第16話 犯人はだれだ!?

「元治くん何で?」


「これを書いた奴は結構頭が悪いな。俺の名前を書いたら、俺を知っている奴に限定される」


「あぁ、そっかぁ」


「で、一番怪しいのは……ジジイだ」


「なるほど!」


 ハジメがポンッ! っと閃いたとばかりの素振りをする。


「何で納得するんじゃ……酷いぞ、泣いてしまう……」


「とまぁ冗談はここら辺で終わりにして、犯人を絞り込むと、ジジイの可能性は低い。一番可能性があるのは相沢本人による犯行だな。あとは、本当に俺たちが知らない人間か、だ。相沢が犯人だとしたら動機がわからん。基本的に捜査は状況から判断するのと、動機から判断する方法を合わせなきゃ答えにはたどり着かない、また後者が犯人だとしたら動機はいっぱい思い浮かべられるが、状況的には厳しい、ここにはハジメやジジイのような気配を感じられる人間がいるからな」


「でも、ぐずぐずしていたら佳凛ちゃん殺されちゃうんじゃないのぉ?」


 ……存在を忘れていたわけじゃない、ただ少し頭から離れていただけだ。ここへきて一番怪しい奴が現れた。


「麻由美さん、疑うわけじゃないけど、昨日の夜のアリバイを聞かせていただけます?」


「あなた……思いっきり疑ってるわね」


「いや、一応アリバイは全員に聞くよ? で、何してたんですか?」


「昨日の夜は、大蛇丸のなかの研究所でずっと研究していたわ、神通力の情報を洗いだして歴史から現代まででどのように変化していったかの仮説を立てたの。そしてこれからの変化についてね」


「それを証明してくれる人はいますか?」


「この村のニーナって子がずっと一緒だったわ」


「マジか!? アリバイ完璧じゃないですか!」


「そら私じゃないからね」


「あとでそのニーナさんにも話を聞かないといけないけど、あかねはどうしてた?」


「私は、ハジメちゃんと稽古が終わった後、元治くん探してあちこち走り回っていたかな、その後村に戻って、夜はハジメちゃんと一緒に寝たよ!」


「なぜ俺を探していたかは置いておいて、じゃあお前ら二人もアリバイはカンペキ」


 じゃあいったい誰なんだ? ここにいる連中以外誰もあいつを拉致できるとは思えないのだが……


「こりゃあ、外部犯の可能性が強まってきたな」


「ちょっと待って、あなたは昨日何していたのよ」


「俺? 俺は昨日はイザナギと発掘に使える素材を探して、その後はハジメの稽古を見た、その時はあかねもいたな。で、夜は部屋で昼に集めた素材を加工して使える道具にしていたな」


「それを証明してくれる人は?」


「イザナギ」


『すまん、主殿。我、稽古見ていた時に眠くなって寝ちゃった』


「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 つまり、アリバイがないのは……俺だけ?


「いや待てよ! 動機がないだろ! 相沢を拉致する動機が!」


「やっぱり55歳って言っても、体が若くなっちゃったから欲してしまったのね……」


「麻由美さん! 洒落になんないすよ! それ!」


「ご主人様、変態……だけどワイルドでカッコイイ……」


「元治くん、言ってくれれば私が……」


 こいつらはダメだ! 思考がイカれてやがる!


「じゃあ、海岸にはみんなで行きましょう。後ろであなたたちを見張って状況を確認。その後は臨機応変にってことで」


「俺が変態おとりみたいじゃないか!」


「仕方ないでしょ、疑わしきは敵よ」


 まぁ、いいか。とりあえず、相沢を迎えに行こう。これで外部犯だったら全員ヤバいけど、俺ももうそんなに弱くはないし、みんなの能力も上がっている。死ぬなんてことはないだろう。外部犯だった時、相手が邪神だったら能力を使って相沢は捕らわれたことになる。しかしながら、神の気配を感じることができる奴らが、誰も反応していないことを考えると、どちらかというと相沢の自作自演な気がするし。


「お前らの突入のタイミングは任せる。だが、俺が死にそうになる前には助けろよな!」


「なんとも情けないリーダーだこと」


「うるせぇなぁ、俺は攻撃手段が少ないんだよ!」


「らじゃー」


 ハジメだけが返事をしてくれる。あかねは自分の体を捧げるかどうかを悩んでいるみたいだ。うねうねと体を動かしている。


「イザナギ、わかってるな? もし相沢が攻撃してきても本気で守るんだぞ?」


『分かったが……しかしそんなことがあり得るのか?』


「誰かに操られている可能性がある」


『そうか……確かにな』


「しかも俺一人で来いという指示に既に反しているんだ。相手が気配を感じることができる奴だったら、相沢も危険だ。少し作戦がある。道中に話すからよく確認しておいてくれ」


『わかった、しかし主殿の頭はよく回るな! 感心してしまうぞ』


「年の功ってやつだよ」


『謙遜しているみたいだが、頼りになるのは間違いない。そういう姿を皆に見せればいいと思うのだが……』


「別にいいんだよ、嫌味ったらしいだろそんなの」


『主殿は優しいのか、不器用なのか……』



 ☆



「さぁ準備はいいかしら、出発するわよ! リーダーは私作戦開始! きゃっほおぅーーー!」


 こいつ俺の立ち位置が気に入らなかっただけじゃねぇのか?


 麻由美さんは「おーほっほっほっほ!」と高笑いしながら、大蛇丸の背中で踏ん反り返っている。海岸から少し遠い位置で大蛇丸が止まり、ここからは俺一人で降りる。麻由美さんは結構な倍率がありそうな望遠鏡をセットして準備万端だった。


「ご主人様……気を付けて」


「元治くん、佳凛ちゃんに振られても私が癒してあげるからね! 人肌で」


「なんか言われて嬉しいのか悲しいのかわからなくなってきた……」


 海岸に降りて、相沢を探す。


「おーい、相沢! 来てやったぞ! どこにいるんだ!?」


 思いっきり叫んだが相沢が出てくる様子はない。もしかしてもう殺されちゃったかな?


 しかし、この海岸はすごいな。壁が思いっきり海に削られて岩がむき出しになっている。この辺の壁を調べれば多少化石なんか出てくるかもしれない。もっと早く知っていればなぁ。


 そんな考えを巡らせていると、相沢のことを忘れてしまいそうだった。なんかあいつ存在感薄いんだよな、俺の中で。いや、嫌いとかそういうんじゃなくて、クズ女だけど変に優等生というか、干渉できないというか……


「元治!! 逃げろ! これは罠だ!」


 急な声に俺はせり上がった崖の方を見る。するとそこにはロープで縛られた相沢と、相沢の髪を持って背中を踏み、地面に押さえ付けている女の姿があった。


 こんな漫画の出てくるサディストみたいな見た目のやつが現実にいるとは正直思わなかった。


「こいつの能力はチャーム! 誘惑だ! それ以上近づくとやられるぞ!」


「へぇ……そいつはちょっとやっかいだな……で、相沢、お前やられたの?」


「不意を突かれたんだ! 魅了された人間はみんな操られてしまう!」


「まぁだ負けを認めないのねこの子は……うっふん、悪い子。でもあなた、私の能力をそんな簡単にバラしちゃダメでしょおん」


「あ……あぁ!! ……申し訳ございません。ボア様、以後気を付けます……」


「んふ。かわいい子。従順にしてくれると可愛がりがあるわぁ♪」


 なるほど、確かに近付けないな。何も知らないで奴が近づいてきたら簡単にやられてしまう。遠距離での攻撃なんて俺のレパートリーには……


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