第52話
花火が間近で上がる。
「すごいね!」
花火が上がる度にさくらさんの笑顔が照らされる。その横顔をじっと見つめる。このまま、その唇に触れられたなら──
「リツさん、聞いて」
さくらさんが真っ直ぐ俺を見た。
イヤだ。聞きたくない。
「これ以上はダメなの」
「分かってるよ」
花火が俺の足元を照らす。
「分かってないわ。私はリツさんのこと、愛してる。だからこれ以上はダメなの。私もリツさんも不幸になるわ。二人だけじゃなく、周りもみんな」
愛してるのに結ばれない。そんな矛盾したことが、世の中ではたまに起こる。
俺は駄々をこねる子供と一緒だった。
「このままでいいから、側にいたいんだ」
俺はさくらさんの手をそっと握った。
さくらさんは困ったような顔で微笑んだ。
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「ごめんね、置いて行っちゃって」
さくらが走って戻ってきた。
「もう疲れたよ、早く帰ろう」
リツくんも謝ってくれたけど、なんだか元気がなかった。
それぞれ子供を抱っこしたり手を繋いだりして、何とかタクシーに乗り込み、ホテルまで戻った。僕は痛みが治まらなかったから薬を飲んだ。
子供達を寝かせると、さくらが温かいミルクを寝室に持って来てくれた。
「大丈夫?」
「うん、痛み止め飲んだから大丈夫」
マグカップを置いて、さくらにキスをする。
淀みのないキスだった。
何も聞かないでも解る。
僕と佐藤がやり合った時のさくらの言葉を思い出す。
私は誰のものでもないし、あなたも私のものではないの。私の気持ちは私が決めるわ。
私はあなたのことを心から愛してる。
あなたの愛で私の自由を縛らないで。
あなたのことを信頼している。
私は何があっても必ずあなたのところへ戻るから、信じてほしい。
私は何があってもあなたの全てを受け入れる。だからあなたも自由でいてね。
そう言われたって、僕は他の人とデートなんて出来やしない。
僕らの関係はちょっと特殊で、常識的ではないかもしれない。さくらは他の人とデートしたり、もしかしたらそれ以上のこともあったかもしれないけど
他の人のものになることはない。
僕のものでもないけどね。
だけど、必ず僕の元へ戻ってきてくれるし
僕を心から愛してくれている。
僕はさくらに絶対の信頼を置いているし
さくらも僕に絶対の信頼を置いてくれていると信じている。
人の心は縛れない。
だけど、繋がり合うことはできる。
僕達は、お互いの全てを引き受ける。
そういうパートナーなんだ。
長いキスをしながら
こんなに疲れているのに。
ほんとに男ってヤツは。
自分でも呆れる。
さくらの手を取り
僕の下着の中へ滑り込ませた。
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翌日は大きい子チームをリツくんがみてくれたので、僕とさくらは一緒にちびっこチームを連れて回った。まだ痛みがあったので、薬をのんで誤魔化しながらなんとか2日間は過ごしたが、ディズニーワールド後に予定していたロサンゼルスのリツくんのコンドミニアム滞在は次回にしてもらって早めに帰国した。楽しみにしていた子供達には申し訳なかったが……次回、必ずと約束した。
帰国したら、なんだか痛みもなくなった。
なんだ、さくらとリツくんのことが原因だったのかな?まぁ、念のため受診しておこう。
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