第10話 蛇目男

 俺は急いでフードを被りながら武器屋の外に出た。俺の身体は半分死霊だ。死霊は陽の光を浴びると身体が四散する。


 今の俺が陽の光を浴びるとどうなるか分からないが、用心の為にフードを頭に被る。外に出た俺は自分の影を確認した。


 間違いなく太陽はその姿を見せている。なのに、何故死霊達は動けるんだ!?死霊達の主な行動時間は夕暮れから夜。または太陽が雲に覆われている時だ。


 死霊の数は十体程だ。昨夜破壊され、まだ修繕が放置されたままの門から侵入したと思われた。


「きゃああ!し、死霊よ!」


「ま、また現れたぞ!どうなっているんだ!


 北門の側で、死霊を目撃した住民達が悲鳴を上げる。幸運にも今しがた装備を整えた俺は、迷わず死霊達に斬りかかって行った。


「ラークシャサ!初陣だ!」


 俺は「神食いの剣」と呼ばれる呪われた剣を握り締め、黒い刀身を死霊の頭部に突き刺した。


 若い男の死霊は、俺の一撃で頭部を貫かれた。二体目、三体目も同様に倒して行く。何だ?死霊達の動きが妙に鈍い?


 何故太陽を浴びて動けるのか分からないが

、陽の光が死霊達の動きを鈍化させているのかもしれない。


 俺は反撃らしい反撃を受けずに、死霊達を全滅させた。


「······なる程。試作品は太陽の下では動きが鈍いな。やはりまだ改良の余地ありか」


 その声に、俺は顔を上げた。声の主は街を囲う壁の上に立っていた。黒髪に黒い甲冑。俺を見下ろすその細い目は、蛇の目を連想させた。


 男は壁の下に降り立った。俺は油断せずに剣を構える。


「私はハーガット軍少佐、ロエロだ。昨日百体の死霊達がこの街に侵攻した筈だが、まさか君が倒したのかな?」


「倒したのはこの私よ。その半分死霊の子供じゃないわ」


 俺がロエロと名乗った男に返答する前に、俺の背後からレファンヌが大仰に答えた。


「ハーガット軍少佐とやら。あんたが連れてきたあの死霊。何故太陽の下で動けるの?」


 レファンヌは腕を組みながらロエロに質問する。ロエロは沈黙していた。レファンヌを見た途端に、鼻息を荒くしているような気がする。


「······何と。何と美しい娘だ。特にあの豊かな胸。私の好みを全て満たしている!」


 ロエロはだらしなく口を開き、好色な視線をレファンヌに送る。コ、コイツ本当に少佐か?女に見惚れてないで仕事しろよ!


「大声男の次は好色男ね。ハーガット軍の人材不足は深刻の様ね」


 レファンヌは冷たい目でロエロを睨む。蛇目の男は、用心する様子も無く俺達に近づく


「金髪の娘よ。私の愛人にならんか?そうすれば全ての罪を水に流そう。私にはその力がある」


 ロエロはかなり興奮した顔をこちらに向けた。駄目だ。コイツは完全にレファンヌを愛人にする事しか考えていない。


 その時、俺のすぐ横を風が通り過ぎた。その風は空気を切り裂き、ロエロの右肩を切りつけた。


「ぐわっ!?」


 ロエロが苦痛に顔を歪ませ、左手で出血した右肩を押える。俺はレファンヌを見ると、

彼女は銀の杖をロエロに向けていた。


 い、今のはレファンヌの呪文か!?


「······か、風の刃の呪文か。素晴らしい威力だ。金髪の娘よ。お前が死霊達を倒したと言うのは嘘では無いらしいな」


 俺はロエロを見て嫌な予感がした。肩に大きな疵を負いながら、この蛇目男は薄ら笑いを浮かべている。


「所詮下っ端って訳ね。重要な情報は持ってないならもう消えて貰うわ」


 レファンヌがロエロに再び杖を向ける。


「ま、待て娘!死霊達が何故、太陽の光を浴びても動けるか。質問はそれだったな。教えてやろう。聞いて驚く······」


 蛇目男が言い終える前に、レファンヌの凶器ブーツがロエロの顔にめり込んだ。


「ぶぇっぷ!?」


 ロエロは口から血を吹き出し倒れた。て、

敵ながら憐れな奴だな。一体アイツは今の一撃で何本歯を失ったんだ?


「ほ、ほのれ!ヒサマこんな事をして、どうなるか、はかっているんだろうは!?」


 しぶとく立ち上がったロエロは、歯の半数を失ったせいか、ろれつが回っていない。いや、もう何を言っているのか分かんないよ。


「はたしのほの姿をひてほどろくなよ!」


 蛇目男が何やら絶叫したと同時に、奴の右腕に異変が生じた。右腕が異常に伸びたと思ったら、その腕は隆起し太くなる。


「な、何だよコイツ!?」


 俺は驚きの声を発した。ロエロはその声に満足したかの様に、血に染まった口を釣り上げた。

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