第7話 おっきな動物

「あれ……何?」


「知るかよ」


「おっきいねぇー」


「大きいなんてもんじゃないわよ、一軒家くらいあるじゃない」


「で、あれ何よ?」


「わからんて」


 俺たちは常坂の案内で獣の臭いがする方へ歩いていった結果、とんでもなく大きな獣に遭遇した。見た目はイノシシなのに、その大きさは確かに平屋一戸分くらいの大きさをしていた。


「イノシシの大きいやつね」


「大きさに限度ってものがあるだろ」


「あいつ倒せば一年分の肉が確保できるっちゃあ」


「……お前あいつ倒せんの?」


「元治がいくっちゃあ」


「何でだよ!?」


「確かにこの中じゃあなたしかいないわよね。絶対防御あるし」


「お前らの能力はまだわかんないのか?」


「そうね」


「試すのにちょうどいいんじゃないのか?」


「あんた私みたいに可愛い子が行ったらケガしちゃうじゃない」


「お前はブスだ。安心して行ってこい」


「殺してほしいみたいね」


 相沢のアバスクトリクスが二つの剣に形を変えた! これがこいつの能力か! かっけぇ!


「どおりゃぁぁぁぁああ!!」


 がきぃーーーーーん。


 固いものを思いっきりぶっ叩いた音が森中に響き渡ると俺は宙を舞っていた。


「結構使いこなしてんじゃないのそれぇーーー!!」


 着地した所は予想通り、巨大イノシシの目の前だった。


「ぶるるるるるぅぅ!」


「げっ! やべぇ! 見つかった! というか見つかられた!」


 俺を見るや否や、思いっきり俺に突進してきた! やべぇ超こえぇぇ!!


「イザナギ! 頼む!」


『承知した!』


 ガゴゴゴゴゴォォォォォ!!


 大きな音がして、俺の目の前でイノシシが止まり俺は高くジャンプした。


「くらえっ!」


 イノシシの額に本気のパンチを食らわせたが、いくら身体能力が上がっているとはいえ、この大きさのイノシシには全く効いていない様子。しかし、少しの時間なら足止めはできそうだ。


「おい! お前らこいつが動かない内に何とかして俺を助けろよ!」


 スバァン! と茂みから影が見えた……が。その瞬間にはイノシシの首は宙を飛んでいた。


「双剣ツクヨミ、一の型、三ヶ月の太刀」


 ……か、かっけぇ……。


「あかね!」


「はい! 炎舞アマテラス、一の舞、紫炎業火の舞」


 常坂は体に紫色の炎を纏い、吹き飛んだ首に触れた。するとイノシシの巨大な首は炎に包まれ骨まで燃えた。イノシシの体が倒れ勝利を確信した。


「お前ら……強すぎねぇ?」


「アマテラスちゃんは太陽の神です! 当たり前に強いっちゃあ!」


「ツクヨミ様もなかなかね、あの巨体を一刀両断するとは」


「なぁイザナギ、俺にはもっと強いのないの?」


『主の攻撃は人並みだが、誰にも負けない防御がある。争いを生まない最強の盾だ』


 なんかうまく窘められている気がするが、俺も攻撃系欲しかった。


 つーか二人がこんなに強いんじゃ俺いらなくないですか?


「結構簡単に勝てたわね。食料になる部分を確保できたら少し休憩してご飯食べましょう」


「そうだな、麻由美さん、キッチン付きの家とかも作れんの?」


「私のイメージがそのまま作れるから全然大丈夫よ」


「めちゃめちゃ便利な能力っすね。兵器も作れたりするんじゃないんですか?」


「たぶん……作れるわね。あんまりやりたくはないんだけど」


「まぁ……戦いになったら麻由美さんは完全に俺の後ろで支援攻撃だな」


「でも、あなた結構動くことになるでしょう?」


「そうですね、麻由美さんも自分の身くらいは守れるようにならないといけないかもですね」


 何だかんだで今の一戦で簡単な連携の取り方を確認していた。


 イノシシの使える部分を確保し、麻由美さんが作ったロッジで一休みする。


 料理は誰も出来なかったが、麻由美さん発明? の食料入れたら勝手に料理を作ってくれるという青いネコ型ロボットが持っていそうな道具を取り出し、それなりに美味しい飯になって登場した。


「なぁ、麻由美さん」


「なぁに?」


「ふと思ったんですけど、これだけ文明が進んだ国が50年でこんなに緑に生い茂った世界に変わるんですかね?」


「たぶん、有り得ないわね」


「じゃあ……」


「まぁ、私たち以外の適合者の能力って線もあるけど、それがどんな能力かは判別でないし、あの異常な大きさのイノシシもよくわからないわね」


「そうですか、でも、人が生きている可能性だって多少なりともやっぱりあるってことにはならないですか?」


「それだって分からない。適合者っていっているけど、人間以外が適合者ってことももしかしたらあるかもしれない」


 話を聞いている内に可能性の話から、否定の話になってしまったようで少し苦笑する。常坂と相沢も聞いてはいるが、落ち込み気味だ。


「……まぁ人間がいないって決まったわけじゃないし、希望は捨てずにいこう。今日は色々あって疲れただろうからここで休んで明日からまた探索していくことにしよう」


「賛成。少し疲れたわ。休ませてもらいます」


 それからこれから戦闘になった場合の軽い打ち合わせをして、各々部屋に入っていった。


「なぁイザナギ。起きているか?」


『あぁ、起きている』


「もし、適合者が人間じゃないとして、最初にとる行動って何だと思う?」


『うむ……生きる場所の確保……知性がないものが我が力を欲したならば本能で生きることを最優先にして能力を使ったはずである』


「なるほど……有り得ないとは言わないんだな」


『有り得なくはないのでな』


「嫌なこと聞いちまったぜ」


『すまぬな、我らもこの形ではあれど生きている。適合者と意思が合えばどんなことでもするだろう。ましてや、我らは主らの心の一部を食料として生きている。適合者に似ていくのも必然といえよう』


「そうだったな、よくわかったよ……明日から大変だ。今日は早めに寝ておこう」

『すまぬ』


「お前が気に病むことじゃないよ」


『……すまぬ』


 最後までイザナギは謝っていた。自分に非があるとでも思っているのだろうか? 俺はお前がいなかったらとっくに死んでいるのに。とにかく疲れた。今日はもう目を瞑ろう……

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