第2話 優木麻由美の話

 ……騒がしい。一体なんだというのだ。今。すげぇ心地いいんだから黙っててくれ。


 眠りを妨げられた俺は、イラつきながら目をゆっくり開ける。


 ……?


 ……どこだここは?


 というか俺は何していたんだっけ? 確か……暇潰しにアイドルオーディションを友達と見に行って、それから……


 ……そうだ、爆発したんだ、会場が。それで俺は多分気を失ってしまったんだろう。


 現状、生きているのかも定かじゃないな。むしろあの爆発で生きているわけないか。


 てことは、ここは天国か? 天国ならもうちょっと寝かしてくれ。


 再び目を閉じて寝ようとする。


 あれ……? 俺、死んだの?


「主は生きている」


 突然、頭に声が響く。


「誰だ!」


「我は神、イザナギ。貴様の心を媒体に生きている」


「俺の心を……?」


 意味が分からず、また目を開ける。


 すると俺は今、体を青い液体のようなものに包まれていることが分かった。液体の外で見知らぬ女性が俺を見て驚いている。


 何とかしてこの液体から抜け出そうとしたら、青い液体はみるみるうちに小さくなっていき、俺が発見したアバスクトリクスになり地面に転がった。


 とりあえず鉱石に戻ったアバスクトリクスを拾い、今いる場所を見渡す。


 薄暗い研究施設みたいな場所だ。アニメなどで出てくる人が入れるくらいのシリンダーが何個も設置されていて、実際に人が入っているものもあった。


 俺の横にはまだ若い高校生くらいの女の子が俺と同じように青い液体に包まれてその場に寝転がっていた


「これは……どういうことだ?」


 俺が呆然としていると先程の驚いていた女性が少し落ち着きを取り戻し話しかけてきた。釣り目の赤い眼鏡をかけた黒髪のロングの白衣を着た女性。『私、頭良いですけど』と言っていそうな優等生っぽい感じの人である。


「ご気分はいかがですか?」


「いや、ちょっと色々分からなくて……何が何だか……」


「無理もありません。貴方は今まで50年もの間眠っていたのですから」


「はい? 言っている意味がまったく分からないんですけど」


「順を追って説明いたします」


 少し威圧的に感じたが、女性は近くにあった椅子に腰掛け、パソコンのキーボードみたいなものを操作すると、床からもう一脚椅子が現れ「どうぞ」と手を添える。


 俺は差し出された椅子に座り、説明を待った。


「まずは、私についてだけど、私はこの施設であなたたちの研究をしている優木麻由美」


「あなたたち?」


「そう……。あなたと、後ろにいる二人ね」


「この二人は誰ですか?」


「私が知りたいわ」


「……」


「続けるわね。まずあなたたちは50年前、この場所が爆撃された後、さっきまでの状態で発見されたの」


「……」


「私はここで50年間あなたたちを見ているの」


「なるほど……」


 ツッコミどころが多すぎて何から質問していいか分からん! 研究者っていうのはほとんどが説明下手だ。


 とりあえず今の話を掻い摘んで質問してみよう。


「ええと……まずあなたはだれですか?」


「私は研究者。優木麻由美。さっき言ったわ。50年前にあなたたちを見つけて以来、ずっと研究させてもらっているの」


「んなわけないっしょ、どう見てもあなた20代そこそこに見えますよ?」


「あら、本当よ。見た目の話で言えば20代なんでしょうけど」


「え、と? つまり……?」


「あなたが見つけた鉱石、アバストクリクス。これは適合者の体を活性化させる力があるの」


「活性化……?」


「肉体のピークの時間を無理矢理引き延ばしているようなものね。適合というより、寄生とか融合に近いとも考えているけど」


「……つまり適合者は若いまま、この鉱石で守られていて命は助かったと……しかしなかなか目覚めずにいつ目覚めるのかもわからぬまま50年の時が経ったと」


「そういうことね、現にあなた今、20代前半くらいの見た目になっているわよ。私が見つけたときは60近いおじいさんだったのに。長い年月をかけて活性化されたからもぅ昔の老人には戻れない」


「20代前半!?」


「活性化しているからあなたのピーク時の状態に変わっているのよ」


「……」


 俺が見つけたこの鉱石にこんな力があったなんて……。


「そういえば適合者って他にもいるのか?」


 女性は静かに首を横に振った。


「私たち四人だけね、たぶん。ていうか今の日本で生きているのは私たちだけって可能性もある」


「どういうことだ?」


「言葉通りよ。後ろの二人が目覚めたら一緒に説明するわ」


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