第13話 戦闘訓練

 次の日の朝、俺達は集落の生き残りと話をしていた。


「私はサダメ様の側近をしていた郷田といいます。あなた方には感謝の気持ちしかありません」


「そんなことはない、俺達だって世話になった」


「あの、これからどうされるか考えておられるのでしょうか?」


「うーん、あんまり具体的には考えていないけど、兎に角今はあんたらのように生きている人間を探すことかな」


「そうですか……」


「お前らはどうすんだ?」


「残ったもので、ここに住み続けようと思っております。ここはサダメ様が浄化をしてくださった土地、作物も豊富ですし、私達も元軍人、多少の攻撃には耐えられましょう」


「そうか、健闘を祈るよ」


「あの、少し提案なんですが、昨日のお礼としてあなた達に戦闘の稽古をつけたいと思ったのですがいかがですか?」


「戦闘の稽古?」


「はい、恐らくあなた方はこれからもっと苛烈な戦いの渦に飲まれていくのでしょう、ですから、私達で実践訓練を積んでみてもいいのでは? と思ったのです。私達は」


「軍人か? でも、こんな年端もいかない女の子に教えても習得できるものなのかね?」


「できると思います。私達は日本軍の特殊部隊に属していました。主に暗殺が仕事になります。このスキルは役に立つのではないでしょうか」


「おい、おまえら。やりたい? 戦闘訓練」


「そうね、今よりは強くならないとこの先やられちゃうかもしれないわよね」


「私も、おばぁちゃんの意思を貫くなら、このままじゃいけないって思っています」


「じゃあ決まりだな」


「何であたしには聞かないのよ!」


 麻由美さんは少し怒っていた。


「麻由美さんは表立って戦うことはこれからもないと思うからね、むしろ俺達のサポートになりそうなものの開発が大事かな」


「それは常に続けているわ! でもあなた達の戦い方もよくわからない状態じゃ、有効なものなんて作れないんだから、あたしも参加するわ」


 まぁ、間違ってはないけど……あんまし昨日役に立てなかったから少し怒っているのかも。


「じゃあ、お言葉に甘えて、もう少しお世話になります」


「よかった、何もお返しができないまま帰してしまってはサダメ様に怒られてしまいますよ。あの人、人の恩やら何やらにはものすごくうるさかったですから」


「あはは、申し訳ないです」


 あかねは舌を出してテヘペロを実践している。自然とテヘペロができる人間っていたんだ……


 そうして俺達はしばらくここに留まり、戦闘訓練を開始するのであった。






「まだ動きが遅い! そんなことでは切りかかる前に首を持っていかれるぞ」


「はい!」


「体の運び方が悪い! それでは次の攻撃に耐えられないし、いずれ殺されるぞ!」


「はい!!」


「寝るなぁぁぁぁぁぁ!!」


「え? ぶはぁぁぁ!!」


 因みに今吹っ飛ばされたのは俺じゃないよ? 麻由美さんだから。戦闘訓練はすごい役に立っている。人間の急所の位置、それを防ぐ方法、様々な角度からの攻撃の転じ方、カウンターの効果的なやり方……etc.


 特殊部隊だけあって、接近戦や、遠距離戦、どちらにも対応した戦闘訓練を教授してもらっている。あかねと相沢は物覚えが早く、もうほぼ習得している。あとは体の使い方を実戦形式で体に叩き込まれているところだ。麻由美さんは自分もやるって言った割には大体寝ている。恐らく酒の勢いで参加すると言ってしまったのだろう。ほぼ研究にしか興味ないからねあの人。


 俺はというとこいつらとは離れて自分で実験というか、イザナギの研究というか、戦闘になった時のできることできないことの確認というか……決して、戦闘訓練についていけなくて横でさぼっているわけじゃないんだよ?


 ハジメに協力してもらって、イザナギにできることを確認する。結果からすると、やはりイザナギはかなり優秀だ。纏って攻撃をすればそれなりの攻撃力を得ることができるのは知っていたが、それは俺が武器を持っていてもそれに纏わせることができる。強化した、腕で強化した武器を使えばかなりの攻撃力が見込める。しかし、欠点として防御はおざなりになる。武器強化をすると体を覆う防御はかなりの弱体化が感じられた。


 防御面で見ると、俺の体以外にもある程度の防御力は移動可能。しかし、イザナギ自体、俺から離れるとかなり能力が低下するため絶対防御にはならない。また他者に防御能力を移行するには対象に触れなければならない。防御面の方が扱いにくいな。


『主殿……我、疲れた』


「鉱石って疲れるの!?」


 そう、イザナギも生き物。実はちゃんとスタミナが存在するのだ。長い間力を使いすぎると集中力も切れ、反応速度が鈍るなどの不安点が見られた。また、俺の心を媒体にしているだけあって、結構すぐに疲れる。


 まぁあかねと相沢の習得速度は尋常じゃなく、一週間ほどで何も言われることがないくらいに成長してくれた。身体能力が上がっているから異常なスピードで習得したといってもよい。ていうか、こいつらの身体能力についていった郷田の方が気になるんだけど。


「ここまで早い成長をした人たちは初めてですよ」


「いやぁ、一回覚えてみるとなんか追及してみたくなりますね! 戦闘ってかなり面白いです!」


 戦闘狂になってしまったかもしれない。相沢は普通の女の子……最初からそんなに普通の女の子じゃないけど、また歪んでしまった気がする。


「私も勉強になりました! ありがとうございました!」


「いやはや、私ではもう手に負えないですよ、これからは実戦で訓練を積んでいくしかないです。しかし、覚えていてください、強い自信は身を亡ぼすことにもなります。決して相手を軽く見ないことです」


「「はい!!」」


 武装集団がこちらに向かって敬礼をする。それに倣って俺達も敬礼で返す。ここに新たな武装国家が生まれた瞬間な気がした。


「元治くんはこの一週間何していたの?」


「ご主人様は私と一緒にあーんなことやこーんなことを一週間楽しみました」


「ハジメ、それ麻由美さんに教わっただろ。誤解されるからやめなさい」


「貴様! わしが見てないと思ってハジメとそんなことをしていたのか!?」


「大蛇丸だまれ」


「お父さん死ね」


「おおぅ……!」


 ハジメもお父さんに厳しいな。いい様だが。


「元治くん! エッチなんだよ!」


「あかねも信じるな、俺はハジメに協力してもらってイザナギの戦闘能力を確認していただけだ」


「本当かなー?」


「お前らにも知っておいてもらいたい。イザナギはお前らの鉱石と違って分かり辛いところがあるからな」


 俺は一週間の研究で知り得た、イザナギの能力をみんなに話す。


「因みに大蛇丸はでかすぎて体の一部も覆えないから勘弁しろよ」


「貴様の助けなどいらぬわ」


「俺の助けというか、イザナギの助けなんだけど」


「イザナギ様ぁ! そんなあんまりですぅ!」


 こいつめんどくせぇな……徹底的に無視した方がよさそうだ。


 とりあえず今後の予定だが、大蛇丸に任せて神の気配とやらがある方へ向かってもらう。全員がこっちを見て頷いた。邪神がいるという事実もあるので邪神かどうかはイザナギ判断になるが、こいつの精度は微妙なところがある。気を付けるように!


 と、学校の先生のように注意を促すことに留まり。一行は次の適合者探しに向かうのであった。

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