第3話 二人の女の子

「言葉通りよ。後ろの二人が目覚めたら一緒に説明するわ」


「目覚めるんですか?」


「このところ少しずつバイタルに変化があって、あなたもヤバいかなってなった瞬間に目が覚めたのよ、だから……うん、あと、少し」


「バイタルがヤバいって死ぬ寸前ってこと?」


「簡単に言えばそうね」


「マジかよ!? 死ぬまで放置かっ!」


「まぁそんなこと言われても、あなたたち鉱石でガードされているから手が出せないのよ。信じて待つしかないわね」


 あ、そうか。でも確かこの鉱石は俺がいるところだけ強く働く性質があったはずだ。


 俺が何とかできんじゃないのか? もしかしてだけど。


 俺は徐に二人に近付く。麻由美さんも何も言わない。恐らく、俺が思っている可能性を観察したいんだろう。何か気に食わないな、この女。


 二人の前に立ち俺は青いプニプニに触れる。


「頼む、二人を目覚めさせてくれ」


 すると青い液体は鉱石に戻り、その場に転がる。


「……うん、驚きね。安心して、データを見る限りいたって健康体よ」


 胸をなでおろす。俺は二人の顔をぺちぺち叩いて起こした。


「う……うん、ここは……?」


「あれぇ……私……あれぇ?」


「よう。気分はどうだ?」


 ハッとして二人は首がねじ切れんばかりにこっちに振り返る。


「ハアアアアア!!」


 ぶにゃ。


 俺を悪の組織かなんかと勘違いしたのか、急に蹴りかかってくる。


 しかし、攻撃は俺には届かない。鉱石が形を変化させて俺を守っていた。


「なっ! 岩をも砕くお母さん直伝の蹴りが防がれた!」


 ……ちょっとお母さん。娘になんてもの教えてんの!


「とりあえず落ち着いてくれ、俺は別にお前らに何もしない」


「嘘だっぺ! 都会は怖いとこだけぇってお母さんが言ってたんよ! 特に男の人は要注意だって言ってたんよ!」


「お前が田舎娘ですこぶる元気なことはわかったから、とりあえず落ち着け。麻由美さんっ! こいつお願いします!」


「あぁ、はいはい」


「俺はこっちの子に声掛けてみます」


 俺たちのことを遠くで怯えて見ていた女の子の近くに行く。


「あの、大丈夫かい?」


 俺は屈んで敵意がないことを伝えるように優しく声を掛ける。


 その子の顔を見て、俺は固まってしまった。


 その子は体の震えを両手で押さえつけるかのように座り込んでいたが、その顔は獲物を見つけた殺人者のごとく邪悪な笑みを浮かべていた。


「ぅ……くけ……くく」


「おい……大丈夫か?」


「見つけた……見つけ……でもまだだめ……もっとくる」


「おい!」


 その瞬間、震えていた女の子は後ろに大きく仰け反り、また気を失った。


 おい……ほんとに大丈夫なのか?


「どうしたの?」


 麻由美さんが様子を伺いに来る。


「どうやらまだ錯乱してそうだった。また気を失っちまいましたよ」


「そう、無理もないわね」


 俺は説明の続きをしたかった。起きてほしいんだけどな。徐に倒れた女の子の顔をぺちぺち叩いてみる。……なかなか起きない。


 回数を重ねるたびにどんどん強めに叩く。急病人の意識を確認する作業と一緒だ。


「おーい……おおーい! おおおぉいいい!! ブパァ!!」


  最後に思いっ切りビンタしようとしたのに、気付いたら腹に激痛を感じ、地面にへたり込んでいた。


「うるっさいわね! ぶっ殺すわよ!!」


「おおぅ……」


 恐ろしいほどの速度で放たれたパンチは俺の胃を破壊していた。


「あれ? ここどこ……?」


 しかも無意識で……


「ここは私の研究所よ。ようやく起きたのね」


「あなたは誰ですか?」


「私は優木麻由美。ここの研究所であなたたちを研究していたのよ」


「……どういうことよ」


「まぁみんな目が覚めたことだし、一から説明しましょうかね」


 そう言い、麻由美さんは先程の説明を始めるのであった。




 麻由美さんの話を聞いた二人は放心していた。


「私の家族はどうなったんですかね? 私、アイドルになって両親に楽してもらおうと思って、頑張ってみようと思っていたのに……」


「あたしだって……今以上にちやほやされて世界中にあたしの可愛さを自慢するつもりだったのに……」


 どこまでも腐った奴かもしれないな、二人目。


「まぁショックなのは分かったけど、とりあえず君らの名前を教えてもらえないか?」


「……そうね、不本意すぎるけど、とにかく今はここにいる人間で生きていくしかないものね、協力する他ないか」


「私は常坂あかねです。16歳です」


「あたしは相沢佳凛。18歳よ、でも、50年経っているから68歳?」


「いやいいだろ18歳で。俺は荒木元春だ。元々は55歳だったはず」


「「55歳!?」」


「仕方ないだろ。活性化したんだから」


 それは本当に仕方がない。というかここまで麻由美さんの話を全部信じてきたけど、実際に本当なのか確かめないといけない。


「麻由美さん、信じてない訳じゃないんだけど、今までの話、本当のことなんだよね?」


「嘘を言っていると思う?」


「私もまだ信じられません」


 常坂が便乗してくる。相沢も俺を見ながら首を縦に振っている。そりゃ、いきなり自分たちが50年後の世界で目覚めて、しかも鉱石の力で若さを保ったままだと言われて信じるやつはいないだろう。


「少し確かめさせてくれないか?」


「いいけど……どうするの?」


「少し外を見させてくれないか?」


「分かったわ。でも、危ないから私は行かないわよ?」


「危ないって何が?」


「アメリカ軍だったかな? 弾を自動生成するミサイルが人間の生命反応を感知して自動的に発射するのよ。それを何個も日本に作って根絶やしにしたの」

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