第6話 これから……

 意外なところに犯人がいた。そんな犯人がいたところに俺は忍び込んだわけだ。


「そもそも、立ち入り禁止の場所にどうして入っていったの?」


「そりゃあ……ねぇ麻由美さん?」


「はぁ……まぁ探求する者としては未知のものに惹かれる気持ちは分かるけど……」


「でしょ!」


「節度は守ってほしいわよね」


 ぐぐぅ……麻由美さんだって勝手に俺達のことを研究してたくせにぃ!


「あんたがどうしようもない発掘オタクだってことはわかったわ」


「まぁ話を戻すけど、鉱石の適合者だったら少なからず生きている人間はいるかもねってこと。たとえ鉱石の適合者でもこの世界で生きるのは難しいってことね」


「いや、食料さえあれば意外と生き残れるかもしれないぞ?」


「……どういうこと?」


「この活性化という現象には想像を超える身体能力の増加もあるんだ。さっき外に出た時、自分の身体能力が異常なほど高くてびっくりした。あの砲撃くらいなら簡単に壊せる」


「そんなはずないわよ。私は全然強くなれてなかったわ」


「恐らく活性化している時間によるんじゃないか? 長いこと活性化されていたために身体能力もあり得ないほど上昇している。麻由美さんは活性化されてからずっとここにいるんでしょ? 気付いてないだけじゃないの?」


「そんな……」


「まぁ俺はこれから生存者を探してみようと思う。鉱石の適合者じゃなくても適合者の近くにいれば生きている可能性があるんだ」


「それならあたしも行くわ、ここにいても仕方ないもの」


「私も行きます……少しでも希望があるなら」


相沢と常坂はもう前を向いて少しの希望を胸に抱いていた。それにそうだ、このままここにいたって何も始まらない。


「はぁ……じゃあ私も行くわよ。あなた達の研究はまだ終わってないんだから」


「決まりだな」


 外に出る支度を整えると……と言っても、支度があるのは麻由美さんだけだったが、出口に向かって歩き出した。


「麻由美さん……そんなでかいリュック軽々と背負っているけど、中に何が入っているの?」


「女の所有物を何の気なしに聞いてくるなんてデリカシーのない人ね」


「……ババァのくせ」


 ずごぉぉぉぉーーーん!!


 俺は一人天井を突き破って一足早く外に出ていた。イザナギのおかげでダメージはゼロだが、衝撃までは吸収できないらしい。麻由美さん、人を一階から十階の天井吹き飛ばすまでの攻撃力がありながら、この世界で生きていけないとか有り得ないですよ?


 俺は外の空気に触れる。何とも清々しい風だ。とても戦争で滅んだ世界だとは思えない。所々、草木がなくなっている場所があるが、あのミサイルの被害後だろう。


 ぴぴーぴぴー


「またか……あいつらが上がってくる前にもう少し破壊しておくか」


 鉱石で守られているとはいえ、初めての経験だとまだ破壊できないかもしれないし。俺だって、全員を守りながら壊せるか分からない。まだ、アマテラスとツクヨミの能力が分からない以上、今は俺がやるしかない。


「うおりゃぁぁぁぁ!!」


 空調で空気を蹴り、砲弾まで一直線に進む! 鉱石を纏った右腕で破壊した。


「一体どれくらいの砲台を設置したんだ世界の重鎮は!! 絶滅させるにしてもやり過ぎだろ!」


 少し愚痴をこぼして出口まで戻る。ちょうど三人が上がってきたところだった。


「なんか叫んでいたみたいだけど、どうしたの?」


「いや、美少女三人と旅ができることが嬉しくなって近くの砲台破壊してた」


「あいや~、美少女なんて照れるだが……!」


「ジジイのあんたにとってはこれとないご褒美なのかもね」


「なんでもいいけど、節度は守ってくれないかしら」


「麻由美さんが一番節度ないと思いますけど」


「あんたいい度胸ね」


「おい、どうでもいいからとりあえずどこに向かうか決めようぜ」


 麻由美さんと相沢は少し人間として合わないのかもしれないな。俺も麻由美さんは少し気に食わないところがあるけど、相沢も大概だ。とりあえず今は麻由美さんしかこの世界の情報に詳しい人間はいないから頼るしかないんだけど。


「麻由美さん、ここは日本のどのあたりなの?」


「うーん、たぶん神奈川県辺りじゃないかしら?」


「なんで曖昧なのさ?」


「何せ50年経っているからねー私もどの辺か忘れちゃったわよ」


「役に立たないオバサ」


 相沢がオバサンと言おうとしたら、麻由美さんから黒い殺気が感じられた。麻由美さんの足元の草木は枯れ、漆黒の炎がメラメラと麻由美さんの周りを漂っている。これはイズノメの力じゃないな。ガチで怖いやつだ……


『西へ進め主殿』


「西? まぁ暖かいから西の方でいいんだけど、西ってどっち?」


「そんなことは太陽見れば、分かるたい」


「何で西なの?」


『恐らくではあるが……私達と同じ、神の気配が漂っている』


「お前、そんなん分かるの?」


『恐らくである』


「そうか、まぁ行く当てもないし、とりあえず西に向かうか」


「そうね、途方もない話だけど、行くしかないのよね」


「お前らにとりあえず言っておくけど、話にあった砲台、意外と高性能だから気をつけろよ? 今の内に鉱石の能力を把握しておかないと死んじまうぞ?」


「そうね、何とかしておくわ」


 周りを確認していた常坂が、鼻をクンクンさせて何かやっている。


「ねぇねぇ、なんかあっちの方から動物の臭いがするよ? 動物いるのかな?」


「動物だって? いないだろ。そもそもまだ動物がいるのなら、世界も大飢饉になんてならないよ」


「でも50年経ってるし……」


「まぁ、アバスクトリクスがあればもしかしたら飼ってる人間がいるのかもしれないわね」


「可能性の話だろ?」


「でも、今はどんな可能性にも飛びつくしかないんじゃないかしら?」


 むむ……。そうか、そうだな。


「じゃあ、とりあえず行ってみるか、イヌ坂」


「イヌじゃないっぺ!」


 自分の意見が取り入られて少し嬉しかったのか、しっぽを振って笑顔なのにセリフは怒っていた。まるで子供だ。いや、こいつは本物の子供だった。


 イヌ坂を頼りに、獣の臭いが強い方へ進んでいく俺達だった。

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