第28話

 抜けるような秋晴れの空


 あの浜辺で一人、海をながめながら

 サンドを頬張るリツ。

 レモネードを飲み干し、立ち上がる。


 タクシーに乗り込む


「羽田まで」


 国際線ターミナル

 ロサンゼルス行きのゲートに消える。

 しばらく日本には戻らない。




 ☆☆☆☆◆◆◆◆◆☆☆☆☆☆◆◆◆◆◆




 いつものカフェ

 椅子にもたれかかり遠くを見つめるリツ。


 離れたカウンターでマスターがスタッフと心配そうにリツの様子を伺っている。


「リツちゃん、ここんとこずっとあの調子よね」


「えぇ」


「あれは絶対、失恋ね」


「はい」大きく頷く。


 カフェの扉が開き、懐かしい顔が覗いた。


「いらっしゃいませ」


「あらぁ、リリー姉さんお久しぶり!ケイちゃんも久しぶりね!」


 リリー?


 リツが振り向くと、いつかのガタイのいいイケメンがこちらを見ているのに気付き、思わず歩み寄る。


「あら?リツちゃん、知り合い?」


「リツちゃん?」


 リリーがはっとしてLINEでリツにスタンプを送ると、テーブルに置いたリツのスマホが鳴った。リツとリリーは今までLINEでのやりとりしかなく、対面するのは初めてだった。


「花さんから何か連絡ありましたか?」


「ううん、無いわ、ごめんなさい」


 うなだれてテーブルに戻るリツにはまるで生気がなかった。

 自分が恋愛ごときでここまで振り回されるとは思ってもみなかった。花に出逢うまでにしていたことは「恋愛」ではなく、ただの「火遊び」だ。

 沢山の人から好意を持たれても、自分が愛した人に愛されなければいくらイケメンでもどうしようもない。顔も金も肩書きも抜きにして、一人の人として向き合うこととは?相手を大切に想うこととは?そんな宿題を出された気がする。


「あの女の人、リリーさんとこのスタッフだったんだ」


「花ちゃんかしら?綺麗な人妻よ。来てたの?」


「うん、来てた」


「リツちゃんって、あんなにいい男だったのね。そりゃ花ちゃんもクラッとしちゃうわよね」


「かなりの色男よぉ。あんな姿、初めて見るわ」


 リツの後ろ姿を見つめるマスターとリリーの胸には、いろんな思いが過る。


「私たちも、さんざん失恋してきたわよね……」


「うん。だって、だいたい叶わないんだもん」


「ほんと、辛かったわよね……」


「うんっ」マスターは涙目を通り越して泣いている。


 リリーは花にLINEを送ってみた。


「こんにちは。突然ごめんなさい。山田さんとリツちゃんに花ちゃんの退所のご挨拶をしようと思います。何かメッセージがあれば伝えますが、どうかしら?」


 ほどなくして返信があった。


「リリーさん、ありがとうございます。山田さんとリツさんには「ありがとう。お二人と過ごした時間は、とても幸せでした」とお伝えください」


「わかりました。また働きたくなったら、いつでも連絡ちょうだいね」


「ありがとうございます」


 リツのスマホにリリーからラインが入る。


「花ちゃんからです」


 リリーは花からの返信をそのままリツへ送った。


 リツが振り返る。

 マスターとリリーが両手でハートマークを送ると、リツはかろうじて親指を立てて応えた。失恋がリツのイケメンに磨きをかけることをリリーは願った。









 抜けるような秋晴れの空に飛行機が吸い込まれてゆく。

 爽やかな秋風が吹き抜けた。


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