4th Story
第88話
あの後、お店はついにリツの常宿になってしまった。関係を持つことで変わってしまうのが怖かったけど、私達はビックリするほど変わらなかった。リツは相変わらず日本とLAを行き来していて、最近は日本に居ることが増えている。親日家のヨーロッパのプロデューサーと仕事をしていて、日本で落ち合って仕事をしているみたいだ。あれから一年、私達は問題なく過ごしていた。
「来週からまた戻らないと」
「そうなんだ。じゃあ、私も自宅に戻る」
「家はどうするの?」
「そうね……あの子達が戻ってきた時に必要だから、処分はしないってことにしてたけど、どうなんだろ?」
「旦那さんのほうは上手くいってるの?」
「うん、仲良くやってるみたい」
「そっか。それは良かった」
私と夫はたまに連絡を取り合っている。
家族のことやその他日常的なことで連絡が必要な時に、お互いの近況も聞いたりした。
◆◆◆◆☆☆☆☆◆◆◆◆☆☆☆◆◆◆◆☆
リツを送り出して自宅に戻り、窓を全部開けて換気をする。さぁ、まずは掃除だ。
ガチャ
玄関が開く音がした。
え?鍵はかけたはずだけど……恐る恐る覗いてみると
夫が立っていた。
「どうしたの?何か荷物?」
久しぶりに見る夫は、少し雰囲気が変わっていた。以前はバリッとスーツを着こなす感じだったけど、なんだか元気がない。仕事、休んだのかな?
「……」
「何かあった?とにかく、入って」
私は夫の背中を支えながら家に入れた。
夫は泣いていた。
「キミに伝えていないことがあるんだ」
コーヒーを飲んで少し落ち着いた夫は、ポツリポツリと話し始めた。
「僕の恋人は癌なんだ」
「そうだったの……」
「癌を告白された時、側にいたい、支えたいと思ったんだ。だからキミに別居を切り出した」
コーヒーに視線を落としたまま、静かに続ける。
「抗がん剤治療を始めて、頑張っていたんだけどなかなか良くならなくて。今日、主治医に呼ばれて覚悟しておいて欲しいと言われた」
「他に治療法はないの?」
「いろいろ試して、今の方法が一番効果が期待出来たんだけど……」
「本人は知っているの?」
「多分、主治医から聞いてるとは思うけど、僕には言わない」
「そう……何の癌なの?専門医に診てもらってるの?」
「うん、いろいろ探して、専門医に診てもらってる。癌は肺と……前立腺」
「前立腺!?」
「うん、僕の恋人は男性なんだ」
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