第24話 岩石人間現る

 湯気が上がっている場所に俺達は走っていった。あぁ、いい匂いだ。これは温泉に違いない、温泉しかありえない。これは温泉だ。


半ば洗脳にも似た精神状態にまで発展し、温泉が見える岩場に足を掛けた。下には真っ白な液体がグツグツと煮えたぎっていた。


「あぁ!! 期待した! 期待したけどこれが結果か!! 煮えたぎっているよ元治くん! もとはるくぅぅぅぅぅん!!」


「ま、まだ分かんないぞあかね! 沸点が異常に低いだけかもしれん! 触ってみるまで俺は諦めない!」


「ご主人様、この辺りなんか臭いです」


「これは温泉臭といって、自然の温泉にはこの臭いが付きまとうんだよ、俗にいう腐った卵臭だ! 腐った卵の臭いなんて嗅いだことないから本当かどうかは分からない!」


 岩場をゆっくり降りていき、入れる場所にまで近づく、あれ? さっきまで見えていた人影……こんなに近くまで来たのにまだぼやけて見えるな。


「あ、あの! ここの温泉って湯加減どうですか?」


 初対面の人に会って早々湯加減を聞く俺。バカじゃない? しかし、それほど今の俺達にとって温泉という娯楽は非常に魅力的な施設だった。


「……」


 誰も何も言わない……言葉が通じてないのかな? もしかして外国人? ここら辺、他国に占領されて敵国化しているのかもしれないな。でも、温泉入りたい! 何も反応がないからとりあえず手を入れて確認してみた。


「ッッ!! あっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅい!!!!!」


「きゃぁあああ!! 元治くん大丈夫!? あひゃひゃあひゃあひゃ」


「ご主人様、今、目が少し飛び出てた。ぶぅぅ!」


「新木さん、声でかいですよ……ちょっと落ち着いてください。ププッ」


 のんきな奴らだ。手を入れただけで熱くて悶絶している俺を見てゲラゲラ笑っていやがる。こんなのに入れるわけないだろ、この人達大丈夫か!?


「あ……あの! こんなに熱いのに大丈夫ですか……!?」


 人影がゆらゆらと立ち上がり、こちらに向かってくる。ちゃ……ちゃんと生きている。大丈夫かな?


 人影が目の前にまでくるとやっとその全容が明らかになる。岩のようにガチガチの下半身に、上半身はこれまたガチガチの岩のような隆起した筋肉。湯気で黒く見えていたのかと思いきや、実際に黒い体、そして黒い顔。岩のようにと表現したが……そいつらは本物の岩だった!


「ええーーー! ただの岩石人間じゃん!?」


「元治くん、この人達やっぱりおかしいよ! 岩の服着てる!」


「意思疎通、不可。逃げたい」


「興味深いですね、ちょっとその服脱いでくれますか?」


 各々、反応が全然違うが、誰もがバカなことは分かった。


「一応聞いておきますけど、この辺、村とかってありますか?」


 岩石人間は俺の顔をじっと見て、ゆっくり南の方を指さした。一応こっちの言葉は理解しているみたいだ。一瞬敵かとも思ったけど、そんな様子もなく、友好的にはしてくれそうだった。


「とりあえず、村の方へ行ってみよう。もしかしたら、こっちは源泉で村の方にはちゃんとした温泉があるかもしれないし」


「賛成ー! さすがにこれは入れないよ!」


「ご主人様、この人達、言葉分かる? ハジメは今底知れない恐怖を感じているよ」


「ハジメの話し方で大体わかるよ。喋り方、昔に戻っているから」


「この、生体は興味ありますねぇ。男女の違いとかあるんでしょうか? むしろこの人達は男の人なんでしょうか?」


 どっちなんだろうな? こいつらに人間と同じ感性があるとは思えないし、こいつらだけじゃちょっと分からない。


「とにかく、村に行ってみよう。大蛇丸を呼ぶのはその後、安全を確認してからだな」


 通信機で大蛇丸部隊に現状を伝え、村に向かって歩き出すことにする。5分ほど歩くと、確かに町のようなものが見つかった。岩で作られた家の数々、石畳の道、街灯や噴水など、少しヨーロッパ調の街並みが広がっていた。歩いている人は、大体岩。偶にイヌやネコがのんびり歩いているくらいだった。


「何? この町」


「これ、話できる人いるのかな?」


「一応、大蛇丸って人間の気配を察知しているはずだから、普通の人間もいると思うんだけど……」


「早く、普通の人に会いたい……岩恐い、岩恐い……」


「素敵な町ですねぇ! 少し探索してみましょうよ!」


 ニーナちゃんは興味津々だ。珍しいものには飛びつくタイプだな。好奇心旺盛なのはいいことだとは思うけど……。


 とりあえずどこに向かうでもなく町を散策してみた。花屋や、アクセサリー屋などの他に、食材店に宿屋など……異世界ファンタジーかと思わせるくらいの街並みだ。因みに買ったり売ったりしている人はみんな岩石さん。足音は、ドスンッドスンッ。言葉はない。人がいっぱいいるのに誰もいないような雰囲気を出す、そんなシュールな村、岩石村。


「元治くん、この人達、何も喋らないけど、でも、なんか面白いね」


「そうだな、岩石同士では会話は成立しているみたいだぞ?」


「ほんとだ! ちゃんとお金出してネギ買ってる! ネギ!? 食べれるの!?」


「ほんと不思議ですねぇ、どなたかの家に入ってごちそうになってみたいです」


 つーか、これ、俺達どこに向かえばいいんだろうな? 当てもなく彷徨い、何も得られず終わるパターンじゃないのコレ……。


 ある程度町を見学し終えて、何もないから大蛇丸の所でも行こうかと思った矢先に、岩石さんの一人がこっちにやってきた。


「……! ……! ……!」


「あの、何でしょう?」


 岩石さんは手振り身振りで俺達に何とか意思を伝えようとしている。しかし、まったくわからないぜ。あ、ていうか鉱石なら話がわかるんじゃないか!?


「イザナギ! お前この人が言っていること分かる?」


『さっきからこっちについて来いって言っておるぞ、なんで伝わんないんだコンチクショーとも』


「お前さ、ずっと聞いていたんなら早く言えよ、神ってバカなの? 神ってバカなの?」


『なぜ二回言う主殿。我も少しは傷つくぞ? 鉱石だけに』


「お前にヒビが入ったことなんて一度たりともねぇよ。とりあえず、こいつに付いて行けばいいんだな?」


『そうみたいだな、族長が呼んでいるそうだ』


「族長! やっと前に進める気がしてきた! 温泉! 温泉!」


「ちゃんとした温泉あるのかな……」


「岩石さんしかいなかったもんね……一応お風呂屋さんみたいのはあったけど」


「岩石さんだけじゃ普通のお風呂いらないですものね……」


 まだ諦め切れていないのは俺だけのようだった。俺は夜空に浮かぶ満月を露天風呂に浮かべて、日本酒をきゅう~ってやるのが好きだぞ? まだ諦めないぞ? おじさんは趣を大切にする派なのだ!


 岩石さんに付いて行くと、町から少し離れた場所に遺跡のような建物が現れた。外観から察するにかなり古いものだと見受けられる。発掘魂に火をつけられそうになったが、今は我慢する。でも今日中に発掘したい。族長にお願いしようかな……。


 体が勝手に遺跡の入口へ向かってしまうが、あかねに引っ張られ、岩石さんの後を追う。遺跡の入り口を通り過ぎると、祭壇のような場所に着いた。そこには5人の岩石さんが集まっており、俺達を出迎えてくれた。


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