第12話 アマテラスの覚醒

 常坂の体が光り輝く……


 それは、神々しくもあり、また弱く、淡くもあり不思議な温かさがある光で、見るものを穏やかな気持ちにさせるような光であった。


「私はアマテラスに選ばれし、太陽の使者。そして、善女竜王の意思を継ぐ者! 私の光にはどんな闇だって届かない!」


「私は、太陽と対をなす月の使者。ツクヨミ選ばれし静寂の神。太陽に照らされ静かに輝く! お前は私の親友の心を痛めつけた! 絶対に許さない!」


 近くで見ていたのだろう、相沢が常坂の隣に立ち、マガツヒを睨む。常坂と顔を見合わせ二人で頷き合う。


 刹那、戦闘は始まった。


 マガツヒに向かって一直線に飛び出す相沢。ツクヨミの双剣で左腕に切りかかる!


 常坂は舞うように光り輝きながら、マガツヒに接近する。常坂が通った後は光が残像のように残りマガツヒの視界を奪う!


「双剣ツクヨミ、弐の型、万華鏡連斬!」


「炎舞アマテラス、弐の型、蛍火の獄炎!」


【この程度か……】


「何!?」


【ぐおおおおおぁぁぁぁぁぁ!!】


 マガツヒの黒いオーラが大きく膨らみ、俺達を威圧する!


「イザナギ! 行くぞ!」


『御意!』


 イザナギを全身に纏い、硬化した体でマガツヒを殴る。強い防御力は高い攻撃力へと転ずる。イザナギとの修行で俺の戦い方がみえてきたところだった。


 しかし、マガツヒは俺なんかの攻撃には一切反応しない。俺の攻撃が二人に比べて極端に弱いことが分かっているのだ。


 マガツヒは左腕で俺達を薙ぎ払うと、常坂に向かって一直線に飛んできた。俺はすかさず間に入って攻撃を受け止める。


「傷心中の乙女に言い寄るなんて少し質が悪いんじゃないの?」


【その光は今ここで断ち切らせてもらう!】


「そうはさせねぇよ! 俺がいるんだからな!」


 俺の後ろから、俺に攻撃を受け止められ、動きを止めているマガツヒに相沢と常坂が回り込み技を繰り出す!


「満月撃!」


「紫炎業火!」


【邪魔だ!】


 マガツヒの威圧だけで吹き飛ばされる!


「きゃああああ」


「わあああああ」


 マガツヒは俺を腕を振り上げて引き離すと、怒り狂ったように頭に血管を浮き上がらせてこっちを見る。


【うるさいハエどもめ……】


「ハエって思っているなら、それでもいい! 私はお前を今ここで!」


 常坂が纏っていた光が一層強くなり、高温の炎を纏い始める。


「太陽の力を纏いし竜は闇の根源を照らし浄化する!」


「炎帝、ドラゴニアバースト!!」


 突如、常坂の体は炎の竜に姿を変え、マガツヒに突進し貫く!


【グガァァァァァァ!!】


 さすがに、耐えきれなかったのかマガツヒが初めて地面に降り立ち膝をつく。


【どいつもこいつも面倒くさい……く……こんなところで……】


 マガツヒは苦しそうな顔を上げ俺達に告げる。


【今ここで俺に殺されていればよかったものを……】


 身を翻して、マガツヒは空へと帰っていく。


「おい! 逃げるな! まだ勝負は……」


 常坂が帰るマガツヒに勝負を挑むが、実際、今の状況を考えると長期戦は厳しいことに気付いたのか途中で言い淀む。


 マガツヒは怒りの表情をこちらに向けて叫ぶ。


【神に選ばれし人間共よ! お前らは絶対に我が殺す!】


「やれるもんならやってみろよ! 俺が全員守ってやるよ!」


 そう言い返したのを聞こえたのか聞こえていないのかわからないが、マガツヒは去っていった。


 マガツヒの姿が完全に見えなくなると、力が抜けたようにその場にへたり込む二人。


「大丈夫か?」


「あんまし大丈夫じゃないかも」


「……だよな」


「おばぁちゃん……」


「……」


 常坂に掛ける言葉が見つからない……。一番辛いのは残された方なのは俺もよく知っている。


「常坂……」


「……昔ね、ばぁちゃんが言ってたんだぁ。『あんたは誰よりも優しく、強くなりなさい』って」


「あぁ」


「だからあたしね、村のみんなを助けようと思ってアイドルになるって決めたの」


「そうか」


「でも、誰もいなくなっちゃった」


「……」


「もぅ、何の為に生きていけばいいのかわからないよ」


「ばぁちゃんの意思を継ぐんじゃなかったのか?」


「ばぁちゃんはね、そうして欲しいと思う。でも、それを為し終えた後、私に幸せってあるのかな?」


「ないと思っているのか?」


「え?」


「ないわけないんじゃないのか? 平和になった世界で、普通の女の子として生きていけるんじゃないのか? それに家族が必要というのであれば、俺がお前の家族になってやる」


「は……!? はえぇぇぇぇぇ!?」


 急に常坂の顔が赤くなっていく。なんだ? とりあえず話を進める。


「確かに、お前の家族はいなくなってしまったかもしれない、けど、ここにいる仲間は誰もいなくならない。俺が全員守るから。だから、今は、お前の家族を盛大に弔って、明日からまた前を向いて歩こう。そうすればまたきっと、楽しい毎日はやってくるよ」


 俺は、これまで55年間の経験を踏まえて、常坂に完璧なアドバイスができたと心の内でガッツポーズをするのだった。


「はい、私、おばあちゃんの意思を継いで、平和になったら幸せになります!」


「うん、そうだな!」


「きゃああ! 言っちゃった言っちゃった!! 元治くんのオッケーももらっちゃったべ! きゃあああああーーー」


 横の茂みからひょこっとハジメがやってくる。近くで常坂の様子を見ていたのかな? 大丈夫だとわかって出てきたんだろう。


「ハジメ、近くにいてくれたんだブヘェェェェェェ!」


 ハジメのパンチが炸裂ぅぅぅ!! 因みにイザナギは仲間には反応しない、基本的に仲間には油断しているから。


「ご主人様……後できっちりした弁護人を立てて説明を要求します」


 ゆっくりと常坂の方に近づいていき、えへ、えへ、えへ、と照れたり、真顔になったりを繰り返している常坂の肩を掴む。


「あかねさん……」


「えへっ♪」


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 ハジメが今まで出したこともないくらいの大きな声で『死ね』と叫ぶ!! それだけで、常坂を縮みこませる威力があったが、それだけでは終わらなかった。


 常坂を地面に倒しマウントをとると、すごいラッシュで顔を殴り続けていた。


「がふっ! がはッ! ギャア!! 芸能人はッ!! 顔が命ッ!!」


「もぅ……止めてあげて……」


 ギロッ! と、ハジメがこちらを睨む。 怖いよう、止めてよう。俺はほっとくことにした。





数十分後、二人は戻ってきたが、本当に二人なのかと疑う程、両者とも顔が腫れ上がっていた。因みに活性化の影響か、30分もしたら治っていた。もう人間じゃないだろ俺達……。


「元治くん、私、ここで今日亡くなってしまった人の弔いをしたいです。しかも悲しいやつじゃなくて、思いっきり楽しいやつでやりたいと思います!」


「ああ、そうしてやりな常坂」


「ちょっと元治、あんたあんなこと言って責任とれんの?」


「あんなことって? 責任? なんのことだ?」


「あんた、あかねに家族になってやるとか言ってたじゃん!」


「あぁ、俺を父親のように思ってくれればいいと思っていったんだけど、仲間だって家族だぞって教えてやりたくてな」


「それ……、もうあかねの前で言っちゃだめだからね」


「え? どうして?」


「どうしてもよ!」


 少し、相沢は怒ったような口調になって常坂の方に行った。因みにこのマガツヒの襲来によって、俺達の仲間は誰も死ななかった。しかし、集落の逃げ遅れた何人かと、常坂のばぁちゃんが死んだ。


 これは悲しいことだったけど、残った俺達は盛大に、しかも誰もが笑えるような弔いをした。死んでいった者たちにもう大丈夫だと、安心して見ていてくれと伝えるかのように……


 常坂は得意の舞を踊っていたし、相沢は歌を歌って盛大に盛り上げた。常坂の舞はすごく綺麗で、見るものを魅了させていた。相沢の歌声は聞くものを穏やかに、そして、優しくさせるような透き通った歌声だった。


 その夜、常坂が俺の部屋を訪ねてきた。


「あの……入ってもいいですか?」


「どうした?」


「一緒に寝ようかと思いまして……」


「いや、子供じゃないんですから一人で寝なさい。寂しかったら麻由美さんか、相沢の所にでも行きなさい」


「もぅ……恥ずかしがっちゃって、それにもぅ私のことは名前で呼んでください」


「あかね。はい、もういいでしょ」


「元治くん冷たいなぁ。将来家族になる間柄なのにぃ」


「くん付け? もぅ家族みたいなもんだと思っているぞ?」


 ぼっ!! あかねの顔が茹蛸みたいな真っ赤に染まった。


「今日はありがとう。私、元気出ましたから、もう大丈夫です」


「あぁ、また明日な」


 俺がニカッと笑って見せると、あかねもフワッと可愛い笑顔を見せて戻っていった。


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