第8話 新たな適合者?

「よし、西に行くぞ」


「いきなり何? 朝早すぎじゃない?」


「早くねぇよ! もう太陽てっぺん超えてんだよ!」


 そう。常坂と相沢は朝に弱かった。麻由美さんにいたってはもはやブレイクタイムに突入していた。コーヒー片手に読書とかどんな優雅な暮らしだ。というかのんびりしてないでこいつら動かすの手伝ってくれよ。


「常坂! お前アマテラスと一緒なんだから今どのくらいの時間かわかってんじゃないのか!?」


「ち……ち……ち……ちーん。三時をお知らせ致します」


「のんきに時報鳴らしてんじゃねぇよ!」


「もぅ……うるさいわねぇ、朝ぐらいゆっくりさせなさいよ」


「朝じゃねぇって言ってんだろ!」


「イノシシうまいよぉー、佳凛も食べなよぉー」


「遠慮していいかしら? アイドルは体型にも気を使わないといけないの」


 こいつら普通に部活の合宿にでも来たつもりになってんじゃないのか? それにしても目覚めてから一日しか経ってないのにこの順応能力は何なんだ一体……


「いつまで飯食ってんだよもぅ……」


「佳凛ちゃんアイドルなの?」


「アイドルのはずだったんだけどね、オーディションの日に襲われたみたいだから」


「ふーん。実はあたしもそうなんだよー最終選考まで残ってあと少しだったのになぁ……」


「へぇ、どっかの地方アイドルか何か?」


「ううん、全国ネットで放映されていたんよ?……あれ? あの番組何て言ったっけか?」

「全国ネットのオーディション番組ってまさか……【ダイヤモンド発掘! アイドル育成物語】!?」


「あーそうだーそれだっちゃ」


「マジか……じゃあ私達あの場に一緒にいたってことね」


「それ、俺も観客側でいたよ」


「マジで……? 考えてみればそうか……あたしたち、あんたのイザナギに守られていたんだもんね」


「あぁ、そうか。でもまぁ助けたのはイザナギ本人だな。当時俺はそんな能力があるとは知らなかったし」


 イザナギは何も言わないが、何でこいつらを助けたんだろうか? 適合者ってのは分かるんだけど……まぁ今はいいか。


「ていうか、もうほんとに行くぞ! 生存者見つけるんだろうが!」


「そうでした! すぐ支度します隊長!!」


「誰が隊長だ! 麻由美さんも早く支度してくれ」


「あたしはいつでもオッケーだけど」


「白衣着てコーヒーと読書なんてブレイクタイムはすぐに終わりにしてください」


「もぅ、せっかちねぇ」


「エロく聞こえるからやめてください」


「隊長! 支度するって言いましたが、何をすればいいですか?」


「む」


「着替えは終わっているし、特に準備することないんですけど」


「そういえばそうだな」


「じゃあもぅ出発しましょ―」


 非常に無駄な時間を過ごした気がする。これからを考えると頭が痛くなるな。生存者だっていつ見つかるかわからない。適合者が人間かもわからない。まさにお先真っ暗だな。


 外に出ると麻由美さんがロッジを消していた。イノシシの肉とかはまた出せば保存されているという。どこまでも便利な能力だ。


『主、西の……そう遠くない位置に適合者の反応がある』


「そっか、そりゃ朗報だな」


 その言葉を頼りに俺達は歩いていった。それにしてもこの辺、本当に草木が大きく育っている。偶に遭遇する動物にいたってもそうだ。本来俺達が知っている動物よりも一回りも二回りもでかい。麻由美さんは「有り得ないわ……」と声を漏らしていたが、俺にはさっぱりわからん。二時間ほど歩いたところで日が暮れてきたので休むことにした。


「近くにいるんじゃなかったのか?」


『あと10キロ程だ』


「全然近くないじゃないか!」


『主たちがちんたら歩いているのが悪い!』


「だってよう、あいつら、何か珍しいもの見つけたらすぐ立ち止まるし、遊ぼうとするし、ブレイクタイムはいるし……手に負えないんだよう!」


『女というものは時代が変わっても何も変わらないな。まぁそれだけの身体能力があれば飛ばせば明日には近くまで行けるであろう?』


「あいつらが急いでくれるかはわからないけどな」


 期待はしないでおこう。疲れるし。


 因みにここでの生活として、衣食住は確保されており結構住み心地がいい。服とかは麻由美さんに言えば能力で作ってくれる。正にねこ型ロボットのような立ち位置だ。風呂も真由美さんが作ったものに薪をくべて温めている。こんな未来なのか過去に戻ってしまったのかよくわからない生活を送っている。食い物は鉱石でもいいはずなのに、できるだけ猛獣を狩ったり、草を摘んでキッチン機械で料理にしている。美味い。つまり、何不自由のない暮らしを堪能している。


「明日には心も体も多少は整理がつくだろう。明日から頑張ろう」


 そうして眠りについた。


 次の日は全員朝から移動を開始することができた。驚くべきことに走ってもなかなか疲れない。四時間ほど急いで走ると、あっという間にイザナギの言っていたポイントに着く。


「イザナギ、近くにいるのか?」


『うむ……いるとは思うのだが……、何故か気配がはっきりしないな』


「なんだよ、それじゃあ見つかんないじゃん」


『隠れているようにも感じる……この辺を少し調べる必要がある』


「どうやって調べるんだよ? 辺り一面ただの森だぞ?」


『むむぅ……』


 その瞬間、大きな地響きとともに太陽の光が遮られ俺たちはよろめきながら上を見上げる。そこには巨大な黒い蛇が空から落ちてきたのだ。


「キシャアアアアァァァ!!」


 俺たちは瞬時に距離をとり、戦闘態勢に入った。


「おい、イザナギ! こいつが適合者なのか?」


『いや、どこかおかしい。確かにやつから神の気配を感じはするが……』


「とにかくこいつ、俺たちに敵意丸出しなんだけど……倒しちゃっていいのかしら?」


『や無負えまい……が、どこか不自然だ』


「考えたってわからないならやるしかないだろ! いつものように俺が奴の動きを止めるぞ、後は頼むぞ」


「わかったわ」


「了解だっちゃ」


 俺は蛇に向かって突進する。


「貴様らは……わしと同じ匂いがするな……」

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