるようになり、こいつらなりの文化で今まで過ごしてきたってことだな、これ、明らかに神の力加わっているでしょ」
「そうだね、あたしもそう思う。人間がいないタイミングで動けるようになるなんて明らかにおかしいしね」
「ハジメは高天原が気になる。そこにいた人間も」
「あの、岩石さんに性別はあるんですか?」
『【あ、性別とかはないですね。時期が来たら体から一部が抜け落ち、それが新たな命に変わります。死ぬときも体が急に動かなくなる感じですね】』
「へぇー、じゃあ無限増殖とかはできないんですねぇ……なるほどなるほど」
ニーナはもう完全に麻由美さんの助手が板についてしまったようで、分からないことがあるとすぐに研究の材料にしてしまう。
「あと俺も気になったんだけど、高天原ってなんだ?」
『【高天原とは、我々が産まれた頃からある空の楽園と言われている場所です。空にあることは視認でるのですが、我々岩石族はやはり重いですからな。あそこまで空に飛ぶことはできません】』
「飛行機とか作ることはできないんですか?」
「あかね、この人達は人間が絶滅した後の新しい生物だからそんな技術ないよ。神通力でもない限り空を飛ぶなんて不可能だ」
「そっか、でも、見えるのに行けないなんてちょっと寂しいね」
『【高天原もいつでも見えるわけではありませんし、そもそも、楽園とも誰かが言い出した出まかせかもしれません。しかし、我々は何故かあの場所に人がいて、誰もが楽しく暮らしている、そんな場所を想像してしまうのです】』
「うん、憧れからの羨望だな。まぁ、悪いことじゃないけど、思ったより確定した情報じゃなかったな」
『【申し訳ない、何せ我々もこの世界に生まれてまだ歴史は浅い。人族に比べたら天と地の差だ。あなた方にとってはただの原始人と見えても不思議ではない】』
「悪い、気を悪くしてしまったなら謝る。そういうつもりで言ったんじゃないんだ、ただ俺達はこの世界でまだ生き残っていて、助けを求めている人を助けたり、将来の戦力になる人間を探しているんだ。できるだけいい情報が欲しかっただけなんだ」
『【そうか……、多少は事情を理解することにしよう……しかし、あなた方は久しぶりに来た客人だ、今日はゆっくりしていってくれないか? 町の人間も人族に興味のあるものも多い。高天原の人間かと誤解されることもあるかもしれないが、きっと喜んでくれる】』
「あぁ……そうしたいのだが……何せイザナギがいないと俺達は会話もできないんだ」
「ねぇねぇ、ご主人様、もしかしたら佳凛が話できるかもしれない」
「へ? あいつにそんな能力あるの?」
「鍛錬しているときに“声を聴け……すべての声に耳を傾けるんだ……”とかぶつぶつ言っていた気がする」
「あいつ、ちょっと恥ずかしいやつだな」
たぶん聞かれていたことが分かるとあいつも卒倒するほど恥ずかしいと思う。おもしろそうだから見てみたい気もするが……
「希望的観測だが、相沢を連れてくるか。ニーナちゃんちょっと呼んできてもらえるか?」
「がってんしょうちのすけ!!」
……お前らみんな俺よりおじさんなんじゃないの? 何で普通にそういう言葉がいきなり出てくるの? びっくりしちゃうんだけど。
☆
「ああ、そういうことか……なるほどね、しかしこの町はすごいわね、石造りの街並みとはレトロ感があって私こういうところは好きよ」
「ありがとうございます。石職人が聞いたら喜ぶと思います。この町の設計は石職人が総出で行いましたから」
「岩石なのに石職人がいるんですね、不思議な感覚だけどおもしろくていいわ」
相沢が普通に岩石さんたちと話している。こいつの認識を改めなければならない。こいつは……どこかおかしい!!
「なぁ相沢」
「何?」
「お前、人間じゃないだろ」
ドグシッ!!
「ぐふぅ……」
「失礼なことは言わないでね」
「だって岩と普通に会話しているんだもん。人間じゃないよ」
ガゴッ!!
イザナギは仲間の攻撃には反応できない、むしろ動く気はない。だから俺は相沢の攻撃で死んでもおかしくないのだ。
「岩石さん、この男は殺してしまっても構いません。私達の友好の証として供物として捧げます」
「そんな真顔でどうでもいいこと言ってないで、岩石さん達との話し方教えろよ、ブス」
ザクッ!!
「ザク? 何の音だ?」
音に気付いたときはもう遅かった。俺の額には見事にカッコいい双剣がぶっ刺さっていたのだ。
「ギャァァァァァ!! 死ぬわ!!」
「殺す気でやったのよ! 何で生きているのよ!」
「夫婦漫才みたいですねぇ……」
「え!? 佳凛ちゃんと元治くん結婚してるの!?」
「私は愛人でも構わない」
「どうでもいいボケかましてないで助けてくれます?」
俺達の騒々しさは人が増えれば増えるだけ倍増されていく。岩石さん達も少しお疲れ気味になってきているだろう。
「で、どうやって話すんだ?」
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