第21話 拷問

「ダメじゃ」


「絶対そう言うと思ったぁ」


 俺達はハジメの勧誘も含めて、ジジイの所へ馳せ参じた次第である。


 ジジイはニーナの勧誘を聞くや否や、即答で答えた。


「ダメに決まっているじゃろうが。この先もっと苛烈な戦いになることは必須、そんな状態のモトハル殿達の元に大事な孫娘を置いておけると思うかの?」


 まぁ……無理だろうな。しかし、気になることができた。


「お前、俺達の戦いが苛烈になるってなんでわかるの?」


「あ……うむ。カムナオビから伝わってきおった」


 伝わってきた? どういうことだ?


「カムナオビは液状化の他に、予知の力がある」


「予知?」


「そう、まぁ液状化に比べて偶にピンッ! とくる程度じゃがな」


「で、その予知で俺達のピンチな状態を見たと……?」


「そうじゃ、しかし、予知とはいつ起こることかもわからんし、回避することもできる」


 未来が決まっていることではないということだ。色んなゲームや小説で見たことある能力だ。預言者は誰だって同じことを言うに決まっている。


「つまり、それ以上は分からないんだな? そのピンチで俺達が死ぬとも限らないし、そもそもないかもしれないということだな?」


「そうじゃ」


「じゃあニーナちゃん一緒に行こう」


「はい!」


「だめじゃ」


 振出しに戻った。


「ニーナは危険なところに行って命を落としてもいいというんか?」


「そんなわけないじゃない! 絶対死なないわ! だってイザナギがいるもん」


 まぁ仲間は全力で守るつもりだが、それで信じてもらえるのか?


「確かにイザナギ様なら安心なんだが……」


 俺じゃ安心できないかもな、まだ会って何日も経っていないしな。


「モトハル殿が悪い人間じゃないのは分かるんじゃがな……」


「まぁいい、またあとで来る、両親には話さなくていいのか?」


「そうですね、おじいちゃんより両親の許可の方が大事です。おじいちゃんさようなら」


「分かった分かった! ラチカ! ロイとカルネを連れてきてくれ」


「はぁ……素直に許してあげればいいのに……分かりましたよ、連れてきます。ちょっと待っててくださいね」


 ラチカが部屋を出ていく。


 さて、この家族喧嘩の内には終わらないと思うが、俺もやらなきゃいけないことがある。


「俺はドSブスの所に行ってくる。誰もついてこなくていいぞ」


 俺は地下牢に足を運ぶ、イザナギは強制的に連れてきてしまったがまぁ大丈夫だろう。


「おい、起きてるか?」


「は、はい」


 地下牢にぶち込んでから一日と三時間くらいか? かなり老けたな。


「鉱石奪われて若さが保てなくなったか? 実際お前はいくつなんだ?」


「51歳です」


「俺と大して変わんないな、この鉱石を身に着けたのはいつだ?」


「私が12歳の時です」


「ふーん、いやに従順だね、どうしたんだ? 心境の変化でもあった?」


「……」


「ん……」


「……が……がはッ!」


 思いっきりボアの横腹を蹴り飛ばす。血反吐を吐いて俺を睨みつける。その眼には、誰にも本当のことを言ってはやらないという意思が伝わってくる。


「なるほど、死ぬまで拷問される覚悟は出来ているみたいだね。その方が俺もやりやすいよ」


「イザナミ様!! 私に力を!! 力を与えてくだされば、必ずやイザナギ共全員今ここで駆逐してみせます!!」


「……ガハァッ!!」


 イザナギを棒状に変形させ先端に尖った鈍器を作らせ、それで思いっきり腹を殴打する。


「イザナミって誰だ?」


「イザナミ様!!」


 ボアが叫ぶたびに腹部、脚部、胸部、腕部と本気で殴りつけた。


「大丈夫? 顔は残してあげているんだよ? そのきれいな顔が傷つくのは俺も心が痛いっていうかさぁ?」


「ふざけるなっ!! ぐふっ……!!」


「んー痛みじゃそんなに効果ないかな? じゃあこうするか」


 俺は下半身に巻かれたロープを引き千切った。


「な、何をする!?」


「さぁてね、いやぁ興奮しちゃうなぁ……」


 地下牢を警備していた一人の兵士に聞く。


「お前、結構たまってんじゃないの?」


「は? え? 俺ですか?」


 そいつはまさに豚にしか見えないほど肥え太った一人の下劣な男。いいところにいい人材がいるもんだ。


「この女とヤれ」


「いいんですか!?」


 豚男はおぞましい笑顔を俺に向け、ボアの体を舐めまわし始めた。豚と婆の性交なんて見たくもないが、口を割らないなら仕方がない。


「いや……! やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「お前が何か白状すれば止めてやるんだがなぁ?」


「言ったら……アン……殺されちゃアアン……殺されちゃうのよ!!」


「お前が殺されようがどうなろうが俺には知ったこっちゃないんだよ、イザナミってのは誰だ?」


「イザナミ様はアン! 黄泉の国の神よ!! 私はイザナミ様にアアアアン!! 命令されているのよ!! ああ……いやぁぁぁ」


「へへぇ……こいつはいい感じの女ですなぁ旦那」


「旦那って呼ぶな豚野郎。気持ち悪いわ」


「へぇ……」


 もう目が虚ろになってきたな……。


「どうだ? 素直に喋る気になったか? イザナミってのはどこにいる?」


「イザナミ様は、いずれあなた達の前に現れるわ、モトハル、あなたが目的なのよ」


「俺が目的? なぜだ?」


「さぁ……しらアン……知らないわ」


「で、でるぅ」


「もう終わりかよ、ギリギリまで我慢しろ豚野郎」


「さて、お前にはここで性処理係として働いてもらうつもりなんだが、自害は許可しよう。口にはロープは巻かないでおいてやる」


「はぁ、はぁ、ご心配痛み入るわ」


「他にどんな奴がいるのかを教えろ」


「どうせ死ぬなら、全部話してあげるわ、今イザナミ様から私は見限られた」


「そうか、じゃあ話せ」


「私たち側にいるのはカグヅチ、スサノオ、あとはヨモツシコメ共ね」


「お前のは何だっけコレ」


 俺はボアの前にボアが付けていた鉱石を見せる。


「私は元々ヨモツシコメの一人、このトヨウケビメを与えられ力を得ただけに過ぎないわ」


「イザナミは、誰でも適合者にさせる力でもあるのか?」


「どちらかというと、鉱石の思い通りになる黄泉の住民を選んだだけだわ、でもまぁ、そういう住民を見つける力はあったのかもしれないわね」


「さっきから言っている黄泉の国とは何だ?」


「黄泉の国とは……別名は死者の国ね、死んだ人間が徘徊する場所よ」


「何? 死体が俺を狙っているのか?」


「黄泉の国は今の状態をずっと狙っていたの、イザナミ様は過去にこの大地から追い出され、黄泉の国で暮らすことを余儀なくされた、人間がいる限り黄泉の国からこっちに干渉するにはかなりの制限が付きまとうの。だから、人間がいなくなった今が攻める時なのよ」


「ふぅん。でも俺達がいるぞ?」


「そうだから、殺そうとしたの。私を使って」


「なるほどなぁ……」


「でも、黄泉の国と、この地を別つ結界はだんだん弱くなってきている。黄泉の国の住人がこの地に攻めてくるのは時間の問題だと思うわ」


「すぐに攻め込んでくるのか?」


「まぁ、そんなに時間はないんじゃない? 私の予想では一年以内には結界は崩壊するわね」


 あ、気付いたら豚が死んでる。


「こいつ死んでるんだけど」


「私に生気を吸い取られたからね、私みたいな死者に生気を取られたらそりゃ死ぬわよ」


 あれか? 東洋の悪魔のサキュバスみたいなものなのかもな。悪いことをした、アーメン。


「お前は元気になったようだな……生気のおかげか」


「そうね」


「わかった、もう特に聞くことはない、勝手に死ぬなり、餓死するなり、逃げるなりしな」


「あら、ここで殺さなくていいのかしら?」


「初めから殺す気なんてないよ、たとえ死人でも殺したりしない」


「あら、意外ね、じゃあもう少しこの世界の行く末を見届けさせてもらうわ」


 そうか、と俺は踵を返し地下牢から出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る