第5話 鉱石の能力
考えてみれば当たり前だ。元々俺を手に入れればいくらかは大飢饉から逃れられることができる。しかし、俺が死んだら結局全員死ぬ。なら最初から全員殺して戦争だったと片を付ければいいだけだ。結局全員死ぬんだから誰も文句は言わない。
「あなたはどう考えているか分からないけど、50年経って化学兵器の効力もなくなった今、ここから抜け出していくのは得策じゃないと思うんだけど」
「研究者ってのはいつも合理的にしか自分の行動を決められないからな。俺はここにずっといる気はない」
「……」
麻由美さんは黙ってしまった。少し強く言い過ぎただろうか? でも、理屈ではどうすることも出来なかったことは分かっても、感情が付いていけない。
「あの……」
塞ぎ込んでいた常坂と相沢が少し落ち着き、俺達に話しかけてきた。
「さっき麻由美さん、人類は私達だけかもしれないって言っていましたよね?」
「ええ、そうね」
「かもしれないってことは、もしかしたら生きている人はいるかもしれないってことですよね? それはどういう人たちなんですか?」
「本当に可能性の低い話よ? それでも聞く?」
「はい、よろしくお願いします」
「私達は鉱石の適合者だって、さっき話したわよね」
「はい」
「実はこの鉱石、適合者の近くであれば食することはできるの」
「つまり、私たちも食べることには困らないってことですか?」
「そういうこと。でもね、私はこの鉱石の力【イズノメ】でこの施設を作ったの。化学兵器が届かないようにね。化学兵器は鉱石の適合者でも体を蝕み、いずれ死をもたらすわ、適合者で私みたいな能力を持っていない限り50年間生きることは不可能」
「なるほど……」
「さっきから当たり前のように言っているけど、その能力ってのは一体何なんですか?」
俺もそこは少し気になっていた。まぁ俺で言う絶対防御みたいなものなんだろうけど。
「鉱石の適合者はそれぞれの能力を使うことができるの。私は【イズノメ】。何もない空間に建造物を作りだすことができる」
「ほう……俺はこの絶対防御みたいなやつか?」
「恐らく……適合者は鉱石と会話ができるから話てごらんなさいよ」
「はぁ?? 石と喋れるわけないだろ」
「やってごらんなさいよ」
有無を言わさず、麻由美さんは俺に促す。できるわけないだろと思いながら適当に鉱石に話しかけてみる。
「おおーい。鉱石ちゃん、何か喋っておくれ」
『何だ我が主』
「え?」
『何だと聞いている』
俺は一瞬周りの誰かが喋っているんじゃないかと思って辺りを見回す。常坂と相沢はフリフリと首を横に振って、麻由美さんは「ほらね」とこっちを見て笑っている。
「え……えっとぉ、お名前は何でしょう?」
『我はイザナギだ、先程、挨拶をしたはずだが』
「挨拶……もしかしてあれか……? 夢だと思っていた」
『失礼な主だ。私がお前を守っているというのに』
「つまりイザナギ? あなたが俺の絶対防御ってこと?」
『絶対防御かどうかは知らんが、大抵のことは守れるぞ』
俺は周りを見渡して「……だ、そうです」と力なく答えた。
「常坂と、相沢も話しかけてみろよ」
二人は鉱石に話しかけた。常坂の鉱石は【アマテラス】。能力は太陽の輝き。相沢の鉱石は【ツクヨミ】。月の静けさ。
だ、そうだ。
正直、俺の能力に比べて抽象的過ぎて何ができるのか全然分からない。
『それは仕方ないことだ。私以外の鉱石の力は私から零れ落ちたものだ。私には絶対的な力があるが、その方は断片に過ぎない。会話も片言しかできないであろう』
「つまり、お前が一番偉いってこと?」
『そうだな。偉いというか、我はすべての神の生みの親だ。我を超えるものはこの世界にはいない』
「俺が見つけたからそうなったの?」
『いや、そういうことではない。あの場所は元々我を祭っていた場所だ。主は我の適合者であって我ではない。しかし我を起こすのに同等の力があったというだけだ。主が来たことにより、我は眠りから覚めこうして意思を持つことができたのだ』
「俺が、あそこに行ってなかったら、お前も目覚めなかった。他の鉱石も生まれなかったってことだな」
『左様』
……あの場所がそんな偶然である場所だったなんて。思いもしなかった。
「因みにあんたが入った場所ってどこなの?」
「五神古墳」
「げっ」「ひぃ」「はぁ」
三人してこっちを見てあからさまに引いている。
「なんだよ、俺の趣味なんだからいいだろ」
「よくないわよ、あそこ本当に呪いがあるってすごい噂の場所よ!」
「確か、事故が起こり過ぎて奥まで探索できないまま立ち入り禁止になったんじゃなかったっけ?」
「そう! 最近……ていってももう60年以上前になる訳だけど、新しく見つかった古墳としてすごい注目されたけど、入っていった調査隊はほとんどが帰ってこなかったり、わずかに帰ってきた人は何らかの精神障害に蝕まれて結局死んだっていう……」
「ブルブル……」
「え? そんなヤバいとこだったの?」
『目障りだったから我が少し脅したら、錯乱して崖から落ちたり恐怖のあまり疲弊していた者はいたが……そんなにとはなぁ』
「完全にお前のせいじゃん!」
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