第19話 海の生き物

「ひょひょひょ♪ よく分かりましたな、元治殿」


「やはりな……お前、気配消せるだろ」


「元治殿も気配の感じ方が分かってきた……と捉えてもよさそうだの」


「ああ、なんとなくだがな」


 そう、適合者にはそれとなく感じる気配がある。これが神の気配かというとさっきまでは疑問だったが、これではっきりした。


「消すことができるかはまだ分からないが、確かに鉱石の適合者にはそれなりに感じるものがある」


「そう、それが神の気配じゃ。そして、汚れているかどうかも感じることができる」


 で、そんなことはどうでもいい。本題に入ることにする。


「まぁ気配がどうとかは正直どうでもいい」


「どうでもいいって……元治殿は大事なことほどどうでもいいと言うな」


「確かに……」


 ラチカが隣で溜息をつきながらこっちを見る。


「……本題はその後ろで縛られている女性のことですね?」


「そうだ、相沢を誘拐し俺達をおびき出した。正確には俺一人をおびき出したかったみたいだがな……」


「全員で戻ってこられたということは無事に救出できたということですね」


「まぁそうなんだが、こいつ一人にかなり苦戦した。全滅するところだったぞ」


 麻由美さんは全裸にされ、縛られたボアを引きずり投げてジジイの前に出す。


「あなたの好きにしていいのよ? ハギト様、あなたへの供物ですから」


「おっひょうー! 本当か!? 本当か!?」


「まぁ、拷問としてはかなりいい線いってんな」


「おぇ……」


 あかねが想像でもしてしまったのか嘔吐く。想像したら負けだ。


「こいつには明らかに俺達を襲ってきた目的があるはずだからな、素直に話さないようならこれから拷問でもして吐かせようと思う」


「なるほど、おい、そこのお前! この者を地下牢の奥に押し込めておけ!」


「いや、俺達も同行する。神の適合者だ。鉱石も奪って無力化はしているが、身体能力は高い。逃げ出さないとも限らない、案内してくれ」


「ご主人様、私も一緒に行っていいですか?」


「あまりいいものじゃないぞ? それでも行くのか?」


「はい」


ハジメは、ちらっと大蛇丸を見る。


 大蛇丸はもう諦めていると言わんばかりに目を瞑って首を横に振った。


「あたしとあかねはここにいさせてもらうわ」


「麻由美さんはどうする?」


「拷問なら任せて!」


 麻由美さん、一瞬でもこいつに操られたこと根に持ってんなこれ。相当キツイ拷問が始まりそうだ。


「分かりました、じゃあこの方を地下牢に縛ってからこの村の本当の話をすることにしましょう」


 俺達は、一人の兵士に案内されて村の地下牢にボアを縛り付けた絶対に動かすことができないくらい強く縛り付け、顔を二、三回思いっきり殴る。


「う……うぅ……」


「気付いたか? 今がどういう状況かわかるか? 分かれば右目で瞬きをしろ」


「私、命令されて」


 言い終わらない内に、顎から本気で殴る。


「がふっ!」


「喋ることは許可していない。次は右腕を折る。分かったら右目で一回瞬きをしろ」


 何も話が通じないことが分かったのか、言われるまま瞬きをする。


「すぐってわけじゃない。これから、お前には三日間ここにいてもらう。尋問するのはその後だから安心しろ」


 自害しないように縄で口を縛る。


「お前はここでこいつを見張れ。飯は与えるな。妙なことをしだしたらすぐに俺達に知らせるようにしろ」


「は……はっ! 分かりました!」


 俺の拷問のやり慣れている感じに少し引いてしまったのか、青い顔をして頷く。


「よし、ハジメ、麻由美さん一回上に戻るぞ」


 ハジメは俺のことを見てボケーっとしていたが、俺に声を掛けられて我に返った様子だ。幻滅されたかもしれないな……。


「あんた……恐ろしいわね。昔こういうことしていたのかしら?」


「人の過去をあんまし詮索するもんじゃないぜ?」


「そ……そうね」


 俺達はエロジジイたちがいる部屋に戻り話の続きをする。


「で、お前が神だって話なんだが……」


「わしはカムナオビの適合者じゃ。能力はもう分かったかもしれないが液体化じゃな」


「液体化……なるほど、で、若返ってない訳は?」


「わしのピークはまだ来ていないということかな?」


 確かにこいつらは普通の人間より長く生きているみたいだ。どういうことかは分からないが、恐らく種族的にも人間と一括りにするには少し違うのかもしれない。


「わしらは、鉱石の力により人間の能力を遥かに凌ぎ、その文明を発展させてきた。元々わしらは人間ではない」


「動物か何かか?」


「人間は妖怪と呼んでおったかな」


「妖怪? 河童とか?」


「そうじゃな、まだわしらの存在を人間たちは把握しておらんかったから名付けられてはいなかったが、わしら種族はラグ族という。元は海に生きるものじゃよ」


「海の人間か……そりゃあすごい」


「なぜ地上に?」


「人間を殺すためじゃ」


「は?」


「人間はわしらの故郷を穢し続ける。完全に穢される前に殺してやろうと思った」


「なるほど、確かに人間は自分たちが一番だからな、発展した化学で海の生き物も絶滅していたはずだ」


「そうじゃ、わしらは海ではもう生きていられなくなってしまったんじゃ。だから人間を殺して地上で生きることを決心したのじゃ。しかし、地上に来てみれば人間同士で殺し合いをしておりな、やることもなく、絶滅していったぞ」


「こう聞くと本当に愚かだな、人間は」


「そうじゃな、わしらはそれからここでずっと生きている。海よりずっと生きやすい」


「……わかった。もう聞くことはない」


「わしからも質問をする。お主ら、生き残った人間を見つけたらこれからどうするつもりじゃ?」


 俺達は反応に困ってしまった。今の話を聞くまでは、生き残りを見つけたら一緒にまた世界を発展させて、何不自由ない暮らしを満喫しようと思っていたが、こいつら海の生き物は人間の世界が発展するほど世界が穢れていく。


「俺達は生き残った連中がどうなろうと知ったことじゃない、いや、俺に限ったことかもしれないが、ただ、こんな世界で必死に生きている人間も見殺すことはできない。ただ、助けるだけさ、人間もお前らも」


「後ろの方々も一緒かい?」


 全員が何の迷いもなく俺の意見に賛同していた。もしかしたら、もうみんなそのつもりだったのかもしれない。俺だけが漠然とその場の雰囲気に合わせて戦っていただけだった。


「分かった、ならわしらも何も言わん。お主らの力でこの世界を救ってくれることを祈ろう」


「お前らはここから動かないのか?」


「わしらは、ここの空気が一番合っているのでな。海も近くて気持ちが安らぐんじゃ」


「そうか、あぁそうだ! 少し相談があるんだが、ニーナってやつに会わせてくれないか?」


「ニーナ? わしの孫娘のことかの? 今どこにいるかの?」


「たぶん大蛇丸の腹の中じゃないの?」


 麻由美さんその言い方、大蛇丸が食べちゃったみたいになってるから!


「何じゃと!? お主らやっぱり敵じゃな! 今すぐに殺すことにする! であえ! であえぇぇぇ~!!」


「麻由美さん、勘違いしちゃったじゃん、どうすんの?」


「説明するしかないでしょう、ていうかあれ、私達を殺す気もないでしょう、何よ今どき『であえぇぇぇぇ』って」


 確かに……ただ遊びたいだけな感じだ。しかも周りも分かっているのか誰も集まってこない。信頼されていないのか、どうなのか……とにかく悲しいジジイだということは分かってしまった。


「研究所にいると思うから私が呼んでくるわ」


「そういえば、麻由美さんニーナって子知り合いなんだよね?」


「ええ、この村に来てから、ずっと一緒にいるわ。なんか研究熱心な子だったわよ」


「ふーん、俺達と一緒に来てくれないか交渉してみてくれない?」


「え? まぁそういうならできるだけやってみるけど……私も助手が欲しいし」


「よろしく頼むよ! できるだけ頑張って!」


 俺はこんな世界になっても発掘を諦めきれないのであった……。その子が来てくれればいつだって発掘作業ができるかもしれないし……


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