第17話 大蛇丸 VS 発掘屋

 距離をとったまま動けない。相手の魅了はかなりの脅威だ。


「ボア様、どうか私にあの男を殺すチャンスを下さい!」


「んん~それはやめておこうかしら、あなたを近付けたら危険な気がするしぃ~」


「くぅぅ! おい! 元治! ボア様を次愚弄したらこの縄噛み千切って貴様の喉めがけて双剣を突き刺すぞ!!」


 ――ったく、相沢も操られていようがいまいが、いちいち癇に障る奴だな。あのドSブス、こっちの戦い方はすでに相沢から聞いているんだろう。魅了とはそれほど恐ろしい能力だ。何でも従順になってしまう。相沢はここ最近一番外出が多かった。そこに気配を消して近付けば簡単に能力を使われてしまう。


「相沢! お前本当に動けないのか!」


「黙れカス! ボア様に近付くなら容赦なくぶった切るぞ!」


「じゃあやだね、絶対近付かない」


「それじゃ、勝負にならないんだけどぉ……でもまぁいいか、もぅあなたの味方は

いない訳だし」


「ん?」


 後ろから現れたのはでかい蛇だった。こんな奴は大蛇丸しかいない……ま、まさか、ね?


「よし、大蛇丸! そのまま奴を締め上げろ!」


「は? モトハル……お主はもぅわしの敵じゃ。わしはボア殿の大人の授業を受けに来ただけにすぎない」


「はぁ……だろうね」


 正直何の期待もしていなかったけど普通にもう魅了されてるのね。お前登場回数少ないんだからもう少し頑張れよ。


 奴の力が、神の適合者だろうが何だろうが関係ないことは相沢の時点でわかっていたことだ。しかも厄介なことに遠隔操作もできるだろう。奴が誰の存在にも気付かれずにここまで有利な作戦を練れたのは、相沢を通してだろうからな。村にいたのが相沢なら誰も不振がることはない。


 ――ったく、ブスに操られるのなんかまっぴらごめんだぜ。


大蛇丸の後ろから待機組の三人がやってくる。まぁ、こいつらにも何も期待はしてないよ。


「へぇ……覚悟はできているって顔ね……」


「覚悟? 何の覚悟だよ、必要ねぇよドSブス」


 ピキッ……


 頭に血管が浮き出る音がした気がした。ブスって怒るとヒステリックになるんだよな。


「ふぅん……そう……上等じゃない。仲間の命はいらないようね! じゃあ今すぐ殺してやるよぉ!! お前ら! この女を殺しておしまい!!」


「はい、分かりました、ご主人様……」


「らじゃー」


「わかったわ」


 全員が正面に向かい合って相沢の前に立つ。


「あの野郎! またボア様を愚弄しやがった! 絶対に殺す!」


 ――はぁ。相沢は今殺されそうだっていうのにドSブスの擁護。ほんと溜息しか出ない。


 相沢に向かってみんがそれぞれ技を出す。


「神功弾!!」


「紫炎業火」


「昨日作った試作品ミサイル一号! ヒューチャーボムフィストマグナム!!」


 ――ブフゥ!! 麻由美さんのネーミングセンス! ネーミングセンスぅぅぅぅぅ!!


 ある意味、抜群の破壊力だったが攻撃が当たる前にドSブスを除いた全員の体を青い物体が包む。


「……いいタイミングだ、イザナギ」


『すべてモトハル殿が言ったとおりになったな』


「なぁにぃ? こんなのは聞いた話にはなかったわよぉ!」


 あぁ、そりゃそうだろうよ。これはこの村に来てから考えた技だ。それにしてもドSブスの驚愕した顔が心に染みて、気持ちいい……。なんて感傷に浸っている場合じゃない。


「まぁこの作戦、イザナギも操られていたら万事休すだったんだが……大丈夫みたいだな」


『我は他の神に遅れはとらん。一番偉いからな! 一番偉いからなぁ!!』


 何こいつ、最近威厳なくなってたの気にしてんの?


「しかしまぁ……戦いはここからだぜ」


 そう、イザナギを他の連中に使ってしまったため、俺を守る分はごくわずかなのだ。元々、身体能力でしか戦っていない俺ではあいつには勝てない。絶対に勝てない。戦いが本格化する前にこいつらを元に戻してやらなきゃならんのだが……


「おい、ドSブス! お前の魅了はどうやったら切れる!?」


「はぁ!? 教えるわけないでしょ! あんたはあたしにひれ伏しながら死ぬんだよ!」


 あのドSブスに勝てば元に戻ることを願いたいが問題は……


 どしぃぃぃぃぃん。


 こいつだな。


「おのれ、モトハル!! 大人の授業の邪魔をすると許さんぞ!」


「お前いつも俺に怒ってて疲れないの?」


 こいつの攻撃を掻い潜って、隙を見てあれを使うしか思い付かない……。しかし、あれを使ってしまうと確実に殺すことになる。となると貴重な情報源がなくなってしまう。どうしたもんか……。


 因みにイザナギに包まれた三人は俺の技、【ダイヤモンドプリズン】にて行動不能。イザナギを破壊するほどの攻撃力がない限り出ることはできない。分散しているから突破されるかもしれないが、その時はその時だ! 今はこの状況をどうにかすることだけ考えろ!


「さて、大蛇丸……覚悟はいいな」


「フン、何の覚悟じゃ、イザナギ様が守っていないお前などが、わしに敵うはずなかろう」


 強がってはみたが、バレてんなこりゃ。しかし、何とかしてこいつも元に戻してやらないといけない。なんだかんだ言って、ちゃんと仕事はしているからな。家来の報酬は完全出来高制ってか? 偶には助けてやんねぇとな!


「ゆくぞ!! キシャァァァァァ!!」


 大蛇丸が口を開けながら俺に突進する! 俺は左へ大きく跳躍して躱し、体勢を整える。その辺一帯の壁がボロボロにされる。あぁ!! あとで発掘しようと思っていたのに!!


 俺が眠っていた50年の歴史が多少なりとも発見できるかもしれなかったのに……。


「キシャァァァァァ!!!!」


 そんなことはどうでもいいと言わんばかりの雄叫びを上げ、20メートルもの蛇はその巨体をフルに使い、遠心力で攻撃力が何倍にもなった尻尾で、上から思いっきり叩きつけた。周辺の岸壁は抉られ、砂浜の形状が変わってしまった。


「もぅ……乱暴ねぇ……」


「その割には少し手加減しているみたいだけどな!」


「この威力で!?」


 当たり前だろう、この大きさの蛇が本気で暴れまわったら一瞬にしてこんな海岸消し飛ぶわ! 蛇は全身筋肉でできてるのを知らないのか? 多分、魅了されていても心の奥底ではまだ抗っているんだ。すぐその状態楽にしてやるからな、もう少し頑張れ。


 巻き上げられた砂ぼこりの陰から大蛇丸の鼻付近に着地し、鼻の穴にあるものを放り込む。それは強烈な臭いのする海水だった。大蛇丸が海岸から遠くの位置で止まった理由は恐らくこの海水。


「うごごおおおおおぉぉぉぉぉ……」


 あひゃひゃひゃ♪ 悶絶してやがるよこいつ! あ、臭いがきつすぎて気絶した。死んだみたいに動かないわ。イザナギをできるだけ大きい器に変えてここの海水をぶん投げれば鼻の利く蛇には大ダメージだろう。そもそも日本の海は臭い。プランクトンが育ちやすい環境にあるからな。どうだ? 楽になっただろ。


 あ、しまった。悶絶しているこいつ見てたら攻撃の隙がなくなっちまったよ……。


「あらぁ? 蛇ちゃん倒したのに近づいてこないのぉ? んふっ♪」


「俺はお前みたいな年齢詐称してそうなババアの言いなりなんて死んでも御免だね」


ピキピキッ!!


もはやドSブスの顔は俺への怒りでものすごいことになっていた。

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