第10話 竜王サダメ
「と、いうことで、一緒に行くことになりました。大蛇丸とハジメです」
「よろしく頼む」
「あの……だ」
大蛇丸は相変わらずのでかい態度でみんなに挨拶をする。ハジメは人間と話すのが初めてなので、うまく喋れていない。まぁそれは仕方がない、俺達が教えてあげるしかないだろう。常坂たちもさっきまでの会話は全部聞いていたので、改めて説明する必要はないだろう。
「ハジメちゃん! こんなおじさん達と一緒にいないでこっちで女子だけで遊びましょうよ!」
「あらぁいい子ね、麻由美おねぇさんが大人の遊びを教えてあげるわね」
「あの……ちょっと」
ハジメは少し困惑してこっちに振り返る。必死に逃げ戻ってきて俺に抱きつく。
「どうした? 少し恐かったか?」
「うん……」
「大丈夫、あの人たちはちょっとイカれているけど優しい仲間だよ」
「あらぁ、少し恐がらせちゃったかな、大丈夫だよーおねぇちゃんたちと遊ぼう?」
常坂は屈託のない笑顔でハジメの顔を覗き込む。常坂は裏表がないからきっと子供にとっては接しやすいと思う。保育士タイプなんだろうなこいつ。子供の信用を得やすいタイプ。ハジメは迷っていたが、俺の後押しもあって女子会に入っていった。
「わしも麻由美殿の大人の遊びを知りたい……」
「エロ蛇」
『まぁまぁ、大丈夫だ大蛇丸。主殿たちは信用できる』
「イザナギ様、大丈夫です。私も信頼しているつもりです。ただ元治殿とは馬が合わないだけです」
『まぁ仕方がないな』
「それでお前、俺達乗せながら勝手に進んでるけど、どこに行けばいいかわかってんの?」
「神の気配がする方へ行けばいいのであろう? イザナギ様に聞いたぞ」
「そうか、ならいい」
ふと女子会のほうに目をやるとハジメは少し緊張が解けたのかみんなと楽しそうに笑っていた。
ハジメの容姿は身長140センチくらいと小柄で、年齢でいうと10歳くらいの幼さを醸し出している。髪は紫色だ、蛇の中で育ったから毒で汚染されたんじゃないかと思う。でもつやつやしていたから、地毛なんだろう。おとなしい性格だが俺に懐いてくれているところもあり、信用できる人には全力で頼るタイプだろう。
大蛇丸は真っ黒い大蛇。説明はこれだけで十分。20メートルくらいある。神の使いといえば白蛇な気がするが、こいつは真っ黒。人間の邪気に当てられたそうだが、人間、相当黒いね。正に、白を黒に変えるほどに。そこからの人間嫌い、まぁ分かる気がするな。
「む、人の匂いがするぞ」
「何!?」
「少数ではあるが人間がいるな」
「どのくらい先だ?」
「もう囲まれている」
「もっと早く言えよ!」
「おい! みんなこっちに来てくれ!」
俺の号令にみんなが集まってくる。
「どうしたの?」
「人間が見つかったらしい」
「本当!? どこ?」
「もう囲まれているみたいだぞ……」
俺達が進むのを止めると、茂みの中から20人くらいの武装集団が現れた。
「聞いてくれ! 俺達はお前らに危害を加える気はない! 話をさせてくれないか?」
武装集団は確認をとった後、リーダーらしいやつが前に出る。俺も大蛇丸から降りて何も武器を持っていないことをアピールする。しかし、こいつらでかいな! 軽く2メートルは超えている。蛇の上からじゃわからなかったが、全員2、3メートルはある。勝手に巨人族ととらえておこう。
「お前らは何者だッ!」
「俺達は……」
そういえば人間に会った時なんて言おうか考えてなかったな。こんなでかい蛇連れて警戒されないわけがない。本当のことを言ったところで信じてもらえるかも微妙だ。
「俺達は、人間の生き残りを探していて、旅をしているところだ。どうかお前らの住んでいるところまで案内してもらえないだろうか」
「そのでかい蛇は人間を食うのか?」
「俺の指示には従うから食うことはない、大丈夫だ。無理ならこいつをここにとどまらせていてもいい」
「……わかった。ひとまず人間だけ、案内しよう。そこの大蛇にはここで待っていてもらえるようにしてほしい」
「わかった」
俺は蛇の上まで跳躍して戻り、事情を説明する。大蛇丸は渋々といった感じだったが了承した。
「大丈夫、ハジメは俺がちゃんと守るから」
と、約束をしてその場は収まった。
巨人族についていくと、小さな集落があった。案内された少し大きめの家に入ると、中には煌びやかな着物に身を包んだ若い女性がいた。しかし巨人族らしくでかかった。
「竜王様、人間がおりましたゆえ連れてまいりました」
『主殿……あやつは神だ。間違いない』
「なんとなくそうだと思ったよ」
巨人族の竜王様とやらが、顔を上げ俺達に挨拶をする。
「お初にお目にかかります。私は善女竜王のサダメと申します」
「え? サダメ?」
「どうした常坂?」
「え? いやちょっと」
「あなた方からはなにか高貴な気配がいたします。あなた達も神の使者なのではないですか?」
「神の主人のつもりだけど」
「まぁ……ふふ。何も無いところではありますがゆっくりしていってくださいね」
少し笑みを浮かべてこっちを見る。照れるな。
「少し聞きたいことがあるんだが」
「答えられます範囲でお答えいたしましょう」
「お前らはどうしてこんなところに住んでいるんだ?」
「それは、私が竜王様の力で生きながらえていたところに、日本軍の生き残りの方がみえまして……ここを拠点に村を作った次第です」
「お前の能力はなんだ?」
「私は雨を降らせ、この地の浄化を行っております。また、作物を育てることができるのです。私の能力で育ったものは以前より大きくなります」
「なるほど……この辺の化学兵器がないのはお前のおかげか」
それに大蛇丸がここ何年かで急に体が巨大化したのはこいつの能力のせいかもしれないな。ここの人間もその能力で食べた食物なんかで巨人族へとなっていったのだろう。
「じゃあここのことはもういいや。あとはまだ生き残っている人間はいるのか?」
「いるにはいると思いますが、私達のように運良く生きながらえた人しかいないのではないでしょうか?」
「つまりお前らは他に生きている人間を見てはいないということか?」
「……いえ、確かに見てはいませんが、人間の手による攻撃だと思われるものが過去二回ほどありました」
「攻撃?」
「ええ……砲弾や銃器による遠隔射撃などですね」
「こんな世界になってもまだ殺し合っているのか?」
「こんな世界だからこそです。誰かから奪わねば何もせず死んでしまうのです。人間は同じ人間ですら信用することができなくなってしまったのです」
俺達は誰も否定することができなくなってしまった。俺達をこんな状況にしたのも人間。強欲で意地汚い人間は世界を壊してまでも自分たちの私利私欲のために最後まで滅ぼし続けたんだ。滅んだ後でも人間は変わらない。結局助け合うことはせず、奪い合うことを前提に動いてしまうんだ。
「……」
俺達が何も答えられないでいると、常坂が徐に切り出し始めた。
「あ、あの少しいいですか?」
「どうしたんだ常坂。話が分からなかったか?」
「そんなことはないです。すごい悲しい話だなって思います。ただ、少し気になることがあります」
常坂にしては珍しい様子だ。一体何が気になったというのだろうか。
「あの……その襲撃で、この村の人は誰も対抗しようとは思わなかったんですか?」
あ、確かにそうだな。銃器で襲われでもしたら報復とばかりにこちらからも打って出るのが普通か。ましてやここにいるのは元日本軍のやつら。血の気の多いやつらがいてもおかしくはない。
「……対抗は、しません。むしろできません。確かに打って出るという考えの者はおりましたが、私達には武力がありません。襲撃されても収まるまで待つしかないのです」
「勝手に収まるとは思えないが、それで被害はないのか?」
「これといった大きい被害はありません。敵方もそんなに大きな武力を持っているわけではないのではないでしょうか?」
むぅ……。なんか腑に落ちないが、今これを考えていても答えは出ない気がする。
「それでは、みなさまお疲れでしょうから、そろそろお休みになってはいかがですか?」
「そうね、そうさせてもらいましょう」
「あ、そうだ。大蛇丸っていう大蛇が仲間にいるんだけど近くに来てもらってもいいかい?」
「あなたたちの仲間であるなら大丈夫でしょう。よろしいですよ」
「よかったね、大蛇丸! それとおばあちゃん、あかねのご飯にはネギは入れないでね!」
「わかり……え?」
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