第11話 決意

「ひさまら!はくこしろよっ!!」


 正しい発音を失った蛇目男が絶叫する。長く太く隆起した腕は蛇の様にしなり、レファンヌを襲った。


 鈍い炸裂音と共に、ロエロの拳が地面に突き刺さった。レファンヌはそれを身軽に跳躍し回避した。


「こらキント!あんた私の盾でしょう。しっかりと仕事しなさいよ!」


 くっ。人を物みたいな言い方をしてからに

。だがあの長い腕。間合いを取るのが難しいぞ。


 ロエロの右腕が再びレファンヌを狙う。だが距離を取っていた彼女には届かなかった。

あれが射程の限界か!?


 ロエロとレファンヌの中間地点にいた俺は駆け出した。あの長い腕が俺の元へ到達する前に、奴への俺の攻撃が先に届く!


 だが次の瞬間、俺は巨大な拳に殴られていた。


「な、何で?」


 地面に叩きつけられた俺か目にしたのは、エロエ長く伸びた右腕が元の長さに戻っている光景だった。


 あの長腕!収縮の速さが尋常じゃないぞ!

俺は何とか立ち上がり、蛇目男の前に向き合った。


「ほぞおっ!はじゃはてするはら、ひさまからじぇまつりにしすぞ!!」


 ロエロが鬼の形相で何かを喚いている。だが俺は引かなかった。俺はハーガットを殺すと誓った。


 その配下の連中に負ける訳には行かないんだ!


「じゃはひねっ!!」


 ロエロの右腕が伸び、勢いそのままに俺に向かって来た。俺はラークシャサを両手で握り、奴の拳に叩きつける。


 拳と剣がぶつかり合い、鈍い音がした。俺の一振りは奴の重い拳を相殺させた。だがロエロは長く伸びた腕をしならせ、連続攻撃を俺に放つ。


「うおおおっ!!」


 俺は奴の連撃を全て弾き返した。村にいた頃の俺は、剣なんて握った事も無かった。だが、死霊になってからの数多の戦いで、俺は嫌でも戦い慣れして行った。


「何よ。やれば出来るじゃない」


 レファンヌの声が後ろから聞こえた瞬間、

俺の頭の上を何かが通過した。それが風の刃だと分かったのは、ロエロの腕が切断された光景を目撃した時だ。


「今よキント。止めを差しなさい!」


 レファンヌの声と同時に、俺は突進していた。


「はがが。ふでがあっ!わはしのふでがぁっ

!」


 泣き叫びロエロの間合い入り、俺はラークシャサを振り抜いた。胸を斬られたエロエは表情が固まり、ゆっくりと背中から倒れた。


「ハァッ。ハァッ」


 俺は息を切らし、腕で額の汗を拭った。そして妙だと思った。少佐と名乗った奴の共が

死霊十体なんて少なくないだろうか?


「あーあ。ロエロ少佐、やられちゃいましたか?」


 その声に、俺は顔を上げる。壁の上にまた黒い鎧の男が立っていた。茶色い髪に小柄な身体。


 男は俺とレファンヌを交互に見る。


「どうも。僕はハーガット軍大尉、ロコモ。

死霊達を二度も全滅させたのは、どうやら君達みたいだね」


 ロコモと名乗った男はレファンヌを見ていた。指で頬を掻き、小さくため息をついた。


「金髪の美女さん。その白い法衣。貴方はロッドメン一族だね」


 ロコモの言葉に、レファンヌは不機嫌な表情を隠さなかった。


「ハーガット軍の大尉とやら。私をその一族と一緒にしない事ね。不用意な言葉は、身を滅ぼすわよ」


 レファンヌの不吉な言葉を聞き流す様に、ロコモは俺か倒した死霊を見下ろす。


「その死霊はハーガット様の試作品でね。太陽の光を浴びても動ける連中だ。けど、まだまだ動きが鈍いみたいだな」


 ······試作品?た、太陽の下でも動けるって

?ロコモ大尉の言葉に、俺は驚愕した。


「そこで無様に倒れている好色男も、ハーガットの試作品とやらって訳?」


「······勘がいいねお嬢さん。そうさ。ハーガット様は研究者の一面も持ち合わせていてね

。人体を改造する技術にも関心を持たれているんだ」


 淡々と話すロコモの内容は、ハーガットの恐ろしさを改めて知るのに充分だった。奴の目的は一体何なんだ?


 世界を滅ぼす事でも望んでいるのか?


「さてお二人共。ロッドメン一族の関係者なら見逃す事は出来ないな。街の外に騎兵百騎が待機している。大人しく降伏するかい?しないなら、この街に騎兵を突入させるよ?」


 ······ひゃ、百騎!?コイツ等、そんな大軍でこの街に来ていたのか!?俺は破壊されたままの北門に駆け寄り、外を見る。


 ロコモ大尉の言う通り、街の外には騎兵達が待機していた。こんな連中が街に雪崩れ込んで来たら、住人達は全滅してしまう!


「······え?」


 立ち尽くす俺の横を、レファンヌが悠然と通り過ぎて行く。レ、レファンヌ?おいまさか、百騎相手に戦うつもりか?


 俺がレファンヌを静止しようとした時、閃光が煌き、目の前で大爆発が起きた。俺はその時、ロッドメン一族の力を目の当たりにする事となった。


 


 




 

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