第53話
ロサンゼルスで仕事があったので藤木家とはフロリダで分かれた。コンドミニアムに戻り一人夕陽を眺める。
綺麗だ──子供達に見せてやりたかったな。
「これ以上はダメなの」
さくらさんの言葉が蘇る。
俺が欲しいものは何か?
勿論、さくらさんが欲しいけど、彼女はそれを望まないし、家族も悲しむだろう。
子供達を悲しませたくない。藤木さんには複雑だけど、さくらさんの大切な人だ。あの家族を壊したくない。だったら俺が引くしかないけど、それ以外に道はないのか?
側にいたい。それだけでいい。
さくらさんの幸せを守りたい。
俺に出来ることは、藤木さんの仕事をサポートして成功させることだ。
揺らぐ気持ちを立て直すように、もう一度自分に言い聞かせた。
伊豆のヴィラでのことを思い返す。
あの時のさくらさんは間違いなく俺を求めていた。
体だけではなく全てを愛してくれていた。
いつもはぐらかされていたけど肌を重ねてはっきりと解った。
「リツさんを愛してる」
その言葉だけで生きていける。
さくらさんは俺に『人の愛し方』を教えてくれたんだと思う。
それまでの俺がしてきたことは、男女の関係は持つけど、面倒になれば切り捨てる。綺麗な女を連れて見栄を張り、パワーゲームに勝つための道具にしていた。女達もそうだった。俺の顔と金と肩書きにしか興味がなかった。
さくらさんは違った。
仕事のことは一切聞かなかったし、バッグやアクセサリーをねだったり、インスタの写真を撮ったりしなかった。二人で同じものを食べて「おいしいね」って言い合ったり、好きな音楽を聴きあったり、何が好きとか、どんなことが楽しいとか、いろんな話をして
俺自身を見てくれた。
そのことが、こんなにも心地よく安らげるなんて知らなかった。仕事で認められるのとは違う、何も持たない俺を丸ごと包み込んでくれるさくらさんに、俺は甘えていたんだ。
だから俺も、さくらさんを丸ごと包み込みたいと思う。藤木さんの奥さんで、子供達のお母さんであるさくらさんの幸せを守りたい。
愛していたい。
これからも。
想うだけならいいよね?
俺の感情が俺の理性を許すまで……
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