第44話
空港に着くと、土方さんのハイヤーが迎えに来ていた。
「やあ、みんなお疲れ様。よく頑張ったね」
乗り継ぎ含め19時間のフライトは大人の僕でもキツかった。
「じいじ!」
末っ子のテンが駆け寄る。
「私も!」
次女のナナも駆け寄り、手を繋ぐ。
「テンちゃんも、ナナちゃんも、来てくれてありがとう」
「こんにちは」
長男のジンと長女のリョウカは大きな荷物を運転手に渡した。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんもご苦労様。来てくれて嬉しいよ」
土方会長は子供達の心をすっかり掴んでいた。
出来上がった衣装を土方さんのご自宅で合わせた時のこと。
その時は奥さまもいらっしゃって、お二人は子供達をほんとうに可愛がってくださった──沢山のオモチャを用意して。元々、お年寄り好きな子供達なのですぐに打ち解け、広いお屋敷にオモチャに大ハシャギだった。帰り際「きっとまた来てね」と、奥様は少し涙ぐまれていた。
しかし驚いたのはさくらのドレスだった。
大胆にスリットが入ったセクシードレス。
「「こ、これを着るんですか!?」」
夫婦で声を揃えて言ってしまった。
「大丈夫、きっと似合うよ」
土方会長はウィンクして言った。
ヘアメイクをしてもらい、ドレスを纏ったさくらは素晴らしかった。
「ママキレイ!」
子供達に誉められ、恥ずかしそうに笑う。
「し、下着は?着けてるの?」
思わず聞いた。ちょっとセクシー過ぎやしないか?
「うん、すごく小さいの着けてる」
初めて見る妻の姿にドキドキしてしまった。
こ、こんど家でも着てもらおう。
ハイヤーで海岸近くのホテルへ向かう。
プライベートビーチのあるそのホテルの1階、テラスから直接ビーチに出られるメゾネットの部屋が用意されていた。
「すげー!直接海に出られるよ!」
最近、親と出掛けることを嫌がる年頃になったジンまで興奮している。
「みんな水着は持って来た?出掛けるまで時間があるから、泳いでいいよ」
土方さんはそう言うと、子供達の歓声に目を細めた。この人は本当に人を喜ばせる天才だ。
財力はもちろんだけど、それだけで出来ることではない。
テラスの扉を開けると、ビーチと地続きになる。最早、ビーチの中に部屋がある感じ。僕達はビーチが見えるように置いてあるデイベッドに座り、冷えたビールを飲みながら海で遊ぶ子供達を見守る。風がベッドの天蓋を揺らすのが心地よい。さくらのひざまくらで寛ぐ。海を眺め、何も言わなくても充実した時が流れる。ただそれだけで十分に幸せだ。お互いにそう思っているのが分かる。いつまでもこうしていたい──
「そろそろ行ってきます」
さくらは仕上げのエステへ向かった。
砂浜で遊ぶ子供達が夢中で穴を掘っている。
「パパー! 埋めるからこっち来て!」
「はいはい……」
ナナ、お願いがおかしいでしょ?
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