第14話 空から放つ打ち下げ魚

 大蛇丸で進んで数時間ほど西に進んだ時のことである。


 ポトッ。


 ボトボトボトボトボトボト!!


「うおーーー餌じゃーーー!!」


「おい!! なんだこれは!! 魚が空から降ってくるぞ!!」


「きゃあああああ! 何これ気持ち悪い! 魚恐い! 魚だけじゃなくてカエルとかセミとか色んなもの降ってくるよ!」


「これは……また不思議な現象ねぇ……」


「はッ! ほっ! やッ!」


 ハジメは落ちてくる魚たちを素手で捕まえ上を向いている大蛇丸の口に放り入れる遊びをしている。


「イザナギ、どういうことかわかる?」


『これはまた不可思議であるな』


 イザナギも分からないみたいよ、どうするよ。とりあえず無視するしかないか?


 しばらくすると魚の雨は止んでいた。俺はイザナギを傘代わりにしていたので、止んでいるのに気づかなかった。


「疲れたー」


ハジメは止むまで大蛇丸に餌を与え続けていたようだ。


「修行! 楽しいね!」


 飛び切りの笑顔でみんなの前に座る。


 最近、ハジメはどんどんみんなに溶け込んでこれている。最初のころのオドオドとした感じはもうないな。まぁあかねもいるし、優しいお姉さんが居たら溶け込むのも早いか。……あれ? あかねと相沢よりこいつ年上じゃなかったっけ?


「ハジメちゃん修行してたんだー」


「そうだよ! ご主人様を守るために頑張って強くなるんだよー!」


「むむっ! そう言われちゃ私も黙ってはいられないね! 少し手合わせ願おうか」


「あかねには負けないぞー!」


 あかねが参戦する。


「相沢はいいのか?」


「何であたしまでやらなきゃいけないのよ」


 因みに麻由美さんは最近、大蛇丸の腹の中で自分の研究所を作り、毎日研究に明け暮れている。マッドサイエンティストの称号を与えよう。何を研究しているのかは知らないけれど。


「佳凛ちゃんもやろう! 強くならねば!」


「佳凛は強いからいい実践になる」


「はぁ、分かったわよ、やればいいんでしょ!」


 変なことはあったけど、意外と平和だな。


「イザナギ、神の気配は近いのか?」


『そうだな、あと半日もあれば相当近づくだろう。今の内に休養を取っておくのもいいだろうな』


「だ、そうだが……。まぁ無理だろうな、あいつら子供だし」


 俺は大蛇丸の背中で横になってしばらく眠ることにした。結構寝心地良いんだよなこの鱗。ツルツルなんだけど大蛇丸の肌暖かいし。気持ちよく昼寝ができる。






 ……気付くと俺は、森の真ん中で寝ていた。


「あれ? みんなどこ行ったの?」


『主殿が寝ている間にもうみんな先に行ってしまったぞ』


「え? 俺、大蛇丸の背中で寝てたんじゃなかったっけ?」


『落ちたぞ』


「起こせよ!」


『そんなこと言ったってしょうがないじゃないか』


 少し前に活躍した子役みたいなことを言ってくる。こいつマジで殺したろか……


「俺が落ちてからどんくらい時間経っている?」


『半日ほどだな』


「マジかよ! 誰も俺がいなくなったの気付かないのかよ!」


『もう神の気配の場所に着いているであろうな』


「仕方ない、走って追いかけるぞ!」


『御意!』


「お前は俺にくっ付いているだけだろうが!」


 最近のイザナギは俺の扱い方が悪いな。合流できたら少しお灸を据えなきゃいけん。


「あのぉ……」


「何だコラぁ!」


「ひぃぃぃぃ」


「あ、すまない。全然知らない人じゃないですか」


「あ、あの、道にお迷いですか?」


 振り返ると、大人の男の人がいた。てか、人間いた! どうしてこんなところに! そういえばここはもう都心から大分離れたところにいるのかもしれない。あのミサイル砲台は都心に多く作られたのかもしれないな。


 俺に声を掛けていた人間はあっけにとられていてそれ以上俺に何かを話しかけてこない。俺も黙って考え込んでいるから警戒されているとでも思っているのかもしれない。


 よく見ると話しかけていた人は純粋な人間じゃなかった。肌の色は白人くらいの白さだが、耳は尖っているし、髪の色は緑色だ。よく小説とか映画とかに出てくるエルフみたいな外見だった。


「あの、あなたは誰ですか?」


「私はこの近くの村で漁業を営んでおります。ラチカと申します」


「そっか、ご丁寧にありがとうございます。俺は新木元治っていう……まぁ旅人です」


「あ、やっぱりあなたが新木様でしたか。お迎えに上がりました」


「え?」


「実は先程、新木様の従者の方々が私たちの村に到着しまして、私達は少し前から魔法が付使えるようになっていたので、それならば私が連れてきた方が早いという話になりまして……」


「魔法!?」


「はい、半世紀ほど前から私たちの村では魔法を使える人間が出てきまして、姿も少しづつ変異していったのです。まぁ、詳しい話は村に戻ってからしますので、とりあえず私に掴まってください」


 この世界はもはやファンタジーの世界になってしまったのか……時間の経過って恐ろしいな……


 とりあえず俺は男に掴まって魔法を待ってみる。


「古の神の使徒より、彼の者、我が故郷へと送らん」


 突然体が光だし、俺とラチカは光になってその場から飛ぶ。気付いたら確かに村っぽい場所の真ん中に立っていた。


 村全体には灯篭のようなものが立っており全体的に明るい雰囲気だ、歩く人はみんな緑の髪の毛に耳が尖ったエルフみたいな感じになっている。子供も何人か遊んでおり、すごく平和な場所だということが分かる。


 俺がのんきに観察していると、ラチカが声を掛けてきた。


「新木様、まず村長と話していただきたいのでこちらに来ていただけますか?」


「ああ、わかった」


 村の真ん中の道を進んでいくと一際大きな家にたどり着いた。


「ここが村長の家です。ハギト様! 新木様を連れてまいりました」


「……」


「なにも反応がないな」


「ハギト様! 新木様を連れてまいりましたよ! 入りますよ!」


「……」


「あのジジイまさか……」


 ラチカが少しうんざりしたような顔で扉を勢いよく開ける。


「にょほほほほー、待て待てー」


「きゃああー来ないでぇー!」


「いいではないかぁーわしと一緒に遊ぼうではないかー♪」


「やめろっつーの!!」


 どぐしぃ!!


「あ! ご主人様!」


 俺の存在に気付いた四人が一斉に俺の下に駆け寄る。


「ご主人様! 私、あの人嫌いです!」


「元治くん助けて! あのおじいさん変態なんだよぅ!」


「元治、あたしをイザナギで包んで! 早く!」


「男っていくつになっても醜いわねぇ」


「一体どうしたんだよ、まぁ今の光景を見ていたらなんとなく想像はつくけどさ」


「むむっ! お主が新木か……確かに恐ろしいほどの神の気配だな……」


「あんた、神の気配が分かるのか?」


「ほっほっほ。神の気配など一瞬でわかる。しかし、お主は今まで感じたこともないほどの力を秘めておるのう」


「ほぅ……。聞いたかお前ら、もっと俺を崇めていいんだぞ?」


「調子に乗ってんじゃないわよ、あんたじゃなくてイザナギでしょうが」


 まぁそうなんだけど。


「ところで嫌われジジイ。お前が村長でいいのか?」


「そうじゃあー、わしがこの村の村長ハギトじゃ」


「ラチカ、とりあえずこいつ、縛ってボコボコにしていいか?」


「ご自由に」



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